香川県“ゲーム条例”
高校生ら憲法違反と県を提訴

ゲームやインターネットの依存症対策として、子どもがゲームをする時間を平日は60分までを目安にするとした香川県の条例は、ゲームを自由にすることを基本的人権として保障した憲法に違反するとして、県内に住む男子高校生らが30日、県に損害賠償を求める訴えを起こしました。

訴えを起こしたのは高松市に住む高校生、渉さん(17)と母親で、30日に高松地方裁判所に訴状を提出しました。

ことし4月に施行された香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」は、18歳未満の子どもが依存症につながらないよう、ゲームをする時間を平日は1日60分、休日は1日90分までを目安にルールを定めるよう保護者に求めています。

訴えによりますと、依存症につながらないよう時間制限を設けることに科学的な根拠はないうえ、家庭で自由にゲームをする時間を決めることは基本的人権として憲法で保障されており、条例はこうした権利を必要以上に制限し憲法に違反するとして、県に対して合わせて160万円の賠償を求めています。

訴状を裁判所に提出したあと、渉さんは高松市内で記者会見し「自分も条例の内容を守っているので、思うようにゲームができていないが、ゲームをする時間は行政に介入されるものではないと思う。裁判所には、違憲判決を出してもらいたい」と話していました。

この訴えについて香川県は「訴えの内容などに関する情報がなく、コメントは控えたい」としています。

条例 これまでの経緯

香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」の内容は、県議会の5つの会派に所属する議員14人からなる検討委員会で議論されてきました。

ことし1月に示された素案に、依存症につながりかねないゲームの利用時間を平日は1日60分までとする規定が盛り込まれると、賛否が分かれ、30日に訴えを起こした高校生も、条例案に反対するおよそ600人分の署名を県議会に提出していました。

県議会は条例案の採決に先立って、香川県民を対象に「パブリックコメント」を行いましたが、検討委員会には寄せられた2686件の意見のうち、賛成意見がおよそ9割を占めたことは報告されたものの、委員にも採決前に意見の原文は公開されず、ことし3月の本会議では3つの会派の議員が反対、棄権する中、賛成多数で条例案が可決、成立していました。

その後、寄せられた賛成意見の中には、文言の内容や送信日が全く同じものが複数あったこともわかり、条例が施行されたあとも、3つの会派が条例の制定過程を検証すべきだと当時の議長に申し入れたほか、条例の廃止を求める香川県弁護士会の会長声明や県民からの陳情が相次ぎました。

一方、最大会派に所属していた県議会議長は、条例の必要性は明らかだという見解を示し、条例の廃止を求めた陳情も最大会派などの反対によって不採択となりました。

条例の努力義務 司法の判断に注目

香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」は、ゲームをする時間の目安を定めるよう保護者に求めていますが努力義務とされ、罰則規定はありません。

憲法学が専門の井上武史関西学院大学教授は、努力義務を課す条例は、人の行動に影響を与える一方で、個人の権利をどれほど制限しているかがわかりにくく、日本では司法の場でその是非が争われることは少なかったと指摘しています。

そのうえで、努力義務が際限なく広がることは問題だとする国もあるとして「今回の裁判で裁判所がどこまで踏み込んだ判断をするかは、注目すべきポイントの1つだ」と話しています。