未来への証言 動物管理センターと震災

(初回放送日:2022年3月8日)

※NHK仙台放送局では震災伝承のため被災者の証言の音源を保存・公開しています。

仙台市の獣医師・亀田由香利さんの証言です。
亀田さんは震災当時55歳。飼い主のいない犬や猫を保護して世話をする市の動物管理センターに勤務していました。地震や津波で飼い主とはぐれ、保護される動物が増えるなか、亀田さんは動物たちを再び飼い主のもとに戻す活動に取り組みます。

▽証言はこちらから(音声が再生されます)▽

手嶌)震災当日、亀田さんはどういうことをされていたんですか?

亀田さん)(動物管理センターで)会議をしていて、本当に大きな揺れが来て、その前にちょっと大きな地震があったんですけども(東日本大震災2日前の3月9日、宮城では最大で震度5弱を観測する地震が発生)。その程度の地震かなと思ったら非常に長く、バタバタと動物のチェックをしたり、色んなことをした記憶があります。

手嶌)その時の動物の様子はいかがでしたか?

亀田さん)その時は、職員にとりあえず動物を全部チェックしてもらったんですけど、動物舎がその時は倒れることもなく、動物も比較的落ち着いているように見えました。特に逃げることもなく。事務所とかグチャグチャでしたけども、動物は大丈夫でした。その後、電気も止まりガスも止まり、電話とかも一切通じない、携帯も通じない状況だったので。とりあえず「そのうちきっと水止まっちゃうかもしれない」。動物を扱っていましたので「(水を)くみ置きしなさい」ってことで、みんなでくみ置きしたり。

手嶌)ライフラインが止まった状況で、数日間、動物たちは大丈夫だったんでしょうか?

亀田さん)そうですね、意外とエサの保管とかある程度あったんですけども、水なんかも、残していたものと、水が出るところもあったので、そういう所からもらったり、色々そのへんも工夫しながら。あと本当に寒かったので、石油ストーブでお湯にして温めたものとか、カイロとかそういうものを色々使いながら、出来ることをみんなで考えながらやっていましたね。

手嶌)そして、センターに運ばれてくる動物の数は増えてくるわけですよね。

亀田さん)そうです。保護し、飼い主のもとに戻せるものは戻し、戻せないものは譲渡していくっていう作業をしていきました。1年間で保護されたのが、犬は394頭。猫は1045頭。犬と猫で1500近く。どこで見つかった子か、どういう犬種で、雑種だとかラブラドールとか。どんな色で、オスかメスかとか、どれぐらいの年齢なのかとか、模造紙を貼って、手書きでがーっと並べていって、センターに来れば一覧で分かるように。壁に貼りました。

手嶌)どれくらい返すことができたのですか?

亀田さん)366頭、返すことができました。すごくマスコミさんの力があって、(テレビの画面に)テロップで情報を出してもらったりというのが結構大きかったです。助かりましたね。あと週刊誌の方も取材に来てくれて、(失踪した)動物の写真を載せてくれたり。あとはSNSで流してもらったり。本当にこれだけの頭数をもとの持ち主に返せたのは奇跡だったんじゃないかなと思います。

手嶌)いま振り返って、感じることはありますか?

亀田さん)そうですね。やっぱり「ペットの力」。ああいうことが起きて、すごく精神的なショックを受けて、生きていることすら大変な状況の中で、ペットの力っていうのは大きいなと。この子のために何とか自分も生きなきゃいけないし、生活を再建していかなきゃいけない。ペットがそう思わせる力が、ものすごいなって。逆もあって、わが子を置いてきてしまった、本当に「何とかしてくれ」って泣きついてこられたこともあるし、ペットを失くした時の人間の精神的な痛手がものすごいものだというのは、逆にそういうことも感じました。ペットを飼っていない方も、その辺を理解できるような社会になればいいかなって思うんですけどね。