「北方領土の日」
住民大会 オンラインで配信

「北方領土の日」の7日、北海道根室市で島の返還を訴える住民大会が開かれました。新型コロナウイルスの影響で、ことしは大会の様子を元島民らにオンラインで配信する異例の形となりました。

「北方領土の日」は1855年2月7日に北方四島を日本の領土とする条約が結ばれたことにちなんで定められ、根室市では毎年、この日に住民大会が開かれています。

新型コロナウイルスの影響で、ことしは初めて一般の参加者を入れず、来賓などおよそ20人だけで行われた大会の様子はオンラインで配信されました。

この中で、択捉島出身の上松健吾さん(85)は「去年はコロナの感染拡大で交渉は停滞を余儀なくされた。われわれ元島民には残された時間が少ないので、政府には成果が見える力強い外交交渉を強く求める」と訴えました。

また、元島民のひ孫で根室高校1年生の三浦彩芽さん(16)は「元島民の高齢化が進む今、私のような島民4世も運動を引き継いでいかなければならない」と述べました。

最後に出席者5人が「北方領土を返せ」などと壇上でシュプレヒコールをあげると、オンラインで参加した人たちもあわせて声を上げていました。

元島民の平均年齢が85歳を超える中、地元では領土問題への関心が薄れることへの危機感が高まっていて、停滞している領土交渉や四島との交流事業の再開を望む声が強まっています。

千島歯舞諸島居住者連盟の河田弘登志副理事長(86)は「無観客での開催は少しさみしい気持ちがします。日ロ両首脳には1日も早く領土問題を解決してほしい」と話していました。

パソコンの画面を見ながらシュプレヒコール

歯舞群島の多楽島出身の河田隆志さんは(84)根室市の北方四島交流センターでインターネット中継を見ながら大会に参加しました。

河田さんは、70歳になってから本格的に返還運動に加わり、4年前の住民大会では、元島民などおよそ800人が出席して熱気に包まれるなか、壇上でスピーチしました。

ことしは感染拡大の影響で大会に出席できず、パソコンの画面を見ながら、かけ声に合わせて、シュプレヒコールをあげていました。

河田さんは語り部として、みずからの体験を全国で伝えていますが、活動の機会は去年はわずか10回と前の年の半分に減りました。

7日も宮崎県での集会にオンラインで参加し、語り部をする予定でしたが、直前に中止になりました。

河田さんは、コロナ禍で会えなくなった息子や孫に体験を伝えたいとみずからの半生を「自分史」として冊子にまとめました。

冊子には、多楽島に旧ソビエト軍が侵攻してきた様子や、兄と2人で島から引き揚げた体験などがつづられていて、語り部の活動でエピソードを紹介しています。

河田さんは「自分史」を書き足す作業を続けながら語り部としての活動を再開できる日を待ちわびています。

河田さんは「会場に行って皆と一緒に大きな声で『返せ』とやりたかったけど仕方ないです。やっぱり直接、言葉で伝えたいので、早くコロナに退散してもらって語り部を再開したい」と話していました。

菅首相がメッセージ「着実に交渉進める」

大会にビデオメッセージを寄せた菅総理大臣は「戦後75年が経過した今もなお、北方領土問題が解決されず、日本とロシアの間に平和条約が締結されていないことは誠に遺憾だ。去年9月、内閣発足後まもなく、プーチン大統領と電話会談を行い、平和条約締結問題を含む対話を継続することで一致した」と述べました。

そして「私の内閣においても、2018年のシンガポールでの首脳会談のやり取りはしっかりと引き継いでおり、これまでの両国間の諸合意を踏まえて、今後も着実に交渉を進めていく」と述べました。

また、菅総理大臣は、新型コロナウイルスの影響で中止になっている元島民による墓参などの交流事業について、早期の再開を目指す考えを示しました。

専門家「コロナ終息したらビザなし交流などを復活すること」

新型コロナウイルスの感染拡大は、元島民が北方四島を訪問する交流事業にも影響を及ぼしています。

例年5月から10月まで行われる「ビザなし交流」や「北方墓参」などの交流事業は、去年はすべて中止されました。

このため北海道は、去年10月に飛行機をチャーターし、元島民らが上空から島を眺めて慰霊する事業を行いました。

地元では交流事業に使う専用の船、「えとぴりか」を感染対策を施した仕様に改修するなど、再開に向けた準備を進めていますが、ことし再開できる見通しは立っていません。

一方、平和条約締結に向けた重要な1歩と位置づけられている北方領土での共同経済活動も停滞しています。

共同経済活動は観光やごみ処理、海産物の養殖などの分野が対象となっていて、おととしは試験的な観光ツアーや、双方のごみ処理状況の視察などが行われましたが、この1年は具体的な活動は行われませんでした。

根室市には、養殖分野の拠点となる施設も完成していますが、事業化の見通しは立っておらず、日ロ両政府の間で法的な枠組みなどの課題をめぐって協議が続けられています。

ロシア外交が専門の北海道大学の岩下明裕教授は「コロナ禍の状況が常態化するとロシア側が『もうビザなし交流をやらなくてもいいのではないか』と言い出しかねない。今、大事なことは新型コロナが終息したらすぐに元島民のビザなし交流や墓参を復活することであり、まずはそこに集中することが大事だ」と指摘しています。