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2018年10月16日 (火)
子育ちは、アナログで!
「学校時間」と「地域時間」
校庭に上総掘りで手掘りした井戸水を使い、ドラム缶風呂を楽しむ子どもたちと筆者
「すこし温かくなってきたよ!」
「じゃぁ、ぼくもは~いろっと!」
夏休みの晴れた日。
子どもたちがやってきて、いつものようにドラム缶風呂がはじまった。
ほとんどの子どもがパンツを脱いでのフルチン!
「ユーくん、もっと火をくべてよ!」と、私は催促される。
「いまやってんじゃん!」と、少し語気をあらげて応じる。
でも内心は、うれしくってたまらんねぇ状態である。だって、孫のような子どもたちから愛称で呼ばれ、タメ口で一緒に遊んでいるんだからね、と!
秋津小学校には「学校時間」と「地域時間」がある。
学校時間は、先生らがいる開校時間帯のこと。
対する地域時間は、休日や放課後などの地域が営業する(?)時間帯のことである。
地域営業のひとつに、校庭の井戸水を使ってのドラム缶風呂がある。
夏休みの風物誌といった風情。
井戸は、千葉県伝統の手掘り工法の上総掘りで掘った。
「1人2センチ2千人、みんなで掘れば40メートル」をキャッチフレーズに、子どもから大人まで延べ1千人が参画した。
なぜ掘ったか。学校は災害時の避難所だから。
1995年の阪神・淡路大震災の経験を聞き、長い避難所生活では洗濯やお風呂の水が欠かせないことを知ったから。
それと、以前に手づくりで造成した小川の流れが池や田んぼを循環する約420㎡ほどのビオトープ用の水の確保も兼ねてね。
あっ、いずれホタルも養殖したいしね。
ところがどっこい、掘った井戸水は、埋め立て地のために塩分が2%ほど混じりしょっぱい。だから池には使えない。
で、秋津では、ドラム缶風呂とあいなった。
ま、災害がないにこしたことはないしね。
コミュニティルームに休日に集い憩う子ら
休日にコミュニティルームに集い、黒板いっぱいに落書きをする女の子たち
「おまえらなぁ、落書きしてんじゃないよ!」と私。
「いいじゃん!」「そうだよ!」と、女の子たちから逆襲。
いつもそう。
秋津は女の子に限らず、総じて女性が強い。
いや、賢いのである。
賢い女性陣の手のひらの上で殿方たちは踊らさせていただいている、ほんと、感謝である。
で、秋津小学校コミュニティルームでの地域時間でのこと。
この学校の1階には、子ども数の減少で空いた余裕教室4つを地域に開放したコミュニティルームがある。
ふだんは、校区の生涯学習を推進する任意団体の秋津コミュニティに加盟する40ほどのさまざまな大人のサークルが利用する。
で、放課後や休日には「秋津・地域であそぼう!」と称する子ども教室も開催。
お絵描き、ビーズ教室から民謡やユーモラスなお面をつけて踊る伝統芸能・秋津ばか面(めん)踊り、おじさんたちの工作クラブによる工作教室など。
また、算数や中学生の数学教室、国語や英語といった学習系も秋津コミュニティの大人たちが催す。
ときには、ハイキング好きの夫婦が主催しての温泉付き日帰りハイキングもね。
で、子ども教室は参加自由。自分で選ばせないと主体性が育まれないから。
で、以前に落語好きのおじさんが落語教室を開催。
しかし、待っても待っても子どもはひとりもやってこない。
ついに終了時間。
おじさんいわく「子どもたちに選ばれなかったんだからしょうがないなぁ」と、嘆き節。
で、コミュニティルームにただやってきて、黒板に落書きをして楽しむ女の子もいる。
これも秋津っ子にとっての居場所と思うから、秋津コミュニティの大人は認めます!
育てた花の苗を売る子どもたち
生活科の授業で育てたお花や苗を秋津祭りの際に大人に売るこどもたち
「は~い、わたしたちが育てたお花を買ってくださ~い!」
「安いよ~っ!」と、子どもたちの元気な声。
「じゃあ、この苗を買うわ」と、おばちゃん。
「このお花はぼくが育てたんだ、だから買ってよ!」と、自慢げに気弱そうな大人に押し付けるシッカリもんの男の子。
地域最大のイベントである秋津祭りの一角に、学校時間の生活科で育てたお花や苗などの販売所を子どもたちが出店し、大人に売りまくる。
で、秋津祭りは地域が主催で休日に行うが、学校の営業日=授業日になっている。
だから、学校時間と地域時間の合体版。
こういうあり方を、秋津では「学社融合」と呼ぶ。
「学」は学校教育のこと、「社」は社会教育や地域社会のこと。
で、学と社双方にメリットを生むように溶け合い融合するかのごとく仕組むから「学社融合」となるのである、うん!
ところで子どもたちの育てた花の苗は、秋津祭りですべてが売れるわけではない。
売れ残りは、コミュニティルームの入り口に販売所を移して再販売するのである。
「こいつら、しっかりしているなぁ」は、あるおじさんの弁。
学校を拠点に生涯学習のコミュニティ育て
秋津では、年間約200日開かれる学校教育に、地域の人々が学社融合――国語や音楽・生活科や総合学習から学校と地域との合同運動会など――で延べ2万人も参画する。またコミュニティルームや開放花壇・陶芸窯などは年間365日を通して開放され、生涯学習活動の拠点として、延べ1万人以上もが利用している。
この状態は、2006年に改定された教育基本法の以下の各条文を先取りしての実現である。
「第3条 生涯学習の理念 国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。」
「第13条 学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力 学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする。」
で、こういった、校舎内を含めた学校の諸施設を、放課後や休日も含めて生涯学習を中心に推進するあり方を「スクール・コミュニティ」と呼び、秋津モデルとなっている。
まあ簡単にいえば、小学校でもあるけれど地域みんなの生涯学習学校でもある、ということ。
いまでも可能な、三つ子の魂百までも
で、開かれた学校と地域である秋津で幼少期から育った子どもたちは、さまざまな生きる力が育成されているに違いないとの仮説に立ち、秋津小学校で学び卒業して高校生になった秋津在住の男子高校生にアンケートを試みた。
すると、予想通りに高校生になっても自尊感情やコミュニケーション能力がほかの地域で育った高校生よりも高い結果がでたのである。
また会話する力などの家族関係能力も高く、親も子どもとともに育っていることなどが証明された。
つまり、家族も開かれた地域で育つのである(注)。
少子化や核家族化、都市化や高度情報社会の世にあっても、学校は本来的に、どんな子どもにとっても身近で親しみのある場所であるはずである。だからその学校が、家庭や地域と融合して開かれることで、泥臭くってもアナログ的に子育ちに寄り添って挑めば、「三つ子の魂百までも」がまだ可能であろうと思うのである。
あっ、ちょっと偉そうにいっちゃったかな。はい!
生活科の授業で育てたお花や苗を秋津祭りの際に大人に売るこどもたち
注)『子どもを救う「家庭力」』(現代家族問題研究会・須永和宏編著、慶應義塾大学出版会、2009.12)に所収の川崎末美東洋英和女学院大学教授執筆「第3章 地域社会に家庭を開く-子どもの社会適応力を育てるために」に秋津の詳細な調査データを収録。