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2024 NHKアナウンサー 新人研修 中継は準備が肝心 佐藤俊吉アナ 深川仁志アナが指導

  • 2024年5月24日

2024年4月、NHKに入局した12人の新人アナウンサーたち。2か月間にわたる研修で、アナウンサーとしての技術や心構えを学んでいます。今回は、スタジオの外に飛び出し、現場から情報を伝える中継リポーターに挑戦します。

現場の臨場感を伝える「中継」

目の前で起こっていることを現場から直接伝える「中継リポート」。リポーターとして、その場にいるからこそわかる空気感を伝える、アナウンサーの大切な仕事の一つです。事件・事故・災害現場やスポーツ、桜や花火といった季節の風物詩や、話題のスポットからの企画中継など、その種類はさまざま。みなさんもご覧になったことがあると思います。

講師の佐藤俊吉アナウンサー(左)と深川仁志アナウンサー(右)

そんな中継リポーターとしての基礎を学ぶ今回の実習。講師を務めるのは、入局20年目の佐藤俊吉アナウンサーと、16年目の深川仁志アナウンサーです。佐藤アナは、「あさイチ」「NHKニュースおはよう日本」「ニュースLIVE!ゆう5時」などを担当、深川アナも「NHKニュース7」「ニュースウオッチ9」などでリポーターを経験しています。中継でも百戦錬磨のふたりです。

映像とコメントを合わせる

午前中は、佐藤アナと深川アナによる講義です。NHKが放送する中継の種類や、本番までに準備しなければならないことなど、過去に放送した映像を見ながら学びます。その中で、佐藤アナが「きょうはまず、これだけ覚えて帰ってくれたらいいから」と強調したのは、「映像とアナウンサーのコメントを合わせる」ことです。

例えば、桜がきれいな名所から中継する場合、アナウンサーが「桜が満開です」と言っているのに、カメラがアナウンサーの顔や花見客の姿だけを映していたら、本当に桜が満開かどうか、中継を見ている人にはわかりませんよね。このように、目から入る情報(映像)と耳から入る情報(アナウンサーのコメント)が一致していないと、視聴者は違和感を抱き、伝えたいことがきちんと伝わらなくなってしまうんです。

中継はチームプレー。カメラの前に立つアナウンサーも、どんな映像に合わせて何を言えばいいのか、カメラマンと呼吸を合わせることが大事なのだと佐藤アナはいいます。

佐藤俊吉アナウンサー
アナウンサーが自分で好き勝手しゃべるだけでは放送にはならないんですね。カメラマンやディレクターなどと一緒に動いていくので「自分がアナウンサーとしてどうしゃべるか」ということだけではなくて、『なにを』どう撮ってもらうのか、『それが』どういう風に映るのか、そこまで想像してほしい。

実践!中継リポート

佐藤アナ・深川アナによる講義のあとは、「映像とコメントを合わせる」を実践すべく、新人アナウンサーたちが課題に挑戦します。今回は、事件や事故といった緊急の中継ではなく、あらかじめ取材し内容を決めてから放送する中継を再現。研修施設の隣にある芝生広場でそれぞれ中継したい現場を見つけ、カメラマン役とリポーター役二人一組になって、中継リポートを収録、録画を見ながら検証します。

部屋を飛び出し、ネタを探しに出かけた新人アナたち。桜の木やアスファルトに印字された駐車禁止マーク、地面に咲いている花…それぞれが気になったものをよく観察・取材して、どんなことが伝えられるのかを考えます。

山下大海アナウンサーは、つるや葉でびっしりと覆われた木をリポートすることにしました。何を、どんな順番で映し、どんなサイズで画面にとらえるのかといったカメラワークや、どんなことばで説明するのかを考えたうえで、おおまかな台本を作ります(もちろん、緊急の生中継や、あえて臨場感を伝えたい場合など、実際の放送現場ではあまり打ち合わせ無しで本番を迎えるときもあります)。

中継の構成に悩む山下アナ。見守っていたサポート役の深川アナが助け船を出しました。

深川アナ

なんでこの木を紹介しようと思ったの?

山下アナ

見た目がおもしろいし、近づいてよく見ると全然違う植物が共存しているのもおもしろいなと思ったんです。けど、どうやって表したらいいのか…

深川アナ

言葉で伝えることもできるし、映像で伝えることもできるよね。どこからどう撮るか、見た目のおもしろさを伝えるには、例えばアップで撮ったほうがいいのか、引いて全体を撮った方がいいのか。カメラマンの気持ちにもなることが大事だから、1か所に立ってこの木と見つめ合っているよりも、もっと動いたり離れたりとか、いろんな角度から観察するとヒントが見えてくるかもしれないね。

深川アナからアドバイスをもらった山下アナ、木の周りを行ったり来たりしながら、よりそのおもしろさが伝わる画角と、それをどのような言葉で表現するか考えていきます。

綿密な準備が成功のカギ

カメラマン役の羽深未奈乃アナ(左)とリポーター役の田口詩織アナ(右)

構成を考えたあとはカメラマン役と合流して準備をしていきます。こちらはアリの巣をリポートすることに決めた田口詩織アナ。考えた構成をもとに、カメラマン役の羽深未奈乃アナに、流れやカメラワークを具体的に説明します。

