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春闘2024の焦点 中小企業の賃上げ 価格転嫁の難しさで水準低下も

  • 2024年2月21日

新年度、賃上げを実施するとした中小企業は85%に達した一方で、賃上げ水準の見通しは今年度の実績を下回ることが民間の調査でわかりました。ことしの春闘では中小企業を含めた持続的な賃上げが焦点となっていますが、この春、賃上げしたいと考える中小企業からは物価上昇分や人件費分を価格転嫁できるかどうかが鍵を握るという声が聞かれます。調査結果などをまとめました。

従業員10人 仕入れコスト増でも賃上げ

水戸市にある茨城ベルトサービスは従業員10人の企業で、大企業から中小企業までおよそ1500社のベルトコンベアの設置や修理などを手がけています。

修理に使う交換用のゴムや金属製の部品はいずれも円安などを背景に値上げが続いていて、仕入れコストは2年前から4割ほどあがっています。さらに人手不足を解消しようと待遇改善にも取り組んでいて、去年はベースアップ分を合わせて5%ほど賃上げし、ことしも賃上げを実現したいと考えています。

難しいコスト上昇分の価格転嫁

このため会社では取引先に対し仕入れコストの上昇分と賃上げに伴う人件費の増加分と合わせて工事価格に転嫁するよう働きかけています。
しかし、工事価格が上がると今後の取引に影響を与える懸念があることや、取引先も経営状況に余力がないなどの事情からコスト上昇分のすべてを転嫁するのは難しいといいます。

茨城ベルトサービス 大月章子社長
「心苦しい思いにもなりますが価格転嫁をしていかないと会社の存続に関わります。信頼関係を大事にしながら付加価値をつけられるよう取り組んでいます。社員のモチベーションに関わるので賃上げに取り組んでいて、値上げをした分を社員に還元していきたい」

中小企業の賃上げの妨げは

ことしの春闘では中小企業も含めた持続的な賃上げが実現するかが焦点となっています。民間の調査会社、東京商工リサーチは春闘の交渉が本格化する2月、インターネットを通じて調査を行い、全国の中小企業3873社から回答がありました。

調査では、中小企業では特に高騰する原材料費や人件費などの価格転嫁が難しく、賃上げの妨げになっている実態が改めて浮き彫りになりました。

賃上げ率 今年度の実績を下回る

調査によりますと新年度、賃上げを実施するとした中小企業は85%となり、定期的な調査を始めた2016年度以降最も高くなりました。

一方で、賃上げ率でみると▽2%台が20%(+4ポイント)、▽3%台が33%(+6ポイント)、▽4%台が9%(-1ポイント)で、▽連合が方針に掲げる5%以上は26%と今年度の実績を11ポイント下回り、中央値も今年度を0.5ポイント下回りました。

賃上げ実施しない理由 価格転嫁が…

賃上げを実施しないとした583社にその理由を複数回答で尋ねたところ
▼最も多かったのが「コスト増加分を十分に価格転嫁できていないため」が54%、
▼次いで、「原材料価格などが高騰しているため」が49%でした。

また、人件費が増加したと答えた企業のうち「価格転嫁できていない」と答えた企業は48%とおよそ半数にのぼりました。

前年同月比でコスト増と回答は7割超

また東京商工リサーチが全国の中小企業2640社に原材料費や燃料費、人件費などのコストについて聞いたところ、ことし1月時点で前の年の同じ月と比べて増加したと答えた中小企業は74%にのぼりました。

その内訳を複数回答で聞いたところ
▼「原材料費や燃料費、電気代の高騰」が91%と最も多く、次いで
▼「人件費」が71%、
▼「円安の影響」が28%でした。

人件費の価格転嫁がより難しい

また、増加したコストを一部でも価格に転嫁できているかを尋ねたところ
▼「原材料費や燃料費、電気代」については63%の企業が価格転嫁できていると回答した一方、
▼「人件費」は52%にとどまっていて、人件費の価格転嫁がより難しいことがわかります。

その理由については複数回答で
▼「受注減など取り引きへの影響が懸念されるため」が50%で最も多く、
▼「主要取引先からの理解が得られないため」が47%、
▼「同業他社が転嫁していないため」が39%などとなっています。

中小企業にとって原材料費や人件費などのコストが増加する中で、特に人件費の増加分をどこまで価格転嫁できるかが課題となっています。

“継続して価格転嫁しやす環境づくりを”

東京商工リサーチ 原田三寛情報部長
「賃上げマインドは中小企業にも確実に定着しているが、どれくらい賃上げできるかは企業によって相当濃淡がある。燃料費や人件費があがっているが、その分の価格転嫁がうまくいっていないか、一部しか転嫁できていないために、賃上げの原資が確保できないことがみてとれる。政府はこれまで税制の優遇や補助金で賃上げを誘導してきたが、限界が来ていると思う。コスト上昇分を自ら引き受けてしまっている中小企業がまだ多くいるので、一時的な機運ではなく、継続的に価格転嫁しやすい環境づくりを考えていかなければならない」

企業の価格転嫁 国の支援策

【価格交渉ハンドブック】
中小企業庁は企業が取引先と価格交渉に臨む際のハンドブックを作成し、公表しています。ハンドブックでは▽原材料費やエネルギー価格などの具体的な変動のデータを提示して交渉に臨むことや、▽値上げの可能性のある3か月から半年前には取引先に共有することなどを勧めています。

【価格転嫁サポート窓口】
また、こうした価格交渉に関する知識や原価計算の方法などを伝える「価格転嫁サポート窓口」も全国47都道府県に設置しています。

【下請Gメン】
さらに「下請Gメン」と呼ばれる調査員を全国に300人配置し、大企業などが中小企業の価格転嫁の要請に適切に対応しているかなどをチェックしています。

【人件費の価格交渉指針】
公正取引委員会などは中小企業が人件費の増加分を価格転嫁できるよう発注側と受注側の双方に求められる行動などをまとめた指針を公表しています。

〇指針
▼発注側の企業に対し、受注する中小企業などからの求めがなくても、価格転嫁について定期的に協議する場を設けることなどが求められるとしています。
▼転嫁を求められたことを理由に取り引きを停止するなどの不利益な取り扱いをしないことも求めています。

【振興基準改正へ】
そして、中小企業庁は来月にも下請けと元請けの取引関係のあり方を定める「振興基準」の改正を目指しています。この基準に法的拘束力はありませんが、各省庁から指導や助言が行われる場合があるということです。

〇基準
▼人件費については公正取引委員会の指針を踏まえ適切に転嫁の協議を行うこと
▼原材料やエネルギーの適切なコスト増加分については全額転嫁を目指すことなどが盛り込まれる予定です。

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