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転職する40代~50代が増加 現実は?未経験の仕事に挑戦する人も

  • 2023年4月7日

前職で培ったスキルが異業種で花開き、年収がアップした女性(55)。
ものづくりに関わり続けたいと、大企業から中小企業に転職し、やりがいを感じて働く男性(59)。

転職する中高年の人たちは、45歳以上で10年前のおよそ1.3倍、65歳以上でおよそ2倍に増えました。中高年が転職を成功させる秘けつとは?一方で、注意点も。転職した人たちの事例から、「人生100年時代」を豊かに生きるためのヒントを探ります。

(首都圏局/ディレクター 山根拓樹、竹前麻里子)

大手から中小へ…転職で再びやりがいを

伊藤稔さん(59)は2年前、大手建材メーカーから社員およそ300人の住宅会社に転職しました。新たな商品を開発する部署で部長を務めています。

前の会社では、技術者として30年以上商品開発などにあたっていました。しかし、管理職となり現場から離れる中、やりがいを見失うようになったといいます。

伊藤稔さん
「やっぱり、ものづくりに関わっていたいという思いが強かったですね。自分のやったことに対する達成感、満足感をもう一回味わいたいなと思いました。いまは、昔のことを思い出しながら図面をひいたりしています」

新しい職場で、窓の商品開発の陣頭指揮をとることになった伊藤さん。以前も、窓の開発に携わった経験をいかし、商品化のためのコストダウンに取り組んでいます。

伊藤さんの指摘で設計を見なおすことになった部材です。

改良前の部材は一部がせりだす形になっていて、加工に時間とコストがかかっていました。伊藤さんはそれを省いても、品質的に問題はないと判断。そのぶん手間が省け、材料費の削減にもつながったといいます。

ものづくりに直接関わり、試行錯誤を繰り返す。前より年収は減りましたが、日々やりがいを実感できているといいます。

伊藤稔さん
「やっぱりやる気が出てくるので、日本一の木製サッシメーカーになるという目標を掲げて、それに向かってみんなのモチベーションを上げていきたいと思っています」

伊藤さんのようなベテラン人材を受け入れることは、会社にとっても成長が促されるなど、メリットは大きいといいます。

ウッドフレンズ 林知秀代表取締役
「中小企業だからこそ、自分の幅が広がるところに魅力を感じてチャレンジしたいという思いを、採用時に感じました。一緒にやりましょうという思いです」

仕事にやりがいを求め、60歳を前に転職に踏み切った伊藤さんについて、家族は…。

妻 嘉代さん
「最初聞いたときはショックではあったんですけど、今はとても充実してそうなので、転職してよかったんじゃないかと、すごく思います。応援しています」

50代から 本当にやりたい仕事に就く

別のキャリアを志す中で、本当にやりたかったことに気づいたという人もいます。今月(4月)転職した、廣瀬由美さん(53)です。

IT企業で管理職として組織作りを担っていましたが、ここ5年はフリーランスで、企業などに向け研修講師をしていました。

新たなキャリアを考える際に、廣瀬さんがサポートを受けたのは、これまで2000人以上を転職に導いてきた、転職エージェントの森本千賀子さんです。

森本さん(左)と廣瀬さん(右)

森本さんは、転職成功のカギはWILL「やりたいこと」・CAN「できること」・MUST「企業から求められること」を明確にすることだと考えています。
廣瀬さんのWILL「やりたいこと」は何なのか。森本さんは少しずつ引き出していきました。

森本さん

由美さんのWILLは何なのかなって、実はすごく気になって。

廣瀬さん

ずっと成長していきたいとか、好奇心で動きたいという気持ちがあります。あと、今の仕事にやりがいはあるけど、このまま企業向けの講師をしていていいのかな、もう1度、現場で働いてみたいなと思いました。

