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Z世代のあなた テレビ見てますか?

  • 2023年04月20日

 最近、“テレビ離れ”という言葉を聞く機会が増えました。
    NHK放送文化研究所の調査では、10~20代のZ世代の若者は半数近くが「一週間で一度もテレビを見ない」という結果でした(全国放送サービス接触動向調査2022)。そこで今回、私たちは「テレビを見ない」というZ世代の特徴や価値観、どんな映像コンテンツを見ているのかを知りたいと考えました。

 取材を打診したのは、「Z世代」だけで構成された、福岡市にあるベンチャー企業。アプリ開発や動画制作を手がける「23(トゥースリー)」です。業務委託式で、18~26歳までの若者80人以上で構成され、ほとんどが大学生。
 「Z世代」を売りにするこの企業を、1か月、取材してみることにしました。
                         (NHK福岡放送局ディレクター 清田翔太郎)

"見たのはワールドカップぐらい"

社長 清水淳史さん(25)

「テレビはありますけど、去年、地上波を見たのはワールドカップぐらいです。基本はネット動画を見ています」
――ではNHKプラスは?スマホで見たりします?
「アプリ自体、入れてないです」
――どうしてですか?
「え?逆に入れる理由がないからですね」

  さっそく社長の清水敦史さん(25)から厳しい意見をいただきました。

「NHKには見ようと思うようなコンテンツがありません。そもそも、普段、僕が見ているメディアの中で、NHKが何をやっているのかが流れてこないから、認知することもできない」

 九州大学芸術工学部に在籍中の2020年に起業した清水さん。かつてお笑い芸人を目指していたこともあり、とにかく「社会にインパクトを与えたい!」と考えてきたそうです。
 きっかけは幼少期から家族で海外旅行に連れていってもらったこと。海外に比べて日本の若者は「個人の力で社会を変えられる」と考えている人が少なく感じ、そんな現状を打開したいと思ったといいます。

 スマホ片手に、よく見るのはビジネス系の動画。経営者ユーチューバーの配信を倍速で再生していました。生活ルーティーンや経営者としての考え方など、倍速なら短時間でたくさんの情報をインプットできるそうです。

「小学生のころ、誕生日プレゼントにもらったipod nanoに夢中になりました。それからスティーブ・ジョブズに興味を持ちはじめ、中学時には『ジョブズを越えるんだ!』と周りに言っていた気がします。自分がいる世界といない世界で、どれだけの差分を生めるか・・・みたいなところが人生のテーマですね」

"テレビがなくても困らない"

法務・経理担当 髙木絢介さん(23)

「代表の清水と違って、僕は安定志向ですね」

 そう話すのは法務と経理を担当する髙木絢介さん(23)。九州大学 法学部出身で、4月から「23」の正社員になります。大手企業への就職も考えたそうですが就活が苦手で諦めたそうです。 髙木さんは、親の影響で政治系のニュースが大好き。知識も厚く、討論番組が好きで、NHKの番組も見てくれている・・・と思ったのですが、まさかの自宅にテレビを置いていませんでした。

――テレビがなくて困らないですか?
 「ないですね。ものの見事にないです(笑)。結論から言うと、別にテレビじゃなくても、情報収集っていう役割は代替できてしまうと思うんですよ」

 髙木さんがよく使うのはYouTube。「おすすめ」画面には政治経済に関する動画がびっしり表示されていました。 
 ですがその多くが、テレビ局が公開しているニュース映像ばかりでした。

「報道機関が出している情報だったら信用性高いかなと思って見ますね。やはり地上波で出すレベルで作られているわけですし」 
――では、例えばスマホやパソコンの画面に“テレビ”という項目があったら見ます? 
「ああ、つけてるかもしれないですね、意外と。もうコンテンツによるとしか言えないです。たとえばNHKさんだと、祖母が好きな“ドキュメント72時間”は私も面白いなと思いましたし」

"(テレビは)リサイクルショップでいいかな"

デザイナー 尾藤大喜さん(23)

