取材ノート「今をともに~すい臓がんの患者会~」

んの中でも難しいとされるすい臓がん。
7月7日放送の「東北ココから」では、仙台にある全国でも数少ない患者の会についてお伝えしました。
会が5月末に行った屋外でのドレス姿の写真撮影会を目標に、日頃から命と向き合うそれぞれの患者と家族。
『今』を大切に生きる姿を、カメラを通して見つめたカメラマンが、思いをつづりました。

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「すい臓がん患者を一人にしたくない」と語ってくれた患者会代表の濱端さん。

もし、いま一人で悩んでいる患者さん、そしてそのご家族やご遺族の方がいらっしゃいましたら、患者会に連絡してみてはいかがでしょうか?メンバーの皆さんに温かく迎え入れていただけるはずです。

すい臓がん患者と家族のためのおしゃべりサロンぶどうの木
https://site-budounoki-suizougan.mystrikingly.com/

また、濱端さんが日々の生活をつづるブログもあります。
https://ameblo.jp/miro3161/

※いずれもNHKサイトを離れます。

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私はこの番組にカメラマンとして取材チームに加わりました。がん患者の方々の取材と聞き、いつも以上の緊張感で臨んだロケでした。でも始まってみるとその緊張はまったく不要で、取材の時間はむしろ皆さんの言葉のすごさに鼓舞され、癒され、心が温かくなる日々でした。

「いまこうしている何でもない時間がとても大切」
「過去の職場での小さなもめごとすら愛おしい」
「何も考えない時間を過ごしてしまった。でも贅沢なひと時だった」
「あと一年、あと一か月、あと一日長く生きるためならなんでもやる」

皆さんの言葉です。人生のすべての時間、一分一秒を大切にしたいという強い思いが伝わります。ふと、自分たちは自らの人生の瞬間瞬間を大切にしているのか、「生きる」ということの価値は何なのか、いろいろ考えさせられました。なぜそうした言葉を私たちに熱く語ってくれるのか・・・それはメンバーのみなさんがいろんな人にご自身が抱く大切な思いを知ってもらい、より豊かに生きてもらいたいという、利他的な動機なのではないかと思いました。

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写真撮影会当日、皆さんはキラキラと子供のように底抜けの明るさで衣装を選び、着付け、ヘアメイク、お化粧、そしてモデル撮影を楽しんでいました。美しいドレスやタキシードを身に纏い、緑あふれる定禅寺通を闊歩し、カメラの前に立つ皆さんを見ていると、こちらも楽しくウキウキした気分になりました。

はるばる千葉から来たみわさん(47歳でがんになった、高校生の子どもを持つ女性)がそのまぶしい笑顔とともにタクシーから現れた時、カメラを回しながら「どーもー!ようこそ仙台へ!」とかべらべら喋ってしまいました。ちょうど居合わせた患者会代表の濱端さんとの「抱擁」を撮影しながらファインダーのふたりの像は滲み、フォーカスが分からなくなりました。参加叶いましたね!ほんとよかったですね!

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写真撮影から戻ってきた長野さん(74歳、ご夫婦でダンススクールに通う男性)は、レンズを向けるや否や、底抜けに明るい笑顔で「いやーよかった!たのしかったです!」と、こちらも楽しくなる笑顔を見せてくれました。そして続いた言葉は「この楽しさを広げたい。いろんな人に楽しんでもらいたい」でした。自分だけ「よかった楽しかった」では終わらないのですね。やはり。

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入院・手術・抗がん剤治療・副作用・通院・不安との闘い・・・がんと共に生きる日々は物理的・精神的にいろんな形で皆さんを揺さぶり続けていると思います。そんな日常を過ごす皆さんのところに私たちがカメラを持って訪れると、どなたも満面の笑顔で「どーぞ、どーぞー!」と迎えていただきました。

濱端さんには連日取材をさせていただき、患者会主催者として走り回りながらもいつも快く私たちに付き合ってくださいました。患者会のムードメーカー石井さん(60歳男性・肺への転移なども乗り越えながら、いつも陽気なバンドマン)はとても明るく、冗談を連発しながら楽しく我々に接していただきました。名古屋からいらしたMaaさんにはカメラを向けた初日に、今のお気持ちを真っすぐに語っていただきました。ちーさん(元教師で早期退職の直前にがんになった55歳の女性)からは、熱血先生の温かい「喝」をいただきました。ダンサーの長野さんは取材3日目から私を名前で親しく呼んでいただきました。めちゃくちゃうれしかったです。みわさんは常にあふれる笑顔で接していただき、娘さんとの二人の貴重な時間もおすそ分けいただきました。その娘さんも、大切なお母さんへの思いを真っすぐに我々に話してくれました。皆さんの大切な時間を取材という言い訳で共に過ごさせていただき、心温まる日々でした。本当にありがとうございました。

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すい臓がんという病に打たれ、翻弄され、その後に勝ち取ったものなのか、その方がもともと持っている優しさが困難の中で磨かれるのか、ともかくメンバーのみなさんは周りの人を励まし、周りの幸せを考え、利他的な生き方をする方々ばかりでした。取材中、カメラ・マイクを向ける私たちの背中を「バーン!」と叩くような温かい励ましをいただいた気がしています。番組ではこの皆さんの笑顔と言葉をもらえます。ぜひご覧いただき、感想や質問などお寄せください。お待ちしております。

カメラマン・浅見雄一郎
NHK仙台放送局・コンテンツセンター・制作技術