目が不自由な人にも読書の喜びを オンライン対面朗読
- 2022年10月04日
「オンライン対面朗読」という新しいサービスが始まっています。
目の不自由な人の読書を支援する「対面朗読」というサービスのオンライン版で、コロナ禍をきっかけに身近になったオンライン会議の仕組みを活用しています。
どんなサービスなのでしょうか?
去年(令和3年)の4月から正式にサービスをはじめた福岡市立点字図書館を訪ねました。
<項目>
①福岡市立点字図書館に行ってみよう
②目の不自由な人たちの読書
③そもそも”対面朗読”とは?
④ボランティアが支える”対面朗読”
⑤利用者の声から実現した“対面朗読×オンライン”
⑥体験!オンライン対面朗読
⑦体験した人の感想
⑧本を読む喜びをすべての人に
⑨取材をして感じたことは
①福岡市立点字図書館に行ってみよう
皆さま、福岡市にある点字図書館に行ったことがありますか?
福岡市立点字図書館は、福岡市早良区にある福岡市総合図書館に併設されています。総合図書館の正面から入り、すぐ右側に点字図書館の閲覧室があります。
ここでは、目の不自由な人たちへの図書の貸し出しや読書をサポートする機器の展示や体験、図書情報の提供など、視覚に障害がある人たちの読書を支える拠点施設になっています。現在の利用登録者は1000人を超えます。これまでに製作や収集した点字図書は2万冊以上、録音図書は6500冊にもなります。
②目の不自由な人たちの読書
目の不自由な人たちはどのようにして読書を楽しんでいるのでしょうか?
すぐに思いつくのは点字で書かれた本ですね。点字は6つの点を組み合わせた文字を使います。ちなみに6つの点がすべてあるものは「め」を表します。
点字は指で触れて読みます。しかし、高齢になってから目が見えなくなった人の場合、点字を自由に読めるようになるには、トレーニングにとても長い時間がかかるそうです。
また視覚障害で文字を読むことが困難な人のための録音図書もあります。デジタル録音図書の国際標準規格“デイジー(DAISY)”に基づいて制作され、専用の機器やパソコンなどで、文章だけでなく図や表、目次の検索など、一般の図書を読むのと同じ感覚で使えます。またCD1枚に50時間以上も収録できることも利点です。
デイジー(DAISY)=Digital Accessible Information Systemの略 アクセシブルな情報システム
③そもそも”対面朗読”とは?
ここからは読書のための図書館のサービスの一つ”対面朗読”について紹介します。
対面朗読は、目の不自由な人や読書が困難な人のためにボランティアが「目の代わり」になって本や資料の朗読をします。点字や録音図書にない図書や資料を読んでもらえます。はじまりは目の不自由な人たちが「図書館にある本を一般の人たちと同じように読みたい」という声の高まりです。昭和45年に東京の日比谷図書館で始められ、その後、全国の図書館などに広まりました。
“対面朗読”の利用方法は、各地の図書館で異なります。
福岡市立点字図書館の場合、対面朗読室が2部屋あり、ここで利用者とボランティアがテーブルをはさんで向き合います。1週間前までの申し込みが必要ですが、希望する日時に1回2時間以内でサービスを受けられます。新刊書や専門書、チラシやカタログ、器具の取り扱い説明書、学校からの配布物などの依頼もあります。読むこと自体が難解な古文の依頼もあるそうです。
④ボランティアが支える“対面朗読”
対面朗読は図書館の専属ボランティアが行います。令和3年度の時点で36名のボランティアが活動しています。この2月からボランティア養成講習会も行われていて、令和4年度には、新たに10名のボランティアが活動に参加します。1回目の講習会では視覚障害者への理解を促すために、目の不自由な人の見え方はそれぞれ違うことや街で見かけた時の接し方などを学んでいました。その後、元アナウンサー講師による発声練習や朗読の基礎など技術的な訓練も受けるそうです。
⑤利用者の声から実現した“対面朗読×オンライン”
対面朗読は文字通り、目の不自由な人とボランティアがじかに向き合います。
そのため、新型コロナ感染拡大の影響は大きく、対面朗読室の使用中止や図書館自体の閉館が続きました。さらに多くの人が外出を控えるようになり、利用者は減少しました。
年間のべ300件実施されていた対面朗読は、令和2年度は29件、令和3年度は74件になり、利用者が対面朗読を受けたくても受けられない状況が続きました。
そんなときに、ある利用者から相談がありました。
「オンラインで自宅から対面朗読を受けられるようにできないか」
図書館は対面朗読のオンライン化に動きだしました。
視覚障害者にオンライン対面朗読の体験モニターになってもらうなど準備を重ね、去年の4月、福岡市立点字図書館の正式なサービスとしてスタートさせたのです。
当時のことを福岡市立点字図書館の館長の礎眞一(いしずえ・しんいち)さんに聞きました。
