ほのぼのとしたタッチで色鮮やかに描かれた絵。
埼玉県狭山市に伝わる昔話を元に作られたアニメの一場面です。
テレビアニメ「まんが日本昔ばなし」の制作に関わっていた池原昭治さんと娘の奈々さん親子が「まちの宝」を子どもたちに伝えたいと作りました。
さいたま局所沢支局 記者/瀬出井小百合
池原昭治さんは、かつて放送されていたテレビアニメ「まんが日本昔ばなし」の演出や作画などを担当したことで知られ、長年、埼玉県狭山市に住んでいます。
「童絵作家」を名乗り、消えつつある風景や、地元に伝わる昔話をほのぼのとしたタッチで色鮮やかに描き続け、市の広報紙にも連載されていました。
池原昭治さん
「昔話にはおもしろいお話があって、お話も場所も今も残っている。私はそういうのをもっともっと知ってもらいたいと思っている」
池原昭治さんの娘の奈々さんは、そんな父の背中を見て、父の絵の魅力を後世に残し、あまり知られていない昔話を、さまざまな世代に伝えたいと思うようになりました。
池原奈々さん
「父の絵を動かしてアニメにできれば、現代の子どもたちにもっと楽しんで昔話に触れて親しんでもらえるのではないかと思いました」
そこで取り組んだのが、アニメの制作です。
父親のマネージャーとして仕事ぶりを間近で見てきた奈々さんですが、実際のアニメ制作は独学で学びました。
今回、アニメ化に取り組んだのは、狭山市に伝わる昔話「なすとっかえ」です。
諏訪神社の裏の沼に住む竜が夏の病で苦しみ暴れていましたが、地元で採れたなすを食べたことでおとなしくなり、竜神になったと伝えられています。
物語は、かつて昭治さんが出した本にも掲載されています。
来年が「たつ年」であることも意識して竜が出てくる話を選んだそうです。
奈々さんは、この本を元にストーリーをまとめ、昭治さんの原画を使いながらアニメを作り上げていきました。
昭治さんの原画からさまざまなカットを集めて、足りない部分は自分で書き加えていきます。
作品の中で重要な竜の描き方は昭治さんにアドバイスを求めました。
竜はもっと重々しい感じで。
おどろおどろしい?
雲で竜の体を隠すことで、より立体感が生まれ深みが出てくると、アドバイスを受けました。
竜が初めて登場するシーンでは、体が細く見えてしまうことから大きく描き直し、迫力を出すようにしました。
池原奈々さん
「父の絵を崩さないように、なるべく現代風に動かしたいと思っているのですが、そのあたりは難しい」
物語に声を吹き込むのは、奈々さんのめいで小学3年生のしずくちゃんです。
登場人物のセリフやナレーションを、すべて1人で演じました。
しずくちゃん
「わしはお諏訪さまの沼にすむ竜であーる」
どこが難しかった?
竜
およそ2か月かけて、3世代が力を合わせて「なすとっかえ」を作り上げました。
この日、奈々さんが訪れたのは、地元の小学校の学童保育です。
もっともこだわった竜の動きや迫力を小学生に見てもらいました。
子どもたちは画面にくぎづけになっていました。
「楽しかった」
「竜が出てくるところが怖かった」
池原奈々さん
「竜が出てきたら、みんなワーってどよめいたりして、素直に反応があると本当にうれしいです。アニメとして、みんなの心に残るような形で伝えていければ、新しい世代の子どもたちにも残していってくれたらなと思いました」
完成した作品は、年明けに動画サイトで公開されることになっていて、地元のケーブルテレビでも放送される予定だということです。