 デザイナーの尾藤大喜さん(23)は、今回取材した中で、数少ない「テレビを見る」と答えた方でした。
  実業家の前田裕二さんに影響され、仕事は紙の手帳が中心。企業のロゴなどをデザインしており、日常でインスピレーションを受けたことを片っ端から手帳に書いていきます。 朝、民放の情報番組を見るのが日課で、在宅勤務時はテレビをラジオ代わりに流しながら仕事をするそうです。

  ・・・ですが尾藤さん、この春、九州大学芸術工学部を卒業し、学生アパートから引っ越すことになり、その際、テレビを処分することを決めていました。

「悩んだんですが、まあ、リサイクルショップでいいかなと。以前は、友達や彼女と一緒にいる時、テレビをつけていたんですけど、ここ1年くらいはつけなくなりましたね。そもそも最近はテレビの話題があまり出ないですし」

テレビを見る人はいないのか…?

 テレビを見る人はいないのでしょうか・・・? 他のメンバーたちに聞いていきます。

「23」のメンバー 左から北島さん、渋谷さん、志茂さん

 人事担当の渋谷美優さん(23)。九州大学大学院(共創学部)に通い、女性の健康問題や表象などを研究しています。その理由は、NHKで放送されていた海外ドラマ「glee」を見たことがきっかけだったそうです。
 以前は、よくテレビでドラマを見ていたそうですが、今は自室にテレビさえありません。理由はスマホやタブレットで、サブスクリプションを見るようになったため。

 エンジニアの志茂和貴さん(25)は、なんと北海道在住です。北海道大学工学部を卒業。知人から「23」を紹介してもらい、それがたまたま福岡だったとのこと。リモートワークが普及したからこそ、気軽に仕事を受けられるようになったといいます。 テレビは部屋にありますがゲーム用で、映像はネット動画がほとんど。“東海オンエア”を毎日見るなど、わりと王道が好きと話していました。

 ネット動画には、テレビにはない魅力として「大衆向けでない動画がたくさんある」ことをあげる人も多くいました。

 沖縄在住のエンジニア、與那領輝さん(21)は琉球大学理学部。軽音サークルに所属しています。ライブで演奏する曲の勉強のために「弾いてみた」系の動画をよく見ているそうです。いつでも好きな時間に見ることができ、ニッチな曲でも参考動画もあることが魅力なんだそう。

 建築デザイナーの北島千朔さん(26)は、九州大学大学院(人間環境学府)での研究が忙しく、テレビなど娯楽に時間を使う余裕がないそうです。でもネット動画はたまに見るそうで、理由は研究で使っているソフトウェアの使い方を解説してくれる配信者がいるためです。本だと細かいところまで分からないので、かなり重宝しているそう。 
 ネット動画には、こうした用途もあるのですね。

"「考える余白」が欲しい"

映像ディレクター 桑島圭佑さん(23)

 取材では、私たちと同じく「映像」と向き合う人にも出会いました。 

 この春、長崎大学経済学部を卒業した映像ディレクターの桑島圭佑さん(23)です。
 長崎市から委託された観光プロモーションムービーなどを手がけました。撮影から編集まで全て1人。映像に関係ない経済学部だったため、すべて独学です。
 勉強するときに参考にしたのは、ネット動画や映画。テレビはあまり見ていないそうです。

「番組によって違う気もするんですけど、テレビは作られてる感がすごくあります。作っている側の伝えたい情報がばーんと前面に出ている気がして・・・もうちょっとこっちの“考える余白”が欲しいなと」

 桑島さんの目標はドキュメンタリーを撮ること。 
 
 友人に同性愛の人がいることもあり、LGBTQなどの社会問題に高い関心があって、それを映像の力で伝えたいそうです。そうしたテーマは、NHKでもたくさん伝えていると思っていたのですが、桑島さんいわくNHKには堅苦しいイメージがついているといいます。

「暗くて、説明的というか、教科書を映像にしたんじゃないかみたいなイメージですね。グラフや難しいテロップがたくさんあって。確かに分かりやすいですが、僕は、教科書をめっちゃ好きな人ってあんまりいないと思ってて」