「コロナ禍で対面朗読室が使えなくなったり、図書館自体が休館したりする中で、何か良い方法がないか考えていました いまでこそ、オンラインの会議が身近なツールになりましたが、2年前は、そもそもオンライン会議はどうしたらできるの?アプリ「ZOOM」とはそもそも何かということころから勉強を始めました」と話します。
⑥体験!オンライン対面朗読
福岡市中央区の松永由美(まつなが・ゆみ)さんは、病気のために目が徐々に見えにくくなり、10年ほど前には両目ともほとんど見えなくなりました。今では、光をわずかに感じ取れるだけです。
松永さんは、趣味など自分自身のことは一人でなんでもするように心がけています。料理などの家事もしっかりこなしています。自宅の中では、自由に動けます。しかし、目の不自由な人にとって、遠く離れた場所や、慣れていない場所への「移動」は困難を伴います。松永さんは、これまで図書館に出向いての対面朗読サービスを利用したことはありませんでした。
松永由美さんは
「プライベートな時間は自分ですべてやりたいこともあり、点字図書館まで一人で行く自信がない、そのためのガイドさんをお願いしないといけない」と話します。
松永由美さんは、オンライン対面朗読の体験モニターとして協力をしました。
PCの操作やアプリの設定に不安もありましたが、家族に手伝ってもらいやってみました。
松永さんは、日頃、今すぐに読まないといけない本や資料はほとんど家族に頼んでいます。
「日常的に家族に読んでもらうものがたくさんあるので自分の趣味のものまではなかなか頼みにくい ただ、いつか時間があるときに読めたらいいなというものはたくさんある」と話します。
今回、松永さんが依頼したのは「福岡近郊の超低山を紹介する本」「置き薬屋さんの健康情報誌とチラシ」「定期的に通うジムの会報」です。
オンライン対面朗読の開始です。
予約した時間が近づくと点字図書館からメールが届きます。
メールにはオンライン会議のURLが記載されています。
利用者は、URLをクリックすると図書館の対面朗読室とオンラインでつながります。
よろしくお願いします
はい よろしくお願いします
タイトルからいきますね お預かりしていた本で“ぶらり超低山散歩”です
主人が来年、定年なのです 定年になったら、その低山だったら、目が悪くても一緒に歩けるのではと買った本です これを順番に行けたらいいねって言っているのですけれど、中身が全然分からなくて、それをちょっとまだ時間あるから読んでもらおうかなと
はい すてきですね うらやましいです 今回は本当に低い山のいろんな実例が載っています
私は福岡に来てもう10数年になるのですけど よく分かっていなくて 地図を見ながらこの辺みたいな感じで読んでもらえたら本当はいいのだけど いずれそんな感じで教えてもらいたいと思います
33の山の説明があります しっかり読んでいったほうが良いですか?
ざっくりどんな感じですか 福岡市内、県内なのですか?
県ですね
県ですか じゃあ 市内の近いところを読んでもらいたい
最初から読んでいきますね
「荒津山(標高48メートル)とは、福岡市中央区にある西公園のことだ」
あらつやま、どんな字を書くのですか? 荒戸のあらですか?
そうですね 荒に、さんずいの津です
さんずいの津
気になる言葉もすぐに教えてもらえます。
「西公園は当初、荒津山公園と呼ばれていた その最高地点が、荒津山48メートルである」
「大休山(おおやすみやま) 昔は絶景の休憩地 今も自然林は健在
桜坂駅から出発する 駅を出て右 東へ
車の交通量が多い道路沿いの平坦な歩道を進むと、動物園入口 標識がある」
ボランティアが本を読むだけでなく、朗読の合間に本の感想を話したり、ちょっとした雑談をしたりするのも利用者の楽しみの一つです。
人が少なくて野鳥の声がすごく聞こえる 森の中に入り込んだような感じの場所ですね
中央区であっても自然がいっぱいでちょっと違う世界ですね
展望台があって360度見渡せるらしいですね 日の出をみんなで見に行ったことがあって
別の日に取材したオンライン対面朗読の様子も紹介します。
“なごやかにすこやかに”という情報誌です
2021年11月から2022年の2月号で血流と新陳代謝をよくしてめぐる力を高めるというのが特集になっています
本の内容から健康に関わる呼吸の話題になりました。
腹式呼吸がよいと聞きますよね
しっかり息を吸うことが今はあまりない 浅い息しかしていない
そうですね
いま マスクをしているから余計に息があがるね
口ではあはあと浅い呼吸が多いですね 最初に息を吐き切ると呼吸が深くなると聞きました 腹式呼吸は
走る時も苦しくなったら しっかりはけばいい しっかりはけば しっかり吸い込めるから
腹式呼吸の練習をするときは まず 最初にはきましょうって言われますよね
朗読でもそういうのはありますか?
