【記者解説】防衛費財源の増税案「主導権争い? アピール合戦?」

自民税調幹部 税率など数値入れた案提示へ

防衛費増額の財源を賄うための増税策をめぐり、自民党の税制調査会の幹部は15日の調査会の会合で税率などの数値を入れた案を示す方針です。議論が拙速だなどとして反発が続く中、12月16日に決定したいとしている税制改正大綱にどこまで具体的に盛り込めるかが焦点です。

防衛費増額のため不足する1兆円あまりの財源を賄うための増税策をめぐり、自民党税制調査会は13日から党所属の国会議員が広く参加する形での議論を開始し、14日、幹部が法人税、たばこ税、「復興特別所得税」の3つの税目を組み合わせるとした増税案のたたき台を示しました。

この中では、▽法人税は納税額に一律に上乗せする付加税を課す一方、中小企業の追加負担には配慮すること、▽たばこ税は段階的に引き上げを実施すること、そして▽「復興特別所得税」は税率を引き下げた上で、引き下げ分を新たな付加税として課すことなどが盛り込まれました。

そして、15日の会合では、法人税額に課す付加税の税率や、「復興特別所得税」の課税期間の延長年数など、具体的な数値を入れた案を示す方針です。

調査会の幹部は15日に意見集約を図った上で、16日に与党の税制改正大綱を決定したいとしています。

党内から議論が拙速だなどとして反発が続く中、岸田総理大臣の指示も踏まえて税率や実施時期など、どこまで具体的に大綱に盛り込めるかが焦点です。

【記者解説】「安倍派内での主導権争い アピール合戦の側面も?」

Q1.防衛費増額の財源を賄うための増税策については、岸田総理大臣の発表以来、高市経済安全保障担当大臣や西村経済産業大臣など閣内や、党内から異論が相次いでいるがどう見るか?。

(政治部・坂井一照記者)
A1.異論を唱えている議員の多くは、今回の増税議論のプロセスを問題視しています。

岸田総理大臣が、1兆円あまりの財源が不足するとして、与党に、増税の検討を指示したのは、わずか1週間前です。
そして、今週中に与党案をまとめようとしているわけですから、こうした議論の進め方が反発を招いている面もあります。
一方で、特に反発している議員は、安倍派に多く見られます。
安倍元総理が、生前に「防衛費の増額は国債で対応していけばいい」と発言したこともあり、ほかの派閥からは、安倍派内での主導権争いをにらんだ、アピール合戦の側面もあるのではないかという見方が出ています。

Q2.そもそも今回の増税策は、「来年度からではない」としている。なぜ、岸田首相は急いで決めようとしているのか。

A2.財源の裏付けがない計画は「絵に描いた餅」になってしまうという懸念からです。

ある政権幹部は「岸田総理は、防衛力の強化策を、自分が打ち出した以上、表裏一体である財源も決めておくことが政権としての責任ある対応だと 捉えている」と語っています。
「増税ありきだ」という批判に対しても、財源の4分の3までは歳出改革などでメドをつけつつ、どうしても足りない分について国民に協力を求めたものだとして、理解を得たいというスタンスです。
一方、政府内では「党内に反発があるからといって ここで折れれば政権がもたなくなり、岸田総理は勝負に打って出ている」という見方もあります。
自民党内の議論が大詰めとなる中、岸田総理みずからが直接、根回しにあたるという情報もあり、まさにリーダーシップが問われている局面と言えます。

Q3.自民党税制調査会の幹部は、16日に税制改正大綱を決定したいということだが、どこに注目すればいいか?

A3.拙速な議論だとして、党内の反発が根強い中、増税の税目・税率・実施時期について、どこまで盛り込めるかという点です。
特に、早くても再来年度以降となる増税の実施時期を、今の時点でどこまで決めるのか。
また、反対意見が多く出ている「復興特別所得税」について、被災地の復興への影響に対する懸念をいかに払拭できるかも注目されます。
与党の税制改正大綱の書きぶりが、仮にあいまいな内容であれば、岸田総理の指示が結果に結びついたことにならず、求心力の低下につながりかねないという指摘もあります。
それだけに、記述にどこまで具体性があるかが焦点となります。

政治部記者
坂井 一照
2010年入局。新潟・名古屋・沖縄局を経て去年9月より政治部。