どうする?学校の喫煙所
- 2023年04月26日
「学校の喫煙所から漂ってくるタバコのにおいがくさくて、困っています」。福岡県内の高校生からNHKに寄せられた声をきっかけに、高校での教員の喫煙ルールがいま、どうなっているのか取材しました。タバコを吸わない生徒と吸う教員の双方の切実な声、そして、専門家をも感動させた共存策とは?(福岡放送局 米山奈々美記者・平岡正臣ディレクター)
取材は高校生の投稿から始まった
視聴者の疑問やお困りごとにこたえるNHK福岡の「追跡!バリサーチ」のコーナーに、県内の高校生から、LINEを通じて投稿が寄せられました。
高校生に直接、取材したところ、学校には教員などが使う喫煙所があって、朝と夕方の登下校の時間帯などにタバコのにおいが漂ってくるということです。喫煙所の周囲にはついたてが置かれているものの、上下はふさがれていないので、漏れ出てくるタバコのにおいの影響で体調や気分を悪くする生徒もいると話していました。
投稿を受けて、学校の喫煙所について国のルールはどうなっているのか調べてみました。
2020年4月に全面施行された「改正健康増進法」により、20歳未満の生徒が通う学校などは原則、「敷地内禁煙」です。ただ、受動喫煙を防止する措置をとれば、推奨はされていないものの、喫煙所を設置することは可能だとされています。
【受動喫煙を防止する措置】
① 囲いを設けるなど、喫煙できる場所を明確に区画
② 喫煙できる場所とわかる標識を掲示
③ 吸う人以外が立ち入らない屋外に設置
法律を踏まえて 県内の高校がどう対応しているのか取材したところ、県立高校は「全面禁煙」で、私立高校は学校ごとに対応が異なることが分かりました。
そして、次の円グラフが県内の私立高校60校の対応を個別に取材した結果です。
3割余りが「喫煙所がある」と答えた一方、およそ7割が「喫煙所はない」と答えました。この中には「改正健康増進法」の全面施行をきっかけに喫煙所を撤去したという学校も多くありました。 そのうちの1校を取材しました。
どうして全面禁煙に?
福岡市中央区の筑紫女学園高校です。3年前の「改正健康増進法」の全面施行にあわせて、敷地内の全面禁煙に踏み切りました。
「教員のための喫煙所はあえて設けず、全面禁煙にする」。そう決めた理由は、生徒からの「先生がタバコくさくて授業に集中できない」という声だったといいます。
全面禁煙にしてよかったことは?
やはり生徒のほうからくさいとかいう話は全く聞かなくなりました。それは良かったかなと思います。先生方のほうには聞いておりませんけど、どうでしょうかね…。これは喫煙者の先生に答えてもらいますかね(笑)
校長から指名された喫煙者は、教頭の栗山宏之先生です。 校舎の裏にあった灰皿とベンチの撤去が決まったとき、喫煙者の教員の間からは「なんとかならないか」と言う声もあがったということです。
栗山宏之先生
「教頭先生なんとかしてくださいよと。プレハブの喫煙所でもなんでも作れませんかと。でも、やっぱり学校で決めたことはね、みんなで守っていくしかないねということで、受け入れました」
当時、20人ほどいた喫煙者の先生たち。校内が全面禁煙になったことをきっかけに禁煙した人もいれば、お昼休みの時間を利用して学校から離れた場所にある喫煙所で一服してくる人もいるそうです。
喫煙者と非喫煙者、それぞれ思うことがある
最初に全面禁煙に踏み切ったケースをご紹介しましたが、みなさんは学校での教員の喫煙についてどう思いますか?街頭で話を聞いてみると、自身が喫煙者か否かで意見は真っ二つに分かれました。
目の前で教員が喫煙していることを見てタバコを吸う生徒もいたので、良くないだろうなと思います
私たちが納めるタバコ税でいろんなことしているでしょ。あんまりタバコを吸う人をいじめないでね
共存は可能?専門家に聞いてみた
では、生徒と喫煙者の教員がうまく共存できる道はあるのでしょうか。喫煙対策の第一人者として知られる、北九州市の産業医科大学の大和浩教授に聞きました。 大和教授も以前は喫煙者で、7回の失敗を経て、禁煙を実現したそうです。
大和浩教授
「吸っている人の気持ちもわかりますし、やめたらどれだけ体が楽になるか知っていますから、それをいま、吸っている人たちに味わってほしいんです」
喫煙者と非喫煙者の双方の立場を身をもって知る大和教授。これまでの研究で特に印象に残っている共存の取り組みがあるといいます。
京都のある高校の事例があります。とっても感動しましたね
大和教授も感動!その取り組みとは