 桑島さんは、将来に向けてもっと力をつけたいと、この春、実家の大分から東京へ引っ越します。修行のため、ベテランの映像監督に弟子入りすることにしたのです。

「やっぱり人の心を動かすのは感情だと思っているので、感情を動かせるような動画を作りたいですね。いろんな難しい理論とかあると思うんですけど、感情がちょっとでも動けば行動も変わってくると思うので」

桑島さん制作の映像作品

彼・彼女たちの"仕事観"

 今回の取材で、みな「テレビは見なくなった」ことは共通しているものの、好きな映像コンテンツが同じ人は一人もいませんでした。社長の清水さんのように「社会にインパクトを!」と意気込む人もいれば、経理の髙木さんのように「安定志向」の人もいて、価値観の多様性も感じました。 

 そんな彼らは、仕事でどんなものを生み出しているのか・・・?

福岡市内 酒屋での打ち合わせ

 福岡市の老舗酒屋は、コロナ禍で売り上げが3割にまで落ち込み、「新しい客層をキャッチしていくしかない」と「23」にリニューアルの相談を2年以上し続けてきました。

 デザイナーの尾藤大喜さん(23)は、新しい店のロゴデザインを開発。若者に受けやすいように、「ちょっと丸めのかわいい感じ」を意識したといいます。 プロジェクトマネージャーの須藤路真さん(22)らは、「バーチャル・ボトルキープ」なる機能が搭載されているアプリを開発。一般的なボトルキープをアプリ上で行い、美味しかったお酒を友人に紹介して共有できるシステムを作りました。

 まだ運用がはじまったばかりで成果はこれからですが、店長の榊晴海さんは「こんなに協力してもらえるとは。ゴールはすぐそこ、なんとか成功させたい」と意気込みます。

レンタサイクル事業者と開発中のアプリ

 レンタサイクル事業者と共同で開発しているのは、観光客向けの自転車と連動するアプリ。
 目的地を入れると、コンパスのように方角しか示されず詳細な道筋は分かりません。観光客に「旅のワクワク感や偶然の出会いを提供したい」と、利便性より話題性になりそうな機能を強調して作ったといいます。自治体の観光客向けレンタサイクルで、実用化も検討されているそうです。

                           画像提供「23」

 こうしたアプリなどの開発で、年間の売り上げは7300万円にものぼり、今年は1億円突破を目指しているといいます。多くの企業や自治体が「若者を呼び込みたい」と考えていて、彼らのニーズはこれからも高まってきそうです。

1か月の取材の最後に…

 今回の取材では、社長の清水さんにメンバーの大勢に繋いでいただきました。
 メンバーの多様な価値観や視聴するコンテンツの幅広さは、清水さんも知らなかったことが多かったようで、取材終了後、とても驚いた様子でした。
 
  一方で、私たちには困惑もありました。

――今回、『Z世代にどういうコンテンツが刺さるんだろう?』と思って企画がスタートしたのですが、結論からいうと、みんなバラバラだったんですよね・・・。 
「今回、僕もビックリするぐらい、本当にいろんな価値観があって、本当にいろんなメディアニュース、コンテンツ見てましたよね。やっぱりそれが答えですよね。もう今の時代、多くの人に見てもらおうっていう考え方自体がナンセンスなのかもしれないです。より深く刺さる人に対して、どこまで彼らの考え方にタッチできるのか・・・数自体を増やすっていう発想は結構難しいなとは思います」

社長 清水淳史さん(25)

 そして最後に、清水さんはこうもいいました。

「僕が言っちゃいけないですけど、Z世代なんていうものは、たぶん存在しないんでしょうね。Z世代を拾い集めていくしかない」
――そうなると、一つのコンテンツを発信し続けるテレビには難しい時代ですね。
「・・・どうしたらいいと思いますか? テレビ側の人から見て、どうしていくのが?」

 清水さんからのこの問いに、私はうまく答えることができませんでした。

 テレビは見なくても、社会問題に向き合い、自分なりの考えを持って前を向き続ける若者たち。思うのは、彼らに負けないよう番組を作り続けたいということだけでした。

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