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希望をともす小さな桜

傷ついた被災地を桜で癒したい
  • 2023年04月27日

 「微力ですけど、前に向かいたいんです」
 6年前に起きた九州北部豪雨の被災地にボランティアで桜を育てる活動をしている男性のことばです。復興工事が終わらない中、傷ついたふるさとを桜で癒やしたいという思いを取材しました。
(NHK福岡放送局 ニュースカメラマン 松永佳奈子)

被災地の“花咲かじいさん”

 九州北部豪雨の被災地に特別な思いが込められた小さな桜が花をつけました。その名も“復興の桜”です。

被災地に咲いた復興の桜

 桜を植えたのは、この地域で生まれ育った井上陽生(はるお)さん、83歳。ひと呼んで“被災地の花咲かじいさん”です。

井上陽生さん

 井上さんが育てる桜があるのは朝倉市の山あいにある杷木白木(はきしらき)地区。被災から6年たった今でも復興工事が終わっていない地域です。

 

福岡県朝倉市 杷木白木地区

 工事が終わるのを待つだけでなく、自分たちでも地域のために何かできないかと、3年前から始めたのが桜を育てることでした。企業やボランティアから寄贈してもらった桜を、被災を免れた場所や自分の土地を中心に150本以上を植えてきました。 

約150本の桜を育てている
井上さん

「人は花を見ると和むでしょう。きれいな花が咲くと人の心は変わるから、そのためには花をいっぱい植えて、明るい集落にしたらまた昔のような和気あいあいとした楽しい集落になるかと思って」

 冬場には木についた虫を取り除いたり、水がたまって苗木が弱らないように排水したりと、桜を自分の子どものように大切にして世話を続けてきました。

地域の盛り上げ役として活動

 この地域を愛する井上さんは、みんなが喜ぶ顔が見たいと、これまでにも自然を利用した地域おこしに取り組んできました。そのうちのひとつが湧き水を利用したそうめん流しです。

地域の絆を深めたそうめん流し(2009年頃)

 15年以上前から始めたそうめん流しは、竹を切り出すところからみんなで協力して準備。多い時は地域の内外から100人以上が集まり、用意したそうめんが足りなくなるほどにぎわっていました。井上さんは小さいながらも和気あいあいとした地域だったと振り返ります。 

地域を一変させた九州北部豪雨

 そんな状況を一変させる出来事が起きました。
 2017年の九州北部豪雨です。 

杷木白木地区の被害

 大規模な土砂崩れが地域を襲い、杷木白木地区でも1名の方が犠牲になりました。被災で家を失った人も含め、半数以上の住民が地域を離れました。

 かつて、みんなでそうめん流しを楽しんだ広場も土砂崩れによって流されたままです。

 

そうめん流しを楽しんだ広場
井上さん

「災害が起きて、人がいないことの寂しさ、これをもうしみじみと感じましたね。楽しんだり、いがみ合ったり、いろんなことをしながら生きていくっていうことが一番幸せかなと思うんです」

もう一度、桜のもとに集いたい

“復興の桜”が花をつけた

この春、井上さんには楽しみなことがありました。 “復興の桜”のもとで初めて花見をすることになったのです。被災後も地域に残った人、離れた人、復興支援のボランティアに参加してくれた人など、これまで地域に関わってくれた人などに声を掛けました。

 花見が行われたのは3月下旬の日曜日。

桜はピンクに色づいた

 天気はあいにくの雨でしたが、20人以上の人が桜のもとに集まりました。桜を見た地域のみなさんからは自然と笑みがこぼれていました。

自然と笑みがこぼれた

集まった人たちからは「心が和みます」、「明るくなりますよね。ちょっと前が見えます」など思い思いの感想が聞かれました。

思いを新たにした井上さん

 花見の最後に井上さんは、いつかこの苗木のひとつひとつが大きな桜並木になり、人が集まる桜の里になるよう夢見ていると教えてくれました。

井上さん

「この桜を大切に育てて、この谷を桜いっぱいにしたいと思っています。それが私の希望です。微力なんですけど、前に向かっていきたいなって思っているんです」

いつか桜の里に
  • 福岡放送局 

    松永佳奈子

    ニュースカメラマン
    2022年入局

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