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障害や病気あっても好きな服を!オンラインのお直しサービス

  • 2022年8月17日

障害や病気で体に不自由がある人の中には、好きなデザインの服があっても「体に合わない」「脱ぎ着しにくい」とあきらめている人がいます。
そんな悩みを解消しようと始まったのが、既製の洋服を“お直し”するサービス。
営業開始から利用者が絶えず、「好きな服が着られるようになって、元気が出た」と声が寄せられています。
いったいどんなサービスなのか、取材しました。
(首都圏局/ディレクター 大岩万意)

“好きな服選べない”をなんとかしたい!

1歳の双子の母親

双子の長男は病気のため、頭を手術したばかり。
Tシャツを上からかぶせるのが難しいので、前に開くようにお直ししてもらいました。
双子におそろいを着せる夢が叶いました。

この母親が利用したのは、病気や障害のある人を対象にした、洋服のお直しのオンラインサービス。ことし3月の営業開始から5か月で、50件以上の注文が来ています。

服のお直しサービス「キヤスク」を運営 前田哲平代表

このサービスを立ち上げたのは、前田哲平さん(47)。
大手アパレル企業に勤めていたころ、障害のある人から、“体に合わず好きな服が着られない”という悩みを聞きました。

前田哲平代表
体が不自由だというだけで好きな服が選べない人がいるというのは本当に不公平。洋服屋で働いている人間として、何かできることをやりたいと思ったんです。

そこで前田さんは、好きな服に少し手を加えることで着られるようにできる“お直し”に注目したのです。

メニューは約80種類 細かいニーズに応える工夫

前田さんは、800人以上の障害者に服の困りごとを聞き取り、ニーズに合わせた約80種類のメニューを作成しました。

メニューの一例

さらに、好みの色・デザインに仕上がるよう、利用者とスタッフがオンラインでやりとりする仕組みを作りました。

スタッフの人選にも工夫が。
12人のうち8人が、障害のある子どもを育てる親です。
子どもの服で苦労してきたからこそ、利用者の要望を理解しやすいといいます。

お直しサービススタッフ・渡邉こずえさん

スタッフの一人、渡邉こずえさんは、重い脳性まひがある4歳の娘を育てながら、空いた時間でお直しを担当しています。
娘に合う服を探すのに苦労してきた渡邉さん。独学で裁縫を学び、自分で娘の服をお直ししてきました。今度は、同じ悩みを抱える人たちを支えたいと参加を決めました。

渡邉さん

いまだに自分もいろいろ苦労しながら試行錯誤しながらやっているのでみなさん本当に同じ悩みを抱えていると思う。
私が力になれることがあれば。

渡邉さんが担当したお直しは、気管切開をしている人のために、襟部分を「キーネック」(襟元に切り込みが入ったデザイン)にするというもの。のどに呼吸を助ける器具を付けているため、ふつうの丸襟トレーナーだと襟があたってしまい着られないというのです。
渡邉さんの娘も気管切開をしているため、どうしたら襟があたらないようにするかなど、利用者とのイメージのすりあわせがスムーズにできたそうです。

サービスではさらに、プロとして縫製の仕事に携わってきた人たちもスタッフとして加わってもらうことで、複雑なメニューにも対応できるようにしています。

息子に“あきらめていた服を着せられた”

お直しのサービスに出会い、悩みが解消されたという人がいます。
2人の息子を育てる新井由貴さん。
8歳の次男・煌太(こうた)くんは体にまひがあり、日常生活に介助が必要です。

新井煌太くん(8)

ファッションが大好きという由貴さん。
11歳の長男のために買ったお気に入りの服を煌太くんにも着せたいと思っていました。

煌太くんの母
新井由貴さん

アウトドアブランドのデザインが特に好きで、子どもには、素材がしっかりしていて着心地がいい物を着せたいと思っています。


しかし中には、煌太くんに着せるのが難しく、あきらめていたものもありました。
それが、ズボンです。

お直しを依頼したズボン

アウトドア風のデザインやしっかりした素材がお気に入りでしたが…。

トイレの介助が悩みの種でした。
煌太くんが体のバランスを保ってトイレに座るには、足を大きく開く必要があります。しかし、ふつうのズボンを下ろしただけでは十分に開きません。

これまでは、足に付けている装具をすべて外し、ズボンを完全に脱がせていました。そのため、一回のトイレ介助で15分もかかっていました。

そこで由貴さんは、ズボンのお直しを依頼することに。
選んだのは、ズボンの前側2か所にファスナーを付けるメニュー。両方の太もも部分にファスナーを付け、ウエスト部分からひざのあたりまで開くようにしました。

お直ししたズボン

ファスナーを開けると前に大きく開くようになり、装具を付けたままトイレに座れるようになりました。

 

すごく体の負担的には違いますね。やっぱりわが子だからかわいくしてあげたい。
あきらめていた物がまた使えて、思い入れのある物が弟にも着せられた。
母親としての気持ちの満足度があります。

サービスの営業開始から5か月。リピーター利用や、医療現場と特別支援学校からの問い合わせも増える中、代表の前田さんは大きな手応えを感じています。

前田代表

“自分が着やすいか”どうかなんて考えずに、“自分が着たい”と思う好みの服を選んで、着やすくお直しするっていう順番に変えられればと思う。
障害のある人もない人も、全員が“服の選択肢がいっしょ”という状態を作りたいと思っています。

取材後記

「わが子だからかわいい服を着せたい。それは障害があってもなくても一緒」という新井由貴さんの言葉が印象に残りました。動きやすさなど機能面だけを考えて服を選ぶこともできるかもしれませんが、「なんでもいい」わけではなく、かわいい服を着せたい。親として当たり前の気持ちだと思いました。
息子の介助に追われる日々の中、お気に入りの服を着せると「ちょっとテンションがあがる」と話す新井さん。お直しサービスは、機能面だけでなく、当事者や家族の気持ちも支えているのだと感じました。

  • 大岩万意

    首都圏局 ディレクター

    大岩万意

    2014年入局。大分局・福岡局を経て、2022年から首都圏局。障害者や介護など福祉分野を取材。息子は3歳。

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