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広がるワンルームマンション投資 若者が多額のローン 背景に将来不安

不動産のリアル(15)
  • 2023年5月30日

「このまま働いても老後の資金が足りない」
「自分の力でなんとかしないといけない」

これは、ワンルームマンション投資を始めた20代の若者たちから聞かれた言葉です。
いま、将来への不安などを理由に、数千万円のローンを借りて不動産投資を始める若者たちが増えているといいます。
ただ、そこは投資の世界。取材するとリスクも潜んでいました。

※私たちは「不動産のリアル」と題して、空前の高騰が続く東京の不動産を取材しています。
皆さんの体験や意見をこちらまでお寄せください。(不動産のリアル取材班/記者 牧野慎太朗)

なぜワンルームマンション投資?

私たちの取材に応じてくれたのは、都内に住む20代の会社員です。
ワンルームマンション投資を始めたのは3年前。
きっかけは、このまま働き続けても、将来十分な蓄えを作るのが難しいのではないかと、感じたからだといいます。

20代男性
「『老後2000万円問題』とかが話題になる中で、普通のサラリーマンの自分が貯金をするだけでは、将来が心配だと思いました。何かしら準備を進めなければいけないという危機感は、社会人になってからずっと感じていました。年金もきっと満額もらうことはできないと思って、自分のことは自分でなんとかするしかないと」

男性が購入したワンルームマンション

男性の年収は500万円ほど。株やFXに比べて、購入後の手間が少ないと感じた不動産投資を始めることにしました。そして、35年のローンで2300万円を借りて、都内のワンルームマンションの1室を購入しました。

20代男性
「入居者がいれば特になにもしなくても家賃収入が入ってくるので、会社員の自分にも向いていると思ったのが不動産を選んだ理由です。実際に始めてからも、ほとんどほったらかしです。都内であれば、継続的に学生や単身者が外から入ってくるので、空室になるリスクも少ないかなと。定年したあとも年金の足しにすれば、いまの生活レベルを維持できるし、孫にも毎年お年玉をあげられるくらいの心の余裕が持てるかなと」

広がるワンルームマンション投資

いま、こうした将来不安を理由に、ワンルームマンション投資を始める若い会社員が増えているといいます。
不動産投資サイトの運営会社に尋ねると、物件を購入したオーナー数は、この4年間で約7倍の7000人に上っているということでした。その中心は、先ほどの男性のように、20代半ばから後半の若手会社員だということでした。

「GAテクノロジーズ」 クック ジュリアン聖也執行役員
「特に若い世代の投資意欲が非常に高いです。以前のように終身雇用で1つの企業に勤めていれば安全・安心だという時代が終わりを迎えつつある中で、みずからの将来は国や会社が守ってくれるわけではない、自分でなにかしなければいけないという認識が若い世代にあると感じます」

その仕組みは

なぜワンルームマンション投資が将来の資産形成になるのでしょうか。
関係者によると、ほかの投資と異なる特徴は、手元の資金がなくても勤めている会社の信用でお金を借りて投資ができることにあるといいます。

多くが頭金なしの35年のフルローンでお金を借りて、2000万円から3000万円ほどの物件を購入するそうです。

そして、物件の入居者からの家賃収入で毎月ローンを返済。そして、残債が少なくなった段階で、物件そのものを売ると不動産評価に応じた売却益が得られるという仕組みだそうです。

つまり、月々の家賃収入(ローン返済分除く)と売却益が利益の2本柱ということになります。

不動産価格の高騰がマイナスに作用

取材しながら気になったのが、いまの空前の“不動産価格の高騰”が、ワンルームマンション投資の世界にどんな影響を与えているか、です。

調べてみると、やはりファミリー向けの分譲マンションと同様に、ワンルームマンションの価格も上昇していました。10年前と比べて、新築の平均価格は1.3倍、中古の平均価格は1.6倍にもなっていました。

ただ、こうした価格の高騰は、投資家にとっては重要な「利回り」が低下することを意味します。
物件の購入価格は必然的に上がりますが、それを家賃に転嫁できないからです。それは、入居者が単身世帯や学生などが多いため、支払能力に限界があるからだといいます。実際に、10年前と比べた平均家賃の上昇幅は、新築で1.1倍、中古で1.06倍と、物件の上昇幅には追いついていませんでした。

マイナス収支も多く発生

これにより、マイナス収支になるケースもあるといいます。つまり、月々の家賃収入よりローンの返済額が上回り、追加の支払いが必要になっている状態のことです。

3年前からワンルームマンション投資を始めた20代の男性は、都内に2部屋を所有しています。
話を聞くと、管理費などを含めると収支は毎月2万円の赤字だといいます。営業担当者から「いまは都内の物件の多くがマイナス収支だ」という説明があったため、納得して購入したといいます。

いまは売却の際に、月々のマイナス分も含めて取り戻せることを期待して、支払いを続けているといいますが、実際のところ不安はないのでしょうか。

20代男性
正直月々マイナスであることに当初引っかかりはありました。ただ、長期的に見てお金が返ってくる投資っていうふうに聞いて、2万円なら払える額だと思ったので大丈夫だと判断しました。すぐに手元にお金が必要だったわけではないので、将来の資産形成には合っているのではないかとも感じて。正直、本当に成功するかっていうのは責任を持って言えませんが、将来お金で我慢したくないのでしばらくはこのまま持っていようかと思っています」

マイナス収支 専門家は注意呼びかけ

今回、さまざまな関係者を取材しましたが、不動産価格が高騰している都内では、この男性と同じくマイナス収支になっているケースは非常に多いようです。不動産投資の専門家も注意が必要だと指摘しています。

明海大学不動産学部 中城康彦教授
「最初は多少のマイナス収支であっても、長期間保有する中で物件が古くなって家賃を下げる必要に迫られたり、管理費や修繕費が高くなったりして、マイナス収支の幅が大きくなることが想定されます。膨らんだマイナス収支が家計を圧迫して急いで売却しようとすると、安い価格でしか売却できない、結果的にローンの残債を下回って全体としてマイナスになるなど、大きなキャピタルロスにつながります。なにも起きなければ結果的に資産形成ができてよかったということになりますが、“手出し”を前提とするならば、金額が大きくなっても負担できる余力があることを確認しておくことが必要となります」

中城教授はワンルームマンション投資全般に言えることとして、入居者が見つからない空室リスクや次の投資家に想定していた値段で売れるかという売却リスクなどもあるとして、「投資はギャンブルではないので想定通り事業が進まない場合でも、一定の損失で撤退できる出口戦略が必要となる」と話していました。

過去には投資トラブルも多数 慎重に

また、こうした投資上のリスク以前に、十分な説明をせずお金をだまし取ろうとする業者と、投資家の間でトラブルになるケースも頻発していることも忘れてはいけません。
中には、実際には入居者はいないのに、物件にカーテンだけを付けて入居者がいる人気物件と装って、投資家に売りつける業者もいるそうです。

将来への不安から、今の不動産ブームに乗って、投資した物件が高値で売却できるのではないかと淡い期待を抱く気持ちは、同世代の私(記者)も理解できます。ただ、長い時間を費やして資産形成する以上、リスクについてはしっかり理解することが不可欠だと感じました。

私たちは、空前の高騰が続く東京(それ以外の地域でも歓迎です)の不動産事情を、皆さんからの情報や意見をもとに引き続き取材していきます。今後はこうした投資の動きについても取材を続けていきますので、ぜひこちらから投稿をお寄せください。
住宅の高騰による困りの事などの意見もぜひこちらの投稿フォームよりお寄せください。

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