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俳人西村麒麟さんと行く俳句の旅 ~春の隅田川界隈 向島&浅草~

  • 2024年4月8日

新生活、新年度、心おどる春に俳句はいかがですか。外を散策しながら俳句を作る「吟行」。
前回の秋に続く今回の舞台は、隅田川の東西にある墨田区と台東区。
一緒にお出かけしたのは新進気鋭の俳人、西村麒麟さん。若手の登竜門「石田波郷新人賞」など数々の賞を受賞している注目の若手俳人です。
フレッシュな春のエネルギーを感じながら、歴史と伝統を受け継ぐ3か所で俳句に挑戦!

俳人を魅了する 向島百花園で一句

まずやってきたのは隅田川の東側、200年の歴史がある向島百花園。
町人文化が花開いた、文化・文政期の江戸時代。江戸商人の佐原鞠塢(さはらきくう)が町民のために作った庭です。園では一年を通じて、600種あまりの植物を楽しむことができます。池や竹林など趣ある風景であふれているんです。

西村麒麟さん

僕だけじゃなく、夏目漱石や正岡子規、高浜虚子から石田波郷、みんな来ています。

園内で向島百花園をよく知る人が迎えてくれました。茶屋を営み、この庭を作った佐原家の子孫、9代目の佐原まどかさんです。

佐原まどか
さん

ここはやっぱり季節の移ろいが醍醐味で、そのときどきもいいんですけれど、4回来ていただいて、春夏秋冬の違いを見ていただくと楽しみが全然かわってくると思います。

少し肌寒かったこの日、名物の甘酒としょうが湯をいただきました。

古谷
アナウンサー

温かいものおいしいですね。

 

 

“暖か”というのも春の季語なので、暖かや~というのは今いちばんの実感。

いよいよ俳句作り。足元にもたくさんの発見がある百花園で、春の一句です。

 

すごく感じのいい句だと思いました。私がつくしになっているような感じもするし、私が友人としてのつくしを見てるような感じがして、つくしの春の喜びを感じているようすがよく出ているんじゃないかなと思います。直すところはない。

髙橋
リポーター

梅の下を見たら種が落ちていたんです。それを見ていたら200年余りの歴史がある場所で、先人の方々が植えたものが今もつながっているという場所なんだというのをすごく感じまして。ちょっとかっこつけて種宿る土と詠みました。

 

立派ですね、これも直すところありません。百花園らしさが出てる句だと思います。

 

私たちであり、私たちの後ここに来られた方、私たちの前にこられた方、いろんな人のその一日の百花園の過ごし方に、それぞれに春風を感じているんじゃないかなというような思いが入っています。

ちなみに…向島百花園内には29の句碑や石柱が随所にあります。この庭づくりに協力した文人たちなどが建立したといわれています。松尾芭蕉をはじめとする作品を見ることができて、俳句の勉強の場としてももってこいなんです。

浅草寺の“おたぬきさま”で一句

次に向かったのは隅田川の西側。多くの人でにぎわう浅草寺ですが、訪ねたのは参道からちょっとそれた浅草寺の一画にある「鎮護堂(ちんごどう)」。
通称「おたぬきさま」とよばれ、たぬきがまつられています。火除けや盗難除けを祈願する場所として大切にされているんです。

 

おたぬきさま、おたぬき、たぬき「他を抜く」ということで、他の人をぬいて出世する、縁起がいいというので芸人などの信仰もあついそうです。

たぬきにつながるものがもうひとつ。幇間塚(ほうかんづか)です。「幇間」とはお座敷で芸を見せ宴席を盛り上げる仕事で、太鼓持ちやたぬきとも呼ばれています。

先人の供養のため建立された幇間塚の裏には、150人あまりの幇間の名が刻まれています。
碑の表には、その人たちを思って詠んだ句が。

「またの名のたぬきづか春ふかきかな」

作者は、浅草生まれの俳人、久保田万太郎。
お座敷芸を守り続けた幇間への思いを句にこめました。

 

春ふかきっていうのは俳句の世界では桜の花どきなんかが過ぎた、晩春のころのことをいいます。たぬきづか、今までの芸人さんのことを思いながらこの碑をながめて、ますます今春深くなっていくことに思いをはせているという。

浅草というにぎやかな一画で、伝統を支えてきた人を偲ぶおたぬきさま。ここで詠む一句です。

 

たぬきの腹鼓が目覚まし時計っていうつもりで詠みました。

 

今日僕たちは、おたぬきさまに来てるので分かるんですけれど、離れた人にこれ見てと見せたときに、ポンポコリンって何なんだろうとなってしまう。何がいいたいのかがちょっと伝わりにくい。でもかわいいのでこのままでいいかなと。

 

幇間塚の表に万太郎先生の句が書いてあって、裏も幇間塚というのはすばらしい。“暖かな”というのはきょうが暖かいというよりも、この碑を作った心が温かで、これを見させてもらった私たちの心もまた温かな感じがするというようなところでしょうか。

 

さすが麒麟さんは裏を見通してますね。

150周年!地域に愛される小学校で〆の一句!