毎日 練習してくださいと言われるけどなかなか(笑)
また、筋肉を落とさないための栄養について朗読する中に「ロイシン」という聞きなれない言葉が出てきました。
ロイシン? サプリとか食品に含まれているのですか?
ロイシン ちょっと検索してみます
ありがとうございます
声でやってみます ロイシンの多い食品
ボランティアさんがスマホで検索をしてくれました。
簡単に言うと動物性のたんぱく質ですね
年をとるほどお肉食べたほうがいいって言いますもんね
ご長寿の方はお肉をたくさん召し上がる方が多いですよね
本当によかった ロイシンとか後になって自分で調べようと思っても
その時は、ロイシンって言葉をもう忘れてしまう ありがとうございます
さらに、松永さんは健康料理のレシピについて詳しく読んでもらうことにしました。
ボランティアはレシピを紹介しながら、図や写真の説明を加えたり材料の分量など実際に調理をしたりする場合のアドバイスも加えます。
この中に調味料ですね ドレッシングを作って
最後にネギか何かを散らすのですか
長ネギとしょうがをドレッシングに混ぜています クレソンは添え物です
お酢が多め お酢1.5に対して油分が1 ここはお好みで
適当でもよいですよね
身体を動かすことが大好きな松永さん。こんな場面もありました。
「左右外側からひざの裏側のツボに親指をあてる」
親指をツボに
外側からひざをつかむみたいな感じで
こういう感じですか
聴き手に合わせて単に本を読み上げるだけではない双方向のコミュニケーションができるのも魅力です。
⑦オンライン対面朗読を体験して
松永由美さんは
「私は、本を読むというよりも例えばチラシや商品パッケージに書いてあるちょっとしたこと読むのが、目が見えていたときから好きでした 今はスマホのカメラで写して読むアプリもあるのですけど、まだきっちりと読んでくれない オンライン対面朗読でそんなものでも気軽に読んでもらえるのがうれしい」と話します。
利用する立場から課題については
「事前に本や資料を点字図書館に送る必要があることやZOOMなどのオンラインの準備がまだまだ難しいことがあります 途中で、動作がうまくいかなくなったらどうしよかといつも思う」と話していました。
⑧本を読む喜びをすべての人に
福岡市立点字図書館の礎眞一館長は
「オンライン対面朗読の利用者は、図書館まで行かなくても自宅にいながら聞けるので、往復に時間を費やさないでできることや仕事の合間のわずかな時間にサービスを受けることができる利点があります 福岡市立点字図書館では、点訳、音訳、対面朗読、テキストデイジーを製作するボランティアの皆様と一緒に、図書の製作や収集を行っています 目の不自由な人たちの読書を支える情報提供施設の役割をさらに広げながら、本を読むことをあきらめていた方にも再び本を読む楽しみ、いろんなことを知る楽しみを味わっていただきたいと思います」と話しています。
⑨取材をして感じたことは
今回、昔ながらの”対面朗読”にオンラインを取り入れた新たなサービスを取材する機会を得ました。目の不自由な人の読書方法は、この他にもたくさんあります。図書館の所蔵する電子図書をダウンロードして利用することも出来ますし、希望する本を点字図書や録音図書にするサービスもあります。目の見え方や生活環境、ニーズ合わせた多様な読書スタイルの充実こそが、視覚に障害のある人たちの人生を豊かにしていくと思いました。また、読書を支えるために、多くのボランティアの皆様が日々、活動を続けていることにとても感銘を受けました
<取材・撮影>
NHK福岡拠点放送局
コンテンツセンター
田村 威浩
(参考情報)
■オンライン対面朗読の利用方法■
(福岡市立点字図書館の場合)
※サービスの正式名称は、オンライン・リーディングサービス
利用者は希望日の1週間前までに電話やメールで申し込みをした後、本や資料を点字図書館に送ります。
点字図書館でボランティアの手配ができると利用者に連絡が来ます。
当日、メールで届いたURLをクリックするとオンラインで点字図書館とつながります。1回の利用時間は90分以内です。
福岡市立点字図書館の所在地
住所 〒814-0001
福岡市早良区百道浜3丁目7-1
TEL 092-852-0555
FAX 092-852-0556