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命救う「ドクターカー」 なぜクラウドファンディング?

  • 2024年3月22日

心筋梗塞や脳卒中など、1分1秒を争う事態に医師が現場に駆けつける「ドクターカー」。全国各地の救急病院などが運用していますが、近年、車両の購入費用を賄うために、クラウドファンディングなどで寄付を募る病院が相次いでいます。
命を救う現場で、なぜクラウドファンディングなのでしょうか。取材を進めてみると、ドクターカーは医療機関の「社会貢献」という“善意”に支えられていることがわかりました。
(首都圏局/記者 古賀さくら)

ドクターカーに救われた命

埼玉県の石塚京一さん(74)。去年10月、都内の職場で突然意識を失いました。急性心筋梗塞でした。

石塚京一さん
「心停止の状態だったそうです。私自身は倒れる少し前からの記憶がなくてまったく覚えていないのですが、同僚が119番通報をして必死で心臓マッサージなどの救命措置をしてくれたそうです」

通報を受け、消防はすぐに近くの病院にドクターカーの出動を要請。
そのわずか5分後に、医師がドクターカーで石塚さんのもとに到着し、治療を始めました。さらに、その場で病状を判断し、病院に緊急手術の準備も手配しました。
石塚さんは病院に着いて、すぐに手術を受けることができ、一命を取りとめました。後遺症もなく、退院するときには多くの医療スタッフが見送りに駆けつけました。

「病院の皆さんからも、本当に奇跡の生還だと言われました。迅速な処置をしてもらったおかげで命が助かりました。本当に感謝の言葉しかありません」

1分1秒争う医療現場で活躍

心筋梗塞や脳卒中などでは、石塚さんのケースのように1分1秒でも早く救命処置を行い、治療につなげることがとても重要です。

総務省消防庁のまとめによると、令和4年の119番から救急車が現場に到着するまでの所要時間は全国平均で10.3分。医師に引き継がれるまでは、平均47.2分かかっています。さらに、東京都の場合は、現場に到着するまでに平均14.3分。医師に引き継がれるまでに66.9分かかっていて、いずれも全国で最も遅くなっています。
(総務省消防庁 令和5年版「救急・救助の現況」より)

こうしたなかで、ドクターカーは全国で年間およそ3万件(令和4年)の出動を行い、多くの命を救ってきました。特に救急搬送に時間がかかる東京の都市部では、有効な手段の一つです。しかし、取材を続けていくと運用に様々な課題があることがわかりました。

ドクターカーをクラウドファンディングで

ドクターカーで駆けつけて石塚さんの治療にあたった、東京・文京区の「日本医科大学付属病院」。2台のドクターカーを所有し、年間およそ500件の現場に出動しています。
災害時の医療支援でも活躍し、能登半島地震の被災地にも駆け付けました。
しかし、そのうちの1台は購入から11年が経ち、最近は電気系統の不具合などが頻発。エンジンがかからなくなることもあり、買い換えを迫られています。

日本医科大学付属病院 救命救急科・横堀將司部長
「何回か現場で止まったことがありました。現場でレッカーされるようなことがあったら怖いし、本当に心配なんです」

買い換えが急がれる中、費用を捻出するのは困難でした。
実はこのドクターカー、運用にかかる年間およそ3000万円の費用の大半は、病院の持ち出しなのです。さらなる費用負担となる車両の購入費までは手が回らないといいます。

そこで病院では、先月(2月)からクラウドファンディングで費用を募りました。
目標は2000万円でしたが、1か月あまりで300人以上から寄付が集まり、期限を前に達成しました。
なかには、ドクターカーに命を救われたという患者や、近隣の救急隊員などからも、感謝と応援メッセージが寄せられていて、大きな励みになったといいます。

横堀將司部長
「寄付はもちろん、とてもありがたいのですが、それ以上に、多くの方にプロジェクトに賛同頂いたことが現場としてはすごくやりがいになっているし、嬉しいです。私たちも地域のために役に立ちたいという気概があるので、頑張るモチベーションになります」

なぜ クラウドファンディング?

いま、全国のドクターカーを運用している医療機関で、同じようにクラウドファンディングで車の購入費などを募るケースが相次いでいます。
命を救う重要な役割を果たしているドクターカーをクラウドファンディングで購入しなくてはいけないのでしょうか?

実はドクターカーは、救急車と違って公的に位置づけられたものではなく、運用の仕方も地域によってまちまちなのです。
東京都では、現在、9つの救命救急センターがドクターカーを運用していますが、多くは社会貢献の一環として、いわばボランティア的に運用しているのが実態です。

厚生労働省によると、ドクターカーの車両は64%の医療機関が自費や寄付で購入していて、運用にかかる経費も69%が自費でまかなっているということです。

コロナ禍では、ドクターカーの運用を一時制限したり、減らしたりする病院も相次ぎました。
去年、国が公表した調査によると、ドクターカーを所有している医療機関のうち、24時間体制で運用しているのは21.5%にとどまっていました。

日本医科大学付属病院でも、2019年から、それまで24時間365日だった運用を平日の日中に限っています。ドライバーなどの人手の確保が難しくなったことなどが理由だということですが、「社会貢献」という位置づけでは、今後も状況によっては体制を維持することが難しくなることが想定されます。
特に、来月(4月)からは医師の労働時間にも上限規制がかけられるため、医療機関も勤務態勢の見直しを余儀なくされていて、その影響も懸念されます。

ドクターカーの運用 どうあるべき?

こうしたなかで、関係する学会はおととし(2022年)「全国ドクターカー協議会」を設置し、厚生労働省の委託を受けて、ドクターカーのより効率的で効果的な運用にむけた調査研究などを進めていて、国も、新年度はドクターカーの車両や機材の購入費、ドライバーの確保にかかる費用への補助を拡充する方針を示しています。

救える命を1人でも多く救うために、今後はどういった運用体制が望ましいのか。救急医療の枠組みの中での位置づけを明確にし、体制を整えていくことが必要ではないでしょうか。

  • 古賀さくら

    首都圏局 記者

    古賀さくら

    前橋局、横浜局などを経て、2023年から首都圏局。医療福祉問題を精力的に取材。

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