吉川元農相の事務所など
収賄などの疑いで捜索

自民党の衆議院議員だった吉川貴盛元農林水産大臣が大臣在任中に大手鶏卵生産会社の元代表から現金500万円を受け取った疑いがある問題で、東京地検特捜部などは収賄などの疑いで吉川元大臣の関係先を捜索し強制捜査に乗り出しました。特捜部は現金授受の詳しい経緯について実態解明を進めるものとみられます。

捜索を受けているのは、東京 千代田区の衆議院第二議員会館にある吉川貴盛元農林水産大臣の事務所や札幌市北区にある地元事務所などです。

吉川元大臣は、おととし10月から去年9月まで農林水産大臣を務めましたが、広島県福山市に本社がある大手鶏卵生産会社「アキタフーズ」の元代表から、大臣在任中に現金500万円を受け取った疑いがあり、東京地検特捜部は元代表や吉川元大臣から任意で事情を聴くなどして捜査を進めています。

「アキタフーズ」の元代表は、業界団体の日本養鶏協会の顧問などを務め、「アニマルウェルフェア」と呼ばれる家畜の飼育環境の国際基準や、生産者への補助事業などについて国会議員や農林水産省に陳情や要望活動を行い、吉川元大臣とも大臣室などでたびたび面会していたということです。

特捜部と広島地検は、吉川元大臣に提供された資金が農林水産大臣の職務に関連した賄賂だった疑いがあるとみて、収賄や政治資金規正法違反の疑いで強制捜査に乗り出しました。

関係者によりますと、元代表は「違法性がある資金提供だと分かっていた。業界全体のためにしたことだった」などと周囲に説明しているということです。

一方、吉川元大臣も周囲に元代表から現金を受け取ったことを認め「自分の不徳の致すところで、検察に説明を求められれば事実をすべて話したい」などと話しているということです。

特捜部などは捜索で押収した資料を分析し、吉川元大臣と元代表の関わりなど現金授受の詳しい経緯について実態解明を進めるものとみられます。

吉川元大臣は心臓病のため入院治療中で、手術を受けるとしていて、「国会議員としての職責を果たすことが難しい」として、今月22日、衆議院議員を辞職しています。

吉川貴盛元農相のこれまで

自民党の吉川貴盛元農林水産大臣は当選6回で70歳。

鳩山邦夫元総務大臣の秘書や北海道議会議員などを経て、平成8年の衆議院選挙で北海道2区から立候補し、初当選しました。

その後、経済産業副大臣や農林水産副大臣などを歴任しおととし10月から去年9月まで第4次安倍改造内閣で初入閣し、農林水産大臣を務めました。

自民党では二階派に所属し、経理局長を務めたほか、農協改革の党の作業チームの幹部として農協改革の関連法の成立に取り組みました。

また、菅総理大臣とは当選同期で、ことし9月の自民党総裁選では、推薦人の1人に名を連ね、菅氏の選挙対策本部の事務局長を務めました。

総裁選後の党の役員人事では、選挙対策委員会ナンバー2の委員長代行に就任しました。

しかし、資金提供の疑惑が報じられたあとの今月2日、地元や党の関係者にご心配かけおわび申し上げるとしたうえで、「国会審議と党運営に迷惑をかけたくない」として党のすべての役職を辞任し、「当局から説明を求められることがあれば誠実に対応させていただく」とするコメントを発表しました。

そして心臓病のため入院治療中で、手術を受けるとしていて、「国会議員としての職責を果たすことが難しい」として、今月22日、衆議院議員を辞職しています。

アキタフーズとは

広島県福山市に本社がある「アキタフーズ」は昭和41年に設立された大手鶏卵生産会社で、民間の信用調査会社によりますと去年の売り上げは416億円余りに上っています。

広島県内のほか静岡県や千葉県に農場を保有し、鶏卵の生産から販売までを一貫して手がけ、全国のスーパーや食品会社などに出荷しています。

「アキタフーズ」は去年の参議院選挙で河井案里議員を支援していましたが、ことし7月、河井元法務大臣夫妻の選挙違反事件の関係先として本社などが検察当局の捜索を受けました。

元代表はその翌月に辞任し、会社は「企業体質の刷新を行う」として経営刷新委員会を設置しました。

関係者によりますと元代表は「河井元法務大臣から吉川元大臣を紹介された」と話しているということで、吉川元大臣への資金提供については「違法性があると分かっていた。業界全体のためにしたことだった」などと周囲に説明しているということです。

また、元代表は吉川元大臣のほかにも西川公也元農林水産大臣や複数の国会議員などに現金を渡したと周囲に説明しているということです。

アキタフーズは今月3日、「報道されている件は、弊社として関知していたものではありませんが、検察当局の捜査に全面的に協力して参ります。今後さらなる組織改革と体制見直しを行って参ります」などとするコメントを発表しています。

