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中東から糸島へ ストーリーごと味わって欲しいワイン

込められた特別な思いとは
  • 2022年11月17日

11月に日本で販売が始まった3種類のワイン。

福岡から遠く離れた中東・レバノンで隣国シリアから逃れてきた難民たちがつくり、糸島市の男性が輸入しました。

ワインに込められた思いを取材しました。(福岡放送局 記者 松木遥希子)

よみがえった夢

ユナイテッドピープル 関根健次さん

関根健次さん、46歳。映画の配給や製作などを行う糸島市の会社「ユナイテッドピープル」の代表です。扱う映画は紛争や貧困、気候変動など国際社会の課題を問いかけるものが多く、中でも“平和”は重要なテーマのひとつです。

もともと大のワイン好きだという関根さん。学生時代はワイナリーの運営を夢見ていました。しかし、大学卒業前にたまたま訪れたパレスチナのガザ地区で出会った子どもの言葉が運命を変えます。

「将来の夢を尋ねたところ『親族を殺されたから復讐のための爆弾を作るのが夢』と言われ、愕然としました。子どもが子どもらしい夢を持てる環境にない、そんな社会をなんとか変えたいと考えたんです」

自分にできることは何か。考えた末にたどり着いたのが、映像で問題を提起することでした。夢中で走り続け、会社を設立して10年たったころ、知人の紹介であるワインの存在を知ります。それは南アフリカで黒人と白人が力を合わせてつくったワインで、アパルトヘイト=人種隔離政策の終了を象徴するといわれているものでした。

「ワインのストーリーを聞いて非常に驚いたと同時に、ワインにも平和構築を訴えられる可能性があることに気づいたんです。一度は置いていたワインの夢がよみがえりました」

見つけたのは“難民のワイン”

シリア難民のアブダラさん(撮影:ユナイテッドピープル)

ワインを使って平和を考えるきっかけづくりができないか。見つけたのが、日本からおよそ8000キロ離れた中東・レバノンのワインです。ワイナリーの経営者と連絡を取り、去年11月に現地を訪問。出迎えてくれたのは、従業員で隣国・シリアから逃れてきた、アブダラ・リヒさん(45歳)でした。

内戦が続くシリア

シリアでは10年以上内戦が続き、国民の半数以上、およそ1300万人が住む場所を追われて難民や国内避難民となっています。“今世紀最大の人道危機”と言われ、アブダラさんは今、家族と離ればなれで過ごしています。

レバノン人のエディー・シャミさん(撮影:ユナイテッドピープル)

知人を介して出会ったアブダラさんに一からワインづくりを教えたのが、レバノン人のエディー・シャミさんでした。レバノンの情勢が不安定だった子ども時代、家族で海外に避難した経験があるというエディーさん。アブダラさんとは同い年ですぐにうちとけたといいます。

エディーさんとアブダラさん(撮影:ユナイテッドピープル)

エディーさん
「私たちは身長が同じで見た目もよく似ていて共通点が多く、すぐに仲良くなりました。アブダラは非常に勤勉です。こうした状況でシリアからレバノンに避難してきた場合、ふつうの人ならすぐにあきらめてしまいますが、彼は目標達成のために頑張っています」

夢は祖国でのワインづくり

「ダー・リヒ・ハナン」 ハナンはアブダラさんの妻の名前

アブダラさんの目標は、祖国・シリアに平和が訪れたらワイナリーを作ることです。今回、関根さんが輸入したワインのひとつにはアブダラさんの妻・ハナンさんの名前がつけられていて、このワインの売り上げはアブダラさんの資金になるそうです。

ワイナリーの施設を案内するエディーさん

一方、レバノンも内戦こそないものの、厳しい状況に直面しています。深刻な経済危機が続く中、電力や燃料などが慢性的に不足。ぶどうを畑からワイナリーに運ぶガソリンも十分ではないといいます。厳しい環境の中で国籍や宗教の違いを超え、力を合わせるアブダラさんとエディーさん。関根さんが2人の関係について尋ねると。

アブダラさん「エディーはぼくのきょうだいだよ」

エディーさん「国や宗教の違いは関係ない。私は彼を『アブダラ』個人として見ているんだ」

信頼し合うエディーさんとアブダラさん

関根さん
「人と人が出会って友達になってパートナーになって、いいワインをつくろうということで協力し合っているのがすごく自然な姿だと感じました。アブダラがシリアでワイナリーをつくるという夢を応援したいと思いましたね」

ワインを通じて知ってほしいこと

貨物船で福岡に届いたワイン

レバノンでの出荷後、半年近くかかって10月末にやっと博多港に届いたワイン。関根さんが注文したのは、アブダラさんの妻の名前のついた赤ワイン、それにロゼと白の2種類のスパークリングワインでした。さっそく試飲してみると・・・

「土の香りや現地の記憶など、いろいろなものを感じさせます。レバノンの山の上で見た夕日とエディーとアブダラの笑顔も浮かびました。一緒に乾杯したような気分になりますね」

レバノンの夕日(撮影:ユナイテッドピープル)

関根さんは多くの人にこのワインを、ストーリーごと味わってほしいと話しています。

「まずはシンプルに2人がつくったワインの味を楽しんでほしいと思います。楽しんだあとに、このワインがレバノンでつくられていることやレバノンがどのような状況に置かれているか、またシリア難民が手がけているということで、いまシリアがどうなっているんだろうということなど、ワインを通じてぜひその裏側にある背景を知ってもらえると嬉しいです」

関根さんとエディーさん、アブダラさん

関根さんはワインの売り上げの一部を、レバノンにいるシリア難民の支援活動などを行っている日本のNPO法人に寄付することにしています。

広がるワインの可能性

北海道・余市にて(撮影:ユナイテッドピープル)

関根さんはいま、日本国内にいる難民や避難民に参加してもらいながらワインづくりを始めています。ことし6月には北海道でアフガニスタンからの避難民を招いてぶどうの苗を植える作業を行っていて、数年後には独自の「ピースワイン」を世の中に出したいと考えています。

“おいしい”や“楽しい”をきっかけに考える平和。

あなたも一度味わって、思いをはせてみませんか?

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