成長に対してのあくなき追求というのを、すごく感じました。

森本さんとの話し合いを繰り返す中で見えてきた、廣瀬さんのやりたいこと。それは、かつて会社員時代に取り組んでいた、「組織づくり」を通して、世の中に価値を提供していきたいということでした。

廣瀬由美さん
「あえて口に出すことで、改めて自分の中で『そうそう、私、こんなことしてたな』とか『こういうことを大事にしたんだな』ということを、どんどん思い出していきました。今の自分ならまた違った形で、この年齢だからこそ提供できるものがあるんじゃないかということも感じました」

森本さんは、廣瀬さんのやりたいことがかなう企業を探し、引き合わせました。現在、廣瀬さんは、ITインフラや人材派遣などを担う会社で、組織づくりの仕事をしています。

コクー 入江雄介代表取締役
「きちっと組織ビルディングできるマネージメント層が圧倒的に不在だったので、まさにいろいろ経験されている人が参加していただいた、というのが廣瀬さんですね」

森本千賀子さん
「50代の人たちは、いろんな経験を積み重ねてこられていると思います。それが果たして今の世の中のどういうところで価値になるのか、変換することができていない方もいると思います。それはあなたにとっての価値なんだよ、自信にしていいんだよと伝えていきたいです」

前職のスキルが異業種で生き年収アップ

CAN「できること」が思わぬところで強みとして評価され、転職を果たした人もいます。斎藤潤子さん(55)は、半年前に国内の大手ホテルから、外資系の人材サービス会社に転職しました。

30年以上、接客のプロとしてキャリアを積み上げてきた斎藤さん。しかし、コロナ禍でホテル業界が変革を求められる中、自分の経験は通用しなくなると考えました。

斎藤潤子さん
「どちらかというと、前の時代でやっていたことなんですよね。私があのまま元の会社にいてアドバイスをしても、皆さん、『それはもう知っている』と言われると思うんです」

そんなとき、声をかけられたのが、いまの会社でした。「顧客目線を徹底し、相手の立場に立って考える」というホテル時代の経験が、ここでは強みとして必要とされたのです。

ランスタッド 最高マーケティング責任者 中山悟朗さん
「デジタルで、効率的に、といった部分ばかり考えていたのですが、そこに新しく斎藤が入ってきて、お客様の視点でいかによくするかという部分にフォーカスするようになりました。確かにここも重要だったという部分に改めて気づきました」

広報の責任者を任された斎藤さん。この日、新たに売り出すサービスの広報戦略について話し合いました。そこで、斎藤さんが気になったのが、広報文に記されていた「フレックスライフ転職支援チーム」という文言です。顧客の目線に立ったとき、新サービスの売りが伝わりにくいと指摘したのです。

斎藤さん

お客様から見ると、ちょっとわからないかなという気がしています。ホームページにせっかく出しても引っかからないので、いい名前を考えたいなと思いました。

同僚

もっと市場の方々に認知してもらいたいので、こういう案はすごくありがたいです。

斎藤潤子さん
「長年働いていたところで培ってきたことが、前の時代のことでも、居場所を変えることで、より過去の知見が生きてくることはあるかなと考えています」

シニアになっても輝きたい 新たな目標ができた人も

新たなキャリアに挑戦する中で、定年退職後の目標ができたという人もいます。

柴澤亮さん(61)は、大手飲料メーカーの営業マンとして働いていましたが、55歳のとき、会社で役職定年をむかえました。責任ある仕事を任されることが減り、やりがいを感じにくくなっていたといいます。

柴澤亮さん
「社内にいると、かなりモチベーションが下がってくるという危機感は持ってたんですね。一度、外の世界を見てみたいということや、営業の経験が何か他のことに生かせないかということを思っていました」

そんな時に利用したのが、会社のキャリア支援制度です。45歳以上の社員が希望すれば、会社に籍を残したまま全国の自治体に出向することができます。本業とは異なる仕事を経験する中で、働き方の選択肢を広げてもらう狙いがあります。