今回は、研修用にリポートを収録しますが、中継本番では撮影した映像がそのまま放送されます。やり直しのきかない一発勝負、実際の中継現場では、カメラ・音声・照明の技術スタッフや番組ディレクター・アナウンサーが全員で、紹介する順番やそのときのコメント、それを撮影するポジションに移動するためのスタッフの動線などを細かく打ち合わせ、リハーサルを重ねていきます。中継を成功させるカギは、本番前の綿密な準備なのです。

佐藤アナ

コミュニケーションを大事にしてほしいと思います。カメラマンさんと一緒に、「ここでこういうことを言う、こういうテンポで、この順番で撮ってほしい」ということを綿密に打ち合わせします。カメラマンもたくさんアイデアをくれるので、その意見も取り入れながらやっていくのがいいですね。

田口アナ・羽深アナペア、いざ、中継リポートを撮影します。打ち合わせも含め、撮影の制限時間は1人10分。実際の放送現場では当日急きょ中継が決まるなど、準備に十分な時間が取れないこともあります。限られた時間のなかでカメラマンと流れをすり合わせられるかどうかも大切なポイントです。

カメラマンと呼吸を合わせて

各ペア、リポーター役とカメラマン役を交代しながら、撮影は無事終了。

午後は、それぞれが撮影した中継リポートをみんなで視聴しながら振り返ります。

山下大海アナのリポート
「私は芝生広場に来ています。歩いていると、おもしろい形の植物を見つけました。こちらです。まるでお化けのような、キャラクターのような、はたまた人の指のような見た目をした植物があります。近づいて見てみると、つる性の植物が樹木を覆うように生えているんですね。」

枝や幹が葉でびっしりと覆われている木を紹介した山下アナのリポート。例え方もユニークです。撮影前、構成の考え方についてアドバイスした深川アナの講評は…

深川アナ

山下さんが「近づいて見てみると…」と言いながら、実際に自分も一歩木に近づいているのがいいですね。こうすることで、「近づいて撮ってほしい」というカメラマンへの合図になるし、さらに視聴者も何に注目したらいいかわかりやすいので、こういう動きを取り入れることはとても大事です。

ちょっとした動きですが、これこそまさに「カメラマンと呼吸を合わせる」。山下アナ、ばっちりやってみせました!

覚えたコメントは一度忘れる

アリの巣のリポートにチャレンジした田口アナ。「アリの巣からたくさんのアリが出てきています!」と伝えますが…画面にははわずか数匹しか映っていません。じつはこれ、新人アナウンサーがやってしまいがちなミスなんです。

佐藤アナ

僕も昔やりがちだったんですけど、事前に言いたいことを考えて覚えても、本番ではそのとおりのことが起こらないときもあるんですよね。そんなときに用意していたことを言ってしまうと、視聴者も「あんまりアリ出てきてないけど…?」と疑問が残ってしまう。いかにライブに合わせて、覚えたコメントを捨てられるかということも大切。難しいんだけれども、動きのあるものは特に注意が必要ですね。

中継にハプニングはつきもの。本番で想定外のことが起こったとき、用意していたコメントではなく、その場で発せられたことばでこそ、現場の臨場感を正確に伝えることができるのです。いざとなると焦ってしまいそうですが、佐藤アナは、「そもそも本番で言うことを事前にすべて丸暗記する必要はない」のだと言います。

佐藤アナ

今見えるものを言っちゃえばいいんです。「アリさん…出てこないですね。あ、今出てきました!」なんていう風に。一字一句覚える必要はなくて、僕なんかは、現場に行ったらウロウロうろうろしながら自分が見ているものを口に出して描写する。そのように何回もしゃべっていると自然に覚えられます。

「中継を好きになってほしい」

様々な工夫をこらして、それぞれの個性や持ち味を生かした中継リポートを完成させた新人アナウンサーたち。まだまだたどたどしいところもあったものの、講師陣は「予想していた以上の出来だった」と評価しました。

佐藤アナ

「カメラマンや見ている人のことを考えてね」ということだけを伝えたかったんですけれども、見事にやってくれたんじゃないかな。そして、中継が楽しかったとみんなが言ってくれて、すごくうれしかったです。これから地域の現場に行っていろいろな仕事をしますけれども、中継もぜひ好きになってほしいなと思います。

深川アナ

「映像はこうしよう、コメントはこうしよう、ストーリーはこうしよう」と、一人一人が考えられていてすごいなと感じました。とにかく今は思い切ってどんどん声を出してほしい。伝えることに対して貪欲であってほしいし、怖がらずに、もうつっかえてもいいから、どんどん言葉を発してほしいなと思います。

研修終了後は、それぞれ全国の地域局で業務を始める新人アナウンサーたち。ぜひ今回の実習で学んだこと、そして「楽しむ心」を忘れずに、それぞれの現場で活躍してほしいですね!

次回は、野球実況の実習についてお伝えします。

新人研修の様子 放送します

総合 5月26日(日) 午前11:00~ 放送後はNHKプラスで1週間見逃し配信 ※画像をクリック!

今回お伝えした中継リポートやニュースリード、緊急報道対応などの研修のようすは、NHKの広報番組「どーも、NHK」でもご紹介します。新人アナウンサー12人がスタジオに勢ぞろいし、自己紹介や決意表明も。NHKプラスで1週間見逃し配信されます。

〈「どーも、NHK」の同時配信・見逃し配信はこちらから〉(2024年6月2日午前11:25まで)

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