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避難指示を「事前告知」! 北九州市のねらい

新たな取り組みで促す迅速な避難
  • 2022年12月06日

2022年9月に非常に強い勢力で九州に上陸後、福岡県などを縦断した台風14号。
実はこのとき、市内の21万人に避難指示を発表した北九州市では2つの新たな取り組みが行われていたんです。そのねらいは「住民の迅速な避難を後押しする」こと。
その効果はあったのでしょうか。
(福岡放送局記者 宮本陸也)

住民みずから避難所を開設

 

北九州市小倉北区の日明市民センター

地震や大雨などの災害時に避難所として活用されている北九州市小倉北区にある日明市民センターです。これまでは市の職員が避難所の開設や運営を行っていましたが、2022年度からは地元の住民が避難所の開設・運営を担当することになりました。
北九州市では市内のおよそ500の避難所のうち29か所で試験的に地元の住民が避難所を管理する運用を始めました。
 

北九州市のねらいは2つあります。
1つ目は「素早い避難所の開設」です。近くに住む住民が避難所の対応を対応することで、すぐに駆けつけて素早い避難所の開設につなげることができます。これまでは避難所の開設が決まったら職員が役所から駆けつけて開設の準備をしていたので、大幅な時間短縮になります。
 

2つ目が「避難のハードルを下げる」ことです。開設するのは住民なので、「避難所に必ず知り合いがいる」という安心感で、避難の心理的なハードルを下げることをねらっています。避難所では、被害が予想される中で不安を抱えながら一夜を過ごさなくてはいけません。そうした中で顔見知りが1人いるだけで大きな安心感につなげたいというのがねらいです。

住民説明会の様子

ただ、住民は避難所の開設や運営をこれまでやったことがありません。そこで、2022年7月に市は、対応にあたる地元の町内会の会長などを集めて研修を行うなど準備を進めてきました。この中では、避難所で体調が悪い人が出た際にどのように対応するかどうかや、プライバシーを確保するために設置をする簡易型のテントの組み立て方など、避難所を運営する上で必要な項目を説明しました。

そして、研修のおよそ2か月後の2022年9月。“危険な台風”と言われた台風14号が九州を直撃しました。

避難所の管理を担当した嘉村正隆さん

当時、避難所として活用された日明市民センターの開設や運営を任された嘉村正隆さんです。
地元の自治会で防災の部会長を務めている嘉村さんは、台風14号が接近した際、避難者の動線を確保するための看板や、プライバシーを確保するための仕切り板を設置するなど、避難所を開設する準備にあたりました。

あらかじめ、市から「避難情報を出す可能性がある」という連絡を受けた嘉村さんは、台風接近の前日から、運営にあたるメンバーのシフト作りにとりかかりました。研修を受けた住民に電話をかけて、台風が接近する前から遠ざかるまでの間、2人体制の避難所のシフト表を作りました。

避難所運営のシフト表

台風が接近した当日は、他の住民とともに準備にあたり、スムーズに避難所を開設。
あわせて12世帯14人が避難し、中には知り合いがいたことで避難を決意した人もいたと言います。

台風14号を振り返る嘉村正隆さん

嘉村正隆さん
「住民の方とだいたい顔見知りになっているので、避難してからのコミュニケーションのことも考えると、町内のスタッフが避難所の管理や運営をやったほうがいいと思う。近くに住む私たちだとスピード感を持って避難所を開設できるのでそれも大事だと思う」

避難指示を「事前告知」!

住民の避難行動を後押しする市の取り組みは、もうひとつあります。
それが、避難情報の発表を知らせる「事前告知」です。

避難情報の事前告知のツイート

これは台風14号の接近に伴って事前に発表された事前告知のツイートです。本文を見ると、午前11時に警戒レベル4の「避難指示」が発令されることが2時間前にツイートされました。

市のアカウントで発表されたLINEのトーク

さらに、北九州市のLINEアカウントでも同じ内容の事前告知が発表されました。
このほか、市のホームページでも事前に告知。
今年度から新たに導入した全国的にも珍しい取り組みです。
 

この事前告知は急な大雨の場合にはできないこともありますが、進路が予想できる台風の場合には可能で、住民が素早く避難するのに一定の効果があると市では分析しています。

北九州市 危機管理室
居藏邦幸 防災企画担当課長

北九州市危機管理室 居藏邦幸 防災企画担当課長
「事前告知は避難行動を判断する上でかなり有力な情報であり、今回の措置については好評を得ていると感じております」

さらなる防災力向上に向けて

市ではこうした取り組みをさらに効果的なものにするため、10月末に住民の代表や防災の専門家などから意見を聞く会議を開きました。

市民団体の代表者

市民団体の代表者
「自治会に入っていない方がやっぱり多かったですからそこから地域とのつながりをどういう風にもっていけばいいのか」

参加者から挙がったのは
「同じ地域でも世代が違えば交流の機会は少ない」という指摘でした。そのため、ふだんから世代を越えた交流を深めれば、避難の声かけなどにつながるといったアイデアが多く出されました。

北九州市立大学 村江史年准教授

北九州市立大学 村江史年准教授
「校区の運動会に今年度は防災運動会をやりますという防災を頭につけて運動会やるよという取り組みをされたんです。借り物競走の品物を防災グッズに変えてみるだとか。こうしたやり方はおもしろい」

北九州市の担当者
「スマホの取り扱いなど、いろいろな教室を開催して地域の学生さんが来て教えるような場を設けるのはどうか。おじいちゃんおばあちゃんと若い人たちが知り合うきっかけにもなる」

市では今回出された意見を、地域防災計画などにいかしていきたいとしています。

北九州市 危機管理室
居藏邦幸 防災企画担当課長

北九州市危機管理室 居藏邦幸 防災企画担当課長
「防災のためには市だけの力ではなかなか行き届かない面もある。地域のみなさまと一体となった防災への取り組みによってますます防災力を高めて、市民の安全確保のために全力で取り組んでいきたい」

 

  • NHK福岡放送局

    宮本 陸也

    平成30年入局
    大分局を経て福岡局に
    災害取材を担当

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