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おのののかさんが語る痴漢被害 “助けてくれる人の存在が心の支え” 

#本気で痴漢なくすプロジェクトNO.9
  • 2022年7月13日

「はじめて被害に遭ったのは5歳の時。その恐怖が今も忘れられません」。そう語るのはタレントのおのののかさんです。幼少期から高校生、大人になってからもたびたび痴漢被害に遭ってきた経験を明かしました。1歳の女の子を育てる母親として「痴漢被害の影響は本当に重いということをたくさんの人に知ってほしい」。いまの思いを聞きました。(首都圏局/ディレクター 二階堂はるか)

身近だった痴漢被害

6月17日放送の『首都圏情報ネタドリ! #本気で痴漢なくす 対策阻む社会の“壁”』にゲスト出演したおのののかさん。自身もこれまで複数回、痴漢被害に遭ってきたと明かしてくれました。

おのののかさん
「痴漢被害に遭うことは、高校生の時は“日常的”でした。都内の学校に電車で通っていたのですが、周りの友達も満員電車に乗って通学していて、日常的に『痴漢された』と聞きました。すごく多かったです。毎日痴漢されている子もいました。でもその当時は、“当たり前”のことでした。当たり前になっていたというのはとてもおかしなことなのですが、痴漢されたと聞いて、えっと驚くよりも、“嫌なことのひとつ”、コンビニで傘を盗まれたぐらいの“軽さ”、“運が悪い”という感じでした、その当時は。
今回、番組に出演することになり、マネージャーさんやメイクさんなど周囲の人たちに痴漢被害について話したのですが、本当に多くの人たちが被害に遭ったことがあるという話をしていたので、実際の被害は、明らかになっている件数以上にもっともっと多いのではないかなと思います」

コロナの影響が出る前の痴漢の検挙件数などは、年間3000件程。しかしこれは氷山の一角で、数字として表れていない被害はそれ以上にあると指摘されています。

番組に出演するおのののかさんと斉藤章佳さん(大船榎本クリニック)

5歳で被害に 打ち明けること難しかった

おのさんの話の中でもっとも衝撃的だったのは、最初の被害体験がわずか5歳の時だったということでした。20年以上前の出来事。それでも、記憶は鮮明に残っているといいます。

「その時の恐怖はいまも覚えています。デパートのおもちゃ売り場でひとりで遊んでいたら、見知らぬおじさんに体を触られました。感じたことのない気持ち悪さ、恐怖を感じました。とても気持ち悪いと思ったものの、何もできませんでした。
その後、離れていた母親と合流したのですが、何か言ってはいけないことのような気がして、しばらく被害を打ち明けることができませんでした。被害に遭ったあとは、友達や親にふざけてお尻をポンっと触られると、被害を思い出してしまって気持ち悪くなっていました」

行動を起こしたけど…割り切れない思い

たびたび痴漢被害に遭う中で、おのさんは加害者に対してアクションを起こしたことがありました。意を決してのことでしたが、当時を振り返ると複雑な心境になるそうです。

「20歳くらいの頃、アルバイトに行く途中、自転車に乗った男性に後ろから胸を触られました。いつも通っていた道だったこともあり、このまま逃げられたら、きっとまた同じようなことをやるかもしれない。今思うと、周囲に誰もいなくてとても危険な行為だとは思うのですが、恐怖心よりも、やり返してやろうという気持ちが強くなりました。
その男性は行き止まりの方に逃げて行ったので、待ち伏せして、戻ってきた時に自転車を止めたのですが、走って逃げられてしまいました。自転車を置いて逃げていったので、防犯登録番号の写真を撮って、その日のうちに母親に相談して、近くの交番に行きました。警察は対応してくれましたが、自転車は盗難車だったようで、その後、犯人が捕まったなどの連絡はきませんでした。
男性は何も罰を与えられないでいまも普通に生活しているんだろうなとか、捕まらない限り、また同じようなことを繰り返して、もしかして被害に遭っている人たちがどんどん増えているんじゃないかとか、なんとも言えない、モヤモヤとした気持ちを今も抱えています」

20歳の頃のおのさん

痴漢行為の多くは、各都道府県が定める迷惑防止条例違反として処罰されます(刑法の強制わいせつ罪が適用されることもあります)。東京都の場合、罰則は「6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金」。しかし、性犯罪被害者の弁護を専門に行う弁護士によると、多くの場合は罰金刑で終わり、初犯の場合は罰金20万円くらいのケースが大半だといいます。
おのさんは、被害を警察に相談したものの、加害者の特定には至らなかったといいます。

