復興予算32兆円は
どう使われた?

東日本大震災の発生からの10年間に投入された国の「復興予算」は、およそ32兆円にのぼります。防潮堤や住宅の整備、それに生活支援など幅広い事業が行われました。

その一方、人口が減少するなかで事業が必要以上に肥大化したとの指摘も出ています。

国は32兆円を投入

10年前の東日本大震災では、「関連死」を含めた死者と行方不明者が2万2000人を超え、全壊した住宅はおよそ12万棟にのぼりました。

国は「復興予算」として、この10年間でおよそ32兆円を投入してきました。

財源には“増税”も

「復興予算」の財源。復興庁によりますと、最も多いのは
▽いわゆる「復興増税」による増税分です。12兆4000億円と全体のおよそ4割を占めます。

増税は今後も続き、▼個人の所得税は、納める額に対しての2.1%上乗せが2037年まで続くほか、▼住民税への1人あたり年間1000円の上乗せも2023年度まで続きます。

また、増税以外では、
▽子ども手当や高速道路無料化の見直しなど予算の配分の変更や、
▽国が保有する日本郵政などの株を売却することなどでまかなうとしています。

32兆円の内訳は?

「復興予算」32兆円の内訳を見てみます。

▽最も多かったのが「住宅や防潮堤、道路などの整備費用」で、合わせて13兆3000億円です。

▼千葉県から青森県までの432キロに及ぶ防潮堤の整備や、
▼被災地域での高速道路の整備、
それに
▼高台への集団移転や土地のかさ上げを伴う宅地の整備、災害公営住宅の建設などに使われています。
▽「産業や生業の再生」には4兆4000億円が投入され、被災地への企業誘致や中小企業の支援などにあてられました。

▽「被災者の支援」には2兆3000億円があてられ、高齢者などへの見守り活動や移動支援、それに子ども向けの学習支援など、被災者の生活を支える事業に使われました。

▽「原発事故からの復興」にも2兆3000億円が投入され、避難した人たちの帰還を支える住宅や学校の整備などにあてられました。

一方、主に東京電力などが負担する事故に伴う廃炉や賠償などの費用は、この「復興予算」とは別の枠組みで確保されます。

異例の“全額国費負担”

国はこの「復興予算」について「被害規模が大きく、被災した自治体の財政力がもともと弱い」として、当初の5年間、費用の全額を事実上、国が負担するという阪神・淡路大震災などでもみられなかった異例の対応を取りました。

通常の事業であれば地元自治体が負担する分の費用を「震災復興特別交付税」として交付し、国が肩代わりすることで、事実上、地元負担分をゼロにする仕組みです。

“肥大化”の指摘も

しかし“全額国費負担”としたことなどが事業を必要以上に肥大化させたとの指摘が、復興に関わった関係者や専門家などから出ています。

復興構想会議の議長として復興ビジョンを国に提言した兵庫県立大学の五百旗頭真理事長は「阪神・淡路大震災では復興のための財源をどう確保するのかが課題となったが、東日本大震災では増税を行って全国民が被災地を支えることで、災害に強いまちづくりができたと思う」と話しました。

そのうえで「私たちの提言のあとに、国が“全額国費負担”の方針を決めたが、そのことは想定していなかった。結果として『国が負担するならやれることは全部やろう』ということが起きたと思う。日本全体が人口減少の局面にあるなかよりいいものを作ることと、より大きいものを作ることは別のことだ。今後は復興をどういう規模で進めるのか、災害が起きたあとではなく、事前に考えておく必要がある。『防災庁』のような組織を作ることも検討すべきだ」と指摘しました。

“復興”は今後も続く

国は当初、10年としていた復興のための期間をさらに延長し、今後5年間でさらに1兆6000億円を投入する考えです。

繰越金7000億円も含めるため実際の増加分は9000億円で、「復興予算」の規模は32兆9000億円になります。

復興庁は当初の想定よりも税収が増えたことなどから、さらなる増税は必要ないとしています。

原発の廃炉や除染などは別に確保

東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う廃炉や賠償などの費用は、「復興予算」32兆円の枠組みとは別に確保されます。

国の有識者会議は2016年の時点で、総額21兆5000億円が必要だとの見通しを示しました。

このうち▽廃炉は、東京電力が負担することになっていて、技術的に難度が高い対策には一部、国費が投入されます。

また▽除染は、国が一時的に肩代わりしたうえで、国が出資する「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」が保有する東京電力の株の売却益などがあてられる予定です。

▽中間貯蔵施設に関する費用は、国が、エネルギー分野の予算から支払うとしています。

さらに▽賠償は東京電力だけでなくそのほかの電力会社も費用を負担していて、全国の人たちが電気料金を通じて広く負担している形です。