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「孤独を感じる」4割 働き盛りで多い 家族や友人がいても打ち明けられず

  • 2023年8月25日

家族や友人、SNSでのつながりがあるにも関わらず、誰にも打ち明けられない悩みを抱え孤独を感じたり、自ら望んで一人を満喫していたはずなのに、いつの間にか孤独感に心をむしばまれてしまったり…。
そんな「望まぬ孤独」にさいなまれている人は、少なくありません。

全国の16歳以上の男女2万人を対象に行われた調査では、「孤独を感じることがある」と答えた人はおよそ4割に上り、特に20代から50代の働き盛りで多くなっています。国も対策に乗り出した「望まぬ孤独」。取材で見えた実像は、意外なものでした。(全2回 前編)
(首都圏局/ディレクター 堀江凱生・末吉幸乃)

家族も友人もいるのに…思いがけない“孤独”

家族や友人に囲まれながらも、思いがけず孤独に陥ったという、漫画家の彩原ゆずさん(30代)。同じような苦しみを抱えている人に知ってほしいと、自身の体験を漫画で発信しています。

もともとは、周囲から「ハッピーな明るい人」と言われる性格だという彩原さん。家族は、夫と子ども2人。信頼している友人も多く、家の近所にはママ友も何人もいたといいます。

孤独とは無縁の生活を送ってきた彩原さんの状況が一変したきっかけは、夫が職場でパワーハラスメントを受けたことでした。

優しく子育てにも協力的だった夫は休職し、ふさぎこむようになりました。

2歳と5歳、2人の育児に加え、当時、うつと診断された夫を支えなければならなくなった彩原さん。次第に追い詰められていったといいます。

漫画家 彩原ゆずさん
「夫も今つらそうだし、子どもも手がかかる中、ちょっと私もしっかりしていかないとと思っていたらプレッシャーになっていきました。夫のため息とか聞こえると、こっちもだんだんため息が多くなる。そうするとだんだん気持ちがうっ屈というか、だんだん落ちていきました」

それまで身近な友人たちに、育児の悩みなどを気軽に相談していた彩原さん。

しかし、風邪などの体の不調とは違い、家庭や心の問題は、仲の良い友人にも、打ち明けることはできませんでした。

「親しければ親しいほど、心配かけたくない。『あの子のうち、大変なんだって』ということを、ご家庭で絶対に話されると思うので。自分だけではなく子どもに対するママ友の目まで変わっちゃうのではないかなというのが、やっぱり怖かったです」

夫が休職して1年もの間、周囲には気丈にふるまっていた彩原さん。しかし、誰にも悩みを話せない状況の中、心はむしばまれていきました。

「だんだん無表情になっていって、私の場合はいらだちとか苦しさとかで自分をかんだり、たたいたりするようになっていって、悲しい気持ちでもないのに勝手に涙がさーっと出たりする。こんな精神状態というか、こんなつらい気持ちでいるなら死んだほうが楽っていう状況でした」

精神状態が危うい状況に陥っていた彩原さん。ある日、吸い寄せられるようにベランダから身を乗り出したことがありました。

その時、息子が泣きながら止めに入ったことで我に返り、ことなきを得ました。

このままでは子どもが路頭に迷ってしまう。彩原さんは、なりふりかまっていられないと相談先を探し、目にとまった保健所にかけこみました。 

そこで、親身になってくれる担当者に出会いました。

ようやく苦しみを打ち明けられたことで、「一人じゃない」と実感できたといいます。

精神科の医師の紹介も受け、彩原さん自身も医療につながり、夫の正しい病名がわかるなど、状況改善の糸口をつかむことができました。

長期間にわたって一人で抱え込んだ孤独。ふだんの自分を知らない相手だったからこそ、打ち明けられたと感じています。

「親、友達などの自分を知っている人には言えなかったのだと思います。自分を『かわいそう』と思わない人、自分の子どもをかわいそうという目で見ない人が必要だったのだと思います」

気楽な“一人の時間”のはずが…

つながりがあっても陥ってしまうことのある「望まぬ孤独」。一方で、一人の時間に自由や気楽さを感じていたにも関わらず、それが一変したという人もいます。

佐々木さん(27)は2年前、地元の札幌から上京。料理の配達員や派遣の事務員など、あえて人と深く関わらずにすむ仕事を選んで暮らしています。

その理由は大学卒業後に入社した会社を、先輩との関係に悩んだ末に、退職してしまったことでした。 

佐々木さん
「以前、正社員として働いていた会社では、上からの圧とか見えない圧とかもありました。そういうのいやだなって思って、人に縛られたくないと思いました。今の仕事は別にプライベートで関わることもないという感じです」

人間関係に振り回されるよりは、と選んだ一人の生活。それが「望まぬ孤独」に変わったのが、仕事や私生活でトラブルが相次ぎ、強いストレスに見舞われたときでした。

自分の身近には弱音を吐けるような相手がいないことに気づかされたのです。 

「手をつないでいるカップルを見たときですとか、小さい子ども連れで歩いているファミリーとか見たときに、『周りはうまくいっているなぁ』とか『幸せそうだな』とか思ってしまいます。自分には、仕事ですとか人間関係で悩みを共感できる人がいない。自分は一人だな、孤独だなと感じるときはあります」

このままではいけないと、人とつながれる場所やイベントを探した佐々木さん。
バーやボードゲームの集まりなどに通いましたが、関係性はその場限りで、深まりませんでした。

自分はこのまま、ずっとひとりぼっちなのではないか。自由だと思っていた一人の生活に、佐々木さんは追い詰められていったといいます。

「ずっとひとりで抱え込んでいて、本当にもしかしたらちょっと死の一歩手前まで足を踏みいれていたかもしれませんし、孤独というのは自分自身がうまくいってないとき、つらいとき、気持ちが落ちたときに強く出るものなのかな」

佐々木さんには今、つながりを求めて、定期的に足を運ぶ場所があります。

さまざまな理由で孤独を感じている人たちが、週に一度集まる居場所。
ここでは自身の孤独感や弱音を口に出すことができるといいます。

男性

言えない自分が常にいるわけですよね。それがすごく孤独でした。

女性

家族との関係が悪かったりするので、元々の地元に帰りにくいとか。

佐々木さん

一番求めるものは人とのつながりかなと思っていまして…。

 

佐々木さん
「話を聴いてもらうこともそうだし、誰かの話を聴くこともそうだし、寂しさを完全にとはいかずとも、少しでも癒やせたらなと思います」

「社会とのつながりが少ないこと」は、喫煙や肥満を上回る死亡リスクがあることも分かってきました。後編の記事では、孤独に陥っているかどうかを知るためのチェックリストや、「望まぬ孤独」による健康被害を減らす方策についてお伝えします。

電話やLINEなどで悩みを相談できる窓口
厚生労働省「まもろうよ こころ」 (NHKサイトを離れます)

  • 堀江凱生

    首都圏局 ディレクター

    堀江凱生

    神奈川県鎌倉市出身。2016年入局。仙台局を経て2021年から首都圏局。山登りとゲームが趣味。

  • 末吉幸乃

    首都圏局 ディレクター

    末吉幸乃

    沖縄県那覇市出身。「明日へ 支えあおう」「おはよう日本」「ゆう5時」などを経て「首都圏情報ネタドリ!」を担当。

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