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“孤独・孤立”の死亡リスクが喫煙や肥満を上回る 宇都宮では健康被害防ぐ取り組みも

  • 2023年8月25日

「社会とのつながりが少ないこと」の死亡リスクは、喫煙、過度の飲酒、肥満を上回ることがわかっています。国の調査では「孤独を感じることがある」と答えた人が約4割にのぼっています(16歳以上の男女2万人が対象)。

こうした事態を受け、ことし5月には「孤独・孤立対策推進法」が成立し、国は「望まぬ孤独」への対策に乗り出しました。

「望まぬ孤独」による健康被害を減らすには?孤独に陥っているかどうかを知るためのチェックリストも掲載しました。(全2回 後編/前編を読む
(首都圏局/ディレクター 堀江凱生、末吉幸乃)

家族や友人がいても孤独に…現代ならではの孤独とは?ネタドリ!「見逃し配信」は9月1日まで。

“孤独状態”チェックリスト あなたは何点?

家族や友人がいても、仕事があっても、孤独に陥り追い詰められてしまう。こうした「望まぬ孤独」が私たちのすぐそばにある実態を、前編の記事で紹介しました。

孤独の感じ方は人それぞれですが、孤独に陥っているのかどうか、客観的に知るためのチェックリストがあります。国際的に広く使われている、孤独感尺度です。20の質問に答え、点数化して測ります。

注)設問の1、5、6、9、10、15、16、19、20については、1を4点、2を3点、3を2点、4を1点と計算してください。

点数が高いほど”孤独状態”にあり、目安の1つとして、44点以上だと高い孤独感と判定されます。

社会的なつながりと健康との関係を研究している村山洋史さんによれば、「就職や結婚、出産などのライフイベントが起きやすい時期」「退職などを経て、第2の人生のスタート時期」「年齢のために健康上の課題が集積する時期」は、孤独が高まりやすいといいます。

東京都健康長寿医療センター研究所 村山洋史さん
「高い点数が出た人は、身近な人が話しやすいということなら、ご家族やご友人、職場の同僚など、話しやすい人に今の気持ちを少しずつ話してみることは解決策の一つです。

逆に、近しい人には話しにくいということなら、公的機関やNPOなどが運営している相談窓口にアクセスしてみるのもいいかもしれません。匿名でも対応してくれるところはたくさんあります」

電話やLINEなどで悩みを相談できる窓口
厚生労働省「まもろうよ こころ」 (NHKサイトを離れます)

「孤独・孤立」の健康被害 どう減らす?

孤独・孤立は、心だけでなく、体にも悪い影響をもたらすことが分かっています。死亡リスクが何によってどのくらい高まるかを示したグラフです。

喫煙、過度の飲酒、肥満などの生活習慣を上回るのが、孤独感を引き起こす「社会とのつながりが少ないこと」です。

どうすれば孤独による健康被害を減らすことができるのか、いま注目されているのが「人とのつながり」を処方する「社会的処方」という取り組みです。

栃木県宇都宮市では、4年前から地元の医師会が社会的処方に取り組んでいます。その中心メンバーのひとり、医師の千嶋巌(ちしま・いわお)さんです。病気の背景にある孤独に対応する体制を整えてきました。

この日診療所を訪れた男性は、過去に治療の途中で通院をやめるなど、気がかりな点が。そこで、気にかけてくれる家族がいるかどうか、確認します。

千嶋医師

ご兄弟とかは?

男性

もう、みんな亡くなっちゃった。

 

ごめんね。余計なこときいて。

今後、孤独に陥れば影響が出る恐れがあるため、カルテに「気になる」と記入しました。こうした患者には、病院のスタッフが丁寧に話を聴くなどして、信頼関係を築くようにしています。

生協ふたば診療所 千嶋巌医師
「孤立していって、問題が大きくなってからみんなが気づくこともあるので、気づいたら動けるように、何がなくても関係を築いておきたいと思っています」

すぐに対応が必要な切迫した状況の場合は、診療所の2階にある行政の支援窓口などと連携。福祉や介護の専門職が常駐しており、さまざまなケースに対応できるようにしています。

例えば、経済的に困窮し孤立している人がいたら、社会福祉士と連携し、行政の支援制度を紹介。
家庭で介護の負担が大きく孤立している場合は、介護に詳しいケアマネージャーがサポートに入ります。