取材班が訪ねたのは、京都市北区の洛星高校です。
早速、副校長の藤原先生に喫煙所を案内してもらいました。玄関から歩くこと2分。校舎の外の駐車場の一角に喫煙所がありました。プレハブ小屋を使い、タバコの煙が周囲に漂いにくいようにしています。
この喫煙所、単に、ふだんは生徒が立ち入らない場所に設置されているだけではありません。中をのぞいてみると、大和教授を感動させた共存の取り組みの核心と言えるものがありました。壁の貼り紙の内容に注目してください。
教員がタバコを吸う場合は、授業開始まで45分空けるというルールを決めて、守ってもらいましょうということにしました
どうして45分なのか?そこには科学的な根拠があります。受動喫煙のうち、他人のタバコの煙そのものを吸い込んでしまうことを「二次喫煙」、そして、火が消えた後も喫煙者の呼気などに残るにおいや化学物質を周りの人が吸い込んでしまうことを「三次喫煙」といいます。
大和教授の研究では、この三次喫煙を防ぐのに必要な時間、つまりタバコを吸った人の呼気が喫煙前の状態に戻るまでにかかる時間が45分とされているんです。
吸う前の口臭のレベル、この赤い点線に戻ってくるのに45分かかってるんですね。吸ってる人はわからないんですよ。自分がタバコくさいというのは。喫煙している人も悪気があって、タバコのにおいをさせてるわけじゃないんですよ。気がつかないだけなんです
三次喫煙も防いでこそ生徒と喫煙者の教員が共存できると、洛星高校が取り入れた45分ルール。そこにはある生徒の奮闘があったといいます。
喫煙ルールの見直し訴え生徒会長に
喫煙ルールの見直しを主導したのは、今は大学1年生の井上天智さん。洛星高校に通っていた当時、先生たちからの三次喫煙に悩んでいたといいます。
井上天智さん
「自分自身にぜんそくがあったり、そういう呼吸器系のちょっと持病があって。のどが痛くなったりぜんそくが出るっていうのが、やっぱりいちばんきつかったですね」
悩んだ井上さんはある決意を固めます。それは…。
生徒会長への立候補でした。教員などの喫煙マナーについて学校をあげて考えたいと訴え、見事、当選したのです。
タバコを吸っている先生には個別に言いましたけど、きりがない。生徒全員の意見となったら、それは力を持つようになるんじゃないかと考えました
生徒の気持ちを受け止めた学校側も、本気でこの問題に取り組み始めました。それまで校舎の中にあった喫煙所を校舎の外のプレハブ小屋に移しました。 さらに、45分ルールを取り入れることを、学校側から生徒会に提案したのです。 それにより、井上さんたちの学校生活は一変したといいます。
改善されて、本当に全くしんどくなくなりましたし、全然違いますね。本当にありがたいなと思いましたし、言ってみる、行動に移すというのが、すごい大事だなと思いましたね
実は喫煙者の藤原先生も、このルールができて以来、45分を意識してタバコを楽しむようになりました。 そうしたところ、意外なメリットが…。以前よりも仕事のメリハリがついたといいます。
授業の直前には吸えないから、まず吸って、それから45分の時間を有効に何かほかの仕事をする。授業の準備するとか。ちょっと仕事の段取りも変わるかなというふうに思いますね
声を寄せてくれたキミへ…
最後に、井上さんと藤原先生に番組に投稿してくれた生徒にアドバイスはないか聞いてみました。
そういうのは遠慮なく先生に訴えればいいと思いますね。それは、どっちかというと吸っている人間はわからないので。どういう影響を周りに及ぼしているかということをですね。先生がしっかり受け止めてもらっていろんな対策を考えてもらえればいいかなと
先生って評価する側じゃないですか。ちょっと権力に差があるというか、そこがたぶんその生徒さんもちょっと怖いところなんじゃないかなって思うんですよ。僕も実際、怖かったですし。だから、そういうときは生徒会を使うとか、みんなで一緒にじゃないですけど、票を集めて意見を通すというのはいちばん筋が通ってるんじゃないかなと僕は思います
取材を終えて
何よりも大事なのは、まず、法律にのっとって受動喫煙を防ぐ対策をとることです。 洛星高校のいいところは、喫煙所を屋外のプレハブ小屋に移しただけでなく、タバコを吸う先生の呼気や服のおいなど三次喫煙への対策もとっているところだと感じました。
学校以外にも、みなさんの身近なところで同じような話はありませんか?お困りの声、また、こうやって解決した!といったお話がありましたら、NHK福岡「追跡!バリサーチ」までぜひ情報をお寄せください。