周囲の反応にも…複雑な思い

加害者が処罰されない理不尽さに加えて、おのさんが割り切れない思いをしてきたというのが、被害に遭ったことを話した際の周囲の反応でした。

「加害者に対して反撃したとか、警察に被害を届け出たと話した時に、『気が強い』とか『怖い』とか、そういう感じに言われてしまったことがあって、それはちょっと違うんじゃないかなと思いました。被害に遭っているので、警察に届け出るなどの対応をすることは当たり前のことだし、むしろしなくてはならないことだと私は思っているので、性格が強いから反撃するというようなものではないと思います。
また、被害を相談したときに、あまり重く捉えてもらえなかったこともあります。笑い話にした方が励ましになると思ったのかもしれませんが、加害者に言われたことばを“ネタ”のようにされて、笑われることも。もっとほかに言うべきことばがあるのではないかと、ショックを受けたこともありました」

寄り添う人の存在が被害者のよりどころに

番組の出演を通して、自らの被害を振り返ったおのさん。いま改めて思うことを伺いました。

「5歳の時に知らない人に触られたときの感覚や恐怖心はいまも忘れることができません。だから、自分が母親になったいま、どれだけ短い時間であっても、外出先では娘から目を離さないようにしようと決めています。
被害に遭った瞬間は恐怖もあり、頭が真っ白になって、声も出ないですし、動けないということが実際にあると思います。そんな時、もし誰かが歩み寄ってきてくれたら、たとえ犯人に逃げられてしまったとしても、あの時助けてくれた人がいたなって思えるし、それが何かひとつ助けになるというか、心のよりどころになっていくんじゃないかなと思います。見て見ぬふりをしちゃうとか、余計なお世話かもしれないと思ってしまうとか、一歩踏み出せない難しさもまだまだ多いかもしれませんが、性暴力を他人事と思わずに、一人ひとりの行動が少しでも変わっていくことが大事なんじゃないかなと思いました」

被害に遭ったときどうすればいい?

インタビューの際におのさんが知りたいと言っていたのは、被害に遭ったときにどう対応したらよいのか、ということ。そこで、痴漢など性犯罪被害者の弁護を専門にする岸本学弁護士に具体的な方法を聞きました。

岸本学弁護士
「もし可能であればその場を離れる。また、『やめてください』などと意思表示をすることで、被害が止まる可能性が高いと思いますが、なかなか簡単なことではありません。1人ではどうしようもないという場合には、どうにか周りの人たちに被害を伝えることをしてほしい。例えば、アイコンタクトを試みる周りの人の服を引っ張ってみるということでもいいと思います。携帯電話で大音量を出してみるなど、周りの注目を集めることも有効です。そこで被害に気付いてくれる人がいるかもしれません」

手を差し伸べること ためらわないで

一方で岸本さんは、被害者にとって、このような行動を起こすことのハードルは非常に高く、できなかったとしても自分を責める必要はないといいます。

「被害に遭うと、体が動かない、声も出せない、そういう状態に陥ります。自分に対して性加害を加える人を相手に、何もできなくなって当然だということが大前提です。しかも多くの場合、被害者は女性で加害者は男性なので、体格差もある。周りに助けを求める意思表示ができたというだけでも、本当に勇気のいることで立派なことです。だからこそ、痴漢被害の防止や見つけたときの制止、犯人確保などといった援助の手をさしのべることは、周囲の人たちに一定の責任があるのではないかと思います」

被害を目撃したとき、周囲は何ができるのでしょうか。

▼「大丈夫ですか」「困っていないですか」などと声をかける
被害者はフリーズをしてその場から動けない、声も出せないことが多いので、可能であれば声をかける。

▼被害者を逃がす
これ以上、被害者が被害に遭わないように、自らの体を動かしたり、席を譲ってあげたり、被害者をその場から少し離れさせることも効果的。

▼加害者に注意する
犯行している手などが見えた場合は、加害者に声をかけたり、手をつかんで確保したりする。可能な場合は、駅員や警察官に引き渡す。

▼捜査に協力する
触っている手を見たなど、明確に犯行の場面を見ている場合には、その目撃証言が犯行の証拠となる。

「被害者が、『えん罪だったらどうしよう』と、被害の申告をためらってしまう場合があります。しかし、自分が被害を受けていて、相手が犯人で間違いないという認識を持っていれば、ひき下がる必要はありません。捜査は警察や検察が行い、刑事手続きをへた上で裁判所が判決を下すので、被害を訴えたらただちに相手が処罰されるわけではないですし、被害者がえん罪について心配する必要はありません。これは、目撃した第三者にも同じことが言えますので、被害に遭ったり、目撃したりした場合は、ためらうことなく、自分の経験したこと、認識したことを、そのまま警察に伝えてください」

 

今後も「#本気で痴漢なくすプロジェクト」として痴漢についての取材を継続していきます。
痴漢被害に関するご意見をこちらの投稿フォームにお寄せください。

  • 二階堂はるか

    首都圏局 ディレクター

    二階堂はるか

    2016年入局。沖縄局、ニュースウオッチ9を経て現職、2年ほど前から「性暴力」をテーマに取材。

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