千嶋さんがこうした取り組みを始めたきっかけは7年前、当時勤めていた総合病院で、50代の男性患者に対応したときのことでした。

脱水症状で運ばれてきたため、治療に当たりましたが、その原因が失業による困窮と孤立にあると知り、無力感にさいなまれたといいます。

千嶋巌医師
「そのとき私にできたことは、点滴、水分を差し上げることだけだった。その方の根本の問題は困窮してしまっていること、生活費がないこと、助けを呼べなかったこと、いろいろあると思うんですけど、そこに全然アプローチできなかった。あれ?これでいいのかなって思ったんです」

診療所の外で「孤独・孤立」を見つける取り組みも

いま、千嶋さんの診療所は、市内の10を超える団体と連携しています。 

ひとり親の支援をするNPO「ぱんだのしっぽ」は、千嶋さんの紹介でつながった、市内の3つの世帯を定期的に訪問しています。

この日訪ねた女性は、離婚した夫の暴力によるケガやトラウマの影響で働けず、小学生の息子と孤立状態にありました。不眠などの体調不良が続き、病院を受診したところ、問題に気づいた診療所から、NPOの紹介を受けたのです。

NPO代表

お母さん、体調どうです?

母親

あまり良くなくて、眠れないんですよね。眠れても本当に1、2時間おきに目が覚める。基本、息子としか話をしないので、それが結構きついかな。

心配ごとや不安なことがあったら、24時間いつでもやってるから、遠慮なく連絡くれれば、すぐ対応するからね。

NPO法人ぱんだのしっぽ 小川達也代表
「不安なことがある人が、NPOや行政の窓口に相談をするとか、支援を受けに行くことは精神的にも相当ハードルが高いのですが、診療所の先生の紹介なら安心かなということで、より我々のところにつながりやすくなっています」

千嶋医師たちは去年から、診療所の外に出る模索も始めました。

地域の人が気軽に立ち寄って交流したり、相談したりできる「つながるカフェ★カムカム くらしを守るまちの保健室」を毎週2回開催しています。診療所の看護師が、介護施設や地域のボランティアと連携し運営します。

8月は夏祭りを開催しました。ことし3月に夫を亡くし1人暮らしになったという女性が訪れ、看護師が声をかけました。

女性

歌が大好きで1人で歌ってる。

看護師

カムカムでも歌やってますよ!

何時から?

2時半から。メモに書いて教えるので、ちょっと待っててください。

ここは本当にいいね。ちいさい子とトランプしたり。

趣味や遊びなどをきっかけに気軽なつながりを地域に広げることで、孤独や孤立の芽を見つけ出そうとしています。

生協ふたば診療所 千嶋巌医師
「人としゃべらないより、やっぱりしゃべって、『元気?』『最近どう?』と声をかけあう、緩やかだけど網の張った関係みたいなのがいいんじゃないかなと感じています」

孤独について研究している早稲田大学の石田光規教授は、つながり方の変化が、現代ならではの孤独を生み出していると指摘します。

早稲田大学 文学学術院 文化構想学部 石田光規教授
「スマートフォンが登場する前は、誰かと会うためにはどこかの場に行って、その場に居合わせた人と話をしながら、つながりを作っていくということをやっていました。

しかし誰もがスマートフォンを持つようになると、自分がつきあいたい相手を、優先順位を付けながらつながる人が増えました。かつてのように、人の輪の中に入れない人にとっては、より強く孤独・孤立の問題が意識されてしまいます」

孤独による健康被害を減らすためには、誰もが行きたいときに行ける場が継続してあることが重要だといいます。

「友達を作りに、その場所に行こうと考えると、結構難しいと思います。初対面の人としゃべるのが苦手な人もたくさんいますし、そういう場に行って、あらかじめ関係できているのを見たりすると、『ああ、私はこの場に入れない』とマイナスな感情を抱いてしまう人もいます。

私がお勧めするのは、他の口実を作ることです。ボランティアでもいいですし、なじみの飲食店があって、そこに月に一度食べにいくとかでもいいですし。その中で、そこに居合わせた人と、ちょっと話してもいいし話さなくてもいいし、そういったことを繰り返していって、だんだん友達になるかもしれないくらいの方がいいのかなとは思いますね」

【前編の記事】「孤独を感じる」4割 働き盛りで多い 家族や友人がいても打ち明けられず

社交的な性格でも孤独に…現代ならではの孤独とは?ネタドリ!「見逃し配信」は9月1日まで。

  • 堀江凱生

    首都圏局 ディレクター

    堀江凱生

    2016年入局。仙台局を経て2021年から首都圏局。 山登りとゲームが趣味。

  • 末吉幸乃

    ディレクター

    末吉幸乃

    沖縄県那覇市出身。「明日へ 支えあおう」「おはよう日本」「ゆう5時」などを経て「首都圏情報ネタドリ!」を担当。

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