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男性の育休取得率アップ!“出生率世界最下位”韓国の取り組み

現地取材で見えてきた可能性と課題
  • 2022年11月01日

    10月から「産後パパ育休」制度が始まるなど、いま男性の育児休業が注目されています。

    こうした中、私たち取材班が向かったのは、出生率が世界最下位という韓国。先進国では、男性の育児や家事への参加率が高い国ほど出生率も高い傾向があることから、男性の育休取得率アップを目指して、いま、さまざまな取り組みが行われているということなんです。現地の子育て支援の最前線を取材しました。(福岡放送局記者 松木遥希子)

    韓国のプサンと福岡に共通点?

    プサンの市場

    取材班が訪れたのは、福岡とゆかりの深い韓国第2の都市・プサン。韓国の国内では「男性は仕事、女性は家庭」という考え方が根強い地域とされています。一方、私たちが暮らす福岡はというと、共働きの夫婦が1日に家庭のことに費やす時間の男女差が47都道府県の中で最大なんです(男性30分・女性4時間23分、「地域からジェンダー平等研究会 都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」より)。

    プサンと福岡、なんだか似ているような気もしますが、実際はどうなんでしょうか。

    プサンで感じた“変化”

    プサンの公園

    取材班がまずアプローチしたのは韓国の保育園、オリニチブ。父親の育児参加の状況を聞いてみると、最近は送迎で父親の姿が目立つと話してくれました。

    確かに街なかや公園では子どもを連れた父親の姿がちらほら。あれ?福岡より多いかも・・・。データを確認すると、韓国で育児休業を取得する男性は、この5年で4倍近くに増えていることが判明。父親が育児休業を取ったという会社員の一家が取材に応じてくれました。

    育休で得たものは

    チャンさんと長女、次女

    会社員のチャン・ソンギル(張成吉)さん(44)。小学校教員の妻(42)と長女(10)、次女(7)の4人で暮らしています。

    チャンさんは去年2月までの1年間、育児休業を取りました。妻が首都ソウル近郊に転勤することが決まり、コロナ禍で子どもたちのおうち時間が増えたことも重なったため、一家で妻の転勤先に引っ越して自分が家事や育児を主に担うことにしたのです。

    育休中のチャンさん一家

    子どもたちが生まれたときは、忙しくて育休が取れなかったというチャンさん。特に次女との接し方で悩んでいましたが、育休中に濃密な時間を過ごすことによって一気に絆が強まったと言います。

    同時に、それまでは簡単だと思っていた家事が、実は非常にエネルギーがいることも知りました。

    チャン・ソンギルさん

    「育休を取ったことはいい選択だったと思っています。幼い子どもたちにとって父親が果たす役割が非常に大事なことがよくわかりました。また家事の大変さも理解できて、育休後も力仕事を中心にやるようにしています。当時周囲に育休を取った男性はいませんでしたが、後悔はありません」

    チャンさんと妻のクォンさん

    チャンさんが育休を取ったことは、妻のクォン・ミンギョン(權珉慶)さんのキャリア形成の後押しにもなりました。

    「夫が育休を取ったおかげで新たな職場で集中していろいろ学ぶことができ、特別な時間になりました。夫が隣にいてくれてとても助かりました」

    進化する韓国の育休制度

    チャンさんが育休を取った当時、次女は5歳。子どもがそんなに大きくなっても育休を取れるの?と思った方もいるかもしれません。

    実は韓国の育休制度は、子ども1人に両親が1年ずつ、小学2年生になるまで取得が可能です。一方の日本は、長くても子どもが2歳になるまで。大きな違いがあります。

    日本との差は、いわゆる「育休手当」にもあります。韓国では通常、賃金の80%を支給していますが、男性の育休取得を奨励するために条件付きで支給の割合を高め、ことしからは生後1年以内の子どもを育てるために両親ともに育休を取った場合の手当を賃金の100%にまで引き上げました。

    一方の日本では、育休手当は育休開始から半年までは賃金の約67%、半年以降は50%にとどまります。韓国の制度は経済的な不安から育休取得をちゅうちょする人に安心してもらえる仕組みだと言えそうです。

    企業も感じる育休のメリット

    IT企業「ユーシス」

    企業も男性が育休を取ることのメリットを感じています。IT企業「ユーシス」では、子育て中の男性社員は全員、育休の経験者だと言います。代表のパク・ジョンドク(朴鍾徳)さんを訪ねると、育休推進のきっかけになった出来事を教えてくれました。

    「以前、子どもが発達障害と診断されたので世話のために退職したいと相談してきた男性社員がいました。相談を受けた私が『まず1年間育休を取ってみては』と提案したところ、彼は育休を取得して1年後にとてもいい顔で会社に戻ってきてくれたんです。その後も長く彼と一緒に働いていますが、育休を取って家族でじっくりと過ごしたことが彼がここまで働き続ける原動力になったのだと思っています」

    この会社では、産後うつなど妻の心身の不調を理由に育休を取得したケースがあるなど、ほかの男性社員も国の柔軟な育休制度を活用しているそうです。

    パク・ジョンドク代表

    自身も2人の息子を育てているというパクさんに、育児と仕事の関係について聞きました。

    「家庭が安定しなければいい仕事はできません。特に子育ては夫婦が一緒に育児をするほうがいい環境になりますし、そうでなければどちらかが一方的に犠牲になってしまいます。そういった部分がいま社会の中で変わってきていて、もっと変わるべきだと思います」

    自治体も本気

    男性の育休取得の広がりが見えるプサンですが、実は、出生率は国の平均を下回っています。それだけに、プサン広域市は一段と強い危機感を持っていて、国の制度に上乗せする形で独自の打開策を検討しているといいます。

    プサン広域市ワークライフバランス支援センター
    ビョン・サンジュン(卞相埈) センター長

    「プサンでは以前は男性が仕事、女性が家庭という意識が根強かったですが、最近かなり変わってきていると感じています。今後はとにかく若者が市内でちゃんと出産と育児ができるようにして、人口減少を解決するのが目標です。そのために市独自の育休手当を支給する事業を進めるつもりで動いています」

    取材を終えて

    プサンの街角

    日本で去年1年間に生まれた子どもの数は、統計を取り始めてから最も少なくなりました。少子化は決してひと事ではありません。韓国の取り組みが出生率の上昇という結果につながるかはまだ分かりませんが、今回、プサンで取材した人たちがいきいきと仕事と子育てを両立する姿から、明らかに市民レベルで意識の変化が訪れていることを実感しました。子どもが生まれてから10年以上続く育児を継続的に支える仕組みをどう作るのか、急速に少子化が進む日本も問われていると感じました。
     

    【取材班】
    左から李有斌ディレクター、リサーチャーのソン・ジェウォン(孫才媛)さん、
    浅野愛里カメラマン、松木遥希子記者

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