最後に向かったのは、久保田万太郎の母校でもある、台東区立浅草小学校。
令和5年度、創立150周年を迎えました。訪ねた日は卒業式だったんです。

 

入学式も卒業式も春の季語になります。

浅草小学校で7年間を過ごした大石京子校長(撮影当時)が出迎えてくれました。
大石校長も3月いっぱいで退職するといいます。毎日見てきたという学校の自慢の場所を案内していただきました。

玄関を彩る、ステンドグラスです。隅田川の桜並木、浅草の夏の風物詩、三社祭。秋は小学校の運動会。そして冬はお正月の羽子板市と、浅草の四季と子どもたちをテーマに描かれています。

 

子どもたちの生き生きしてる感じが、カラフルな色からすごく感じます。

大石京子
さん

街の息遣いが伝わってくるようですね。子どもたちが毎日元気に楽しく通って楽しくこられるようにということで設計されたときいています。

校庭にも学校のシンボルがあるということで案内していただきました。
「すずかけそよぐ風も清く」と、校歌の2番に登場する「スズカケノキ」。校庭から子どもたちを、四季を通じて見守ってきました。
締めくくりの俳句のテーマは、150年、地域の伝統と歴史を受け継ぎながら、新たな春を迎える小学校へ、贈る俳句です。

 

卒業する子どもたちがみんなうれしそうなんですよね。その子どもたちの瞳の先では風光ってるんだろうな、なかなか風光ってるなんて普段は意識できないけれど、卒業式のこの一瞬ぐらいは、きれいだな何かキラキラ街が輝いてるなって感じてるんじゃないかなと思って、この句を作ってみました。

 

心がたいへん込もっている句だなと思いました。子どもの美しい姿も見えているかなと、“風ひかる”とかいているようで、子どもたちの瞳もまた輝いているというような感じが伝わってくるんじゃないかなと思います、すごくいい句だと思います。

 

僕もあの有終の美を飾って、今日一日を卒業できたような気になります。

 

保護者の方々に贈った言葉、思いです。6年間一生懸命共に歩み育ててこられた保護者の方々が、大きくなった背中の子どもたちを見て、また小学生から中学生になり新たな送っていく日々が始まるということで。この春から一年、頑張っていきましょうっていう思いです。

 

卒業という言葉を使わずに卒業した子どものことをうまく表現できてるんじゃないかなと思います、卒業の句としてはかなり珍しい書き方かと思います。“送る春”だけだと弱いかもしれないけれど全体の表現としてはいいんじゃないかなと思います。

 

スズカケノキは別名プラタナス。この学校のシンボル、スズカケノキもまた卒業歌を聞き、子どもたちの声を聞き、その背中を送っているんではないかという意味でプラタナスと上五に置かせていただきました。

家で歳時記を開いて、卒業というイメージだけではきょうの句はできなかったんじゃないかと思います。外に出るっていうのは大事なことだなと改めて思いました。

麒麟流作句法

俳句を上達させるコツ、基本の3箇条、「麒麟流作句法(さっくほう)」をご紹介。

●その一「わかる」
相手にも分かる、伝わるように。コツは赤のことを紅というように格好つけるのではなく、簡単な言葉を選びましょう。

●その二「すっきり」
ターゲットをひとつに絞ることでより分かりやすくなります。

●その三「いきいき」
これが一番大切!うそでない、自分の思いが入った句は詠み手にも伝わります。

 

【編集後記】

卒業式という節目の日に、浅草小学校を取材させていただきました。
浅草という地にあり、ここで学ぶ子どもたちは、ものおじせずとっても社交的だそう。私も出会った子どもたちに次々と話しかけられ、未来の浅草を背負っていくたくましさを感じました。

そして、ぜひご紹介したいのが子どもたちに親しまれている「あさっち」。
150周年を機にうまれたマスコットキャラクターで「スズカケノキの妖精」なんです。玄関で子どもたちを迎え、1年間一緒に過ごしてきたそうですが…。3月にお別れ会が。
大石校長によると、スズカケノキの中のあさっちのおばあちゃんとおじいちゃんから「帰っておいで」という呼びかけがあり、木の中に帰っていったというのです。お別れ会では泣いてしまう児童もいたそうですが、初夏には青葉が茂り、またあさっちが現れるそう。
ことしも、玄関のステンドグラスと共に、新入生を温かく迎えてくれるんだろうと感じました。

取材担当:髙橋香央里

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