サントリーホールディングス ピープル&カルチャー本部 斎藤誠二専任部長
「新たなことにチャレンジするのは、あらゆる世代に必要なことですが、とりわけシニアの年代になると、そのチャンスがいくぶん減る印象があります。活躍する場を用意するというのも、大事な応援、支援の1つになると思っています」

岐阜県・海津市役所で、町おこしを担うことになった柴澤さん。ふるさと納税の返礼品を増やそうとしています。営業マン時代の経験をいかして、地元の企業に飛び込み営業を繰り返しました。

柴澤亮さん
「民間の事業者様と会うことで、いろんな情報交換ができるんじゃないかと思いました。海津市の事業者を検索しながらメモをとって、50件のリストができたので、1件1件訪ねていきました」

地元の名産、飛騨牛など、返礼品に協力してくれる事業者を次々と新規開拓。ふるさと納税の額は1年で6割、およそ4300万円増加しました。柴澤さんと働く市役所職員にも、大きな刺激になっています。

市役所職員
「これまでは市役所から企業にアプローチをかけていくということがあまりできていなかったと思うので、今、自分も勉強させていただいています」

先月(3月)、柴澤さんの発案で市のキャンプ場のオープンイベントが開かれました。柴澤さんは仕事のやりがいを取り戻しただけでなく、次のキャリアの具体的な目標もできました。

柴澤亮さん
「地元のまちづくりに貢献できるような仕事ができたらいいなと考えるようになりました。期待されて、活動する居場所があって、成果に結びつくというサイクルを、やっぱりシニアになっても体験したいんですよ。そのサイクルが体験できているので、自分の中で変化が生まれています」

中高年の転職 注意すべきポイントは?

中高年の転職が増えている背景には、時代の変化があると専門家は話します。

東京大学大学院経済学研究科 柳川範之教授
「転職が増えている理由は2つあります。1つは【人生100年時代】の考え方です。昔は、余生はのんびり過ごそうという人が多かったのですが、元気でいる期間が長くなったことで、今いる会社の定年後も、もうちょっと働きたい人が増えました。

もう1つは【社会環境の変化】。コロナ禍で新たな成長事業の立ち上げを急ぐ企業が増え、経験が豊富な人材、特に『管理職』ができる人材への需要が高まっています。そして働き方の多様化で、終身雇用制度が絶対のものではなくなり、転職を考える人が増えました」

一方で、転職を考える際に気をつけなければならないポイントもあるといいます。

「転職市場で引く手あまたの方と、何十社受けても採用されない方と、二極化しているのが現状です。肩書きや経歴にとらわれず、自分の強みを生かすために、自分がやってきたことを一般化できるかどうかが重要です。

ぜひやってほしいことは、自分のやってきたこと、やれることを、例えば小学生に語ってみる。専門用語や肩書を使わずに、『何ができるんだよ、どういうことをやってきたんだよ』ということを易しく語れるかどうか。これ、意外と難しいんです。

『いくつかのよりどころを持っておくこと』も重要です。会社だけをよりどころにすると、会社でうまくいかなくなったときに心の支えがなくなってしまいます。地域や趣味・学生時代のネットワークなど、ゆるいつながりを複数持つことが理想です。

土台を広げるという意味でいろんなネットワークを作っておくと、転職の機会や新しい目標が生まれることもあります。もちろん、転職せず今の会社で働き続けるのも選択肢のひとつです」


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  • 山根拓樹

    首都圏局 ディレクター

    山根拓樹

    2016年入局。ドラマ、静岡局を経て、2021年から首都圏局。 主に子どもの貧困問題について取材を続けています。

  • 竹前麻里子

    首都圏局 ディレクター

    竹前麻里子

    2008年入局。旭川局、おはよう日本、クローズアップ現代などを経て2021年より首都圏局。福祉、労働、性暴力の取材や、デジタル展開を担当。

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