アキタフーズ元代表知る男性「カネや票で政治家に貢献と話す」

複数の関係者によりますと「アキタフーズ」の元代表は日本の養鶏業界の有力者で、政界に太いパイプがあることを周囲に強調していたということです。

NHKの取材に対し、元代表を知る男性の1人は、「カネや票で政治家に貢献しなければ動いてもらえないということをよく話していた。元代表が業界団体の役員になってから、農水省に影響力がある政治家が業界の会合によく来るようになった」と話しています。

また、「鳥インフルエンザへの対応や養鶏業者への補助事業の拡充などは元代表の力無くしては実現できなかった。養鶏業界にとっての功績は大きい」と話していました。

鶏卵生産者経営安定対策事業とは

「鶏卵生産者経営安定対策事業」は卵の価格が一定の基準を下回った場合、差額の9割を補填(ほてん)したり、価格がさらに下がった場合に鶏舎を一定期間空けて需給の改善を図った生産者に奨励金を支払ったりする事業です。

今年度の予算は51億7000万円余りで、国と生産者が拠出する積立金や協力金が財源となっています。

昨年度までは、鶏舎を一定期間空けて奨励金が支払われる段階まで卵の価格が下がった場合、10万羽以上を飼育するアキタフーズのような大規模な生産者は差額補填の対象から外れていましたが、今年度からは大規模生産者も対象となりました。

こうした事業を含む今年度予算の概算要求は、吉川元大臣が在任中の去年8月に提出されていました。

アニマルウェルフェアとは

家畜にとってストレスの少ない飼育環境を目指す「アニマルウェルフェア」をめぐっては、日本も加盟する国際機関、OIE=国際獣疫事務局が国際基準の策定を進めています。

「アニマルウェルフェア」は特にEU=ヨーロッパ連合の地域で消費者の関心が高いとされ、おととし9月、OIEは鶏の習性に配慮して「巣箱」や「止まり木」の設置を義務づける国際基準案を加盟国に提示しました。

しかし、日本の養鶏業界ではカゴに入れて飼育する「ケージ飼い」が主流になっているため、基準案に対応するためには大規模な施設の改修などが必要となり大幅なコスト増につながることなどが懸念されたということです。

このため業界団体の日本養鶏協会などはおととし11月、当時の農林水産大臣だった吉川氏に対し「日本の鶏卵生産者に大きな打撃を与える」などとして基準案に反対するよう求める要望書を提出し、業界団体の幹部だったアキタフーズの元代表も立ち会っていたということです。

農林水産省はOIEの基準案について対応を協議し、去年1月、日本政府は「止まり木」や「巣箱」の設置義務化について「卵のひびや汚れが増加し、鶏の死亡率も上がる」などとして反対する意見をOIEに提出しました。

去年9月にOIEから示された修正案では「止まり木」などの設置義務化は見送られ、日本から出された反対意見が反映される形になっていました。

地元の選挙区では

東京地検特捜部などが、吉川元大臣の札幌市の事務所などを捜索していることについて、地元の選挙区で話を聞きました。

このうち、20代の男性は「不正なものがあるならばよくない。捜査が行われるのであればしっかり調べて、はっきりさせてほしい」と話していました。

また、30代の女性は「しっかりと調べてもらいたい。もし癒着があり、秘密が隠されているならば明らかにしてもらいたい」と話していました。

野上農相「政策判断はいずれも妥当だった」

吉川貴盛元農林水産大臣が大臣在任中に大手鶏卵生産会社の元代表から現金を受け取った疑いがある問題で、東京地検特捜部が強制捜査に乗り出したことについて、野上農林水産大臣は25日の閣議のあとの記者会見で、「報道があったことは承知しているが、詳細は承知しておらず、捜査機関の活動に関わることでもあるのでコメントは差し控えたい」と述べました。

そのうえで、農林水産省の対応について「政策判断については、いずれも妥当なものだったと考えており、報道をもとに現段階で調査を行うことは考えていないが、捜査活動に関する協力要請があれば適切に対応していきたいし、政策について疑念を持たれることがないように状況に応じて対応していきたい」と述べました。

自民 石破氏「事実なら国民の利益にならない」

自民党の石破元幹事長は、東京都内で記者団に対し「まだ家宅捜索の段階であり、事実関係が明らかになっていないので、コメントすることはない。仮に、報じられているような資金の流れがあり、本来あるべき政策が変わっていたとしたら、国民の利益にはならない」と述べました。

立民 安住氏「長期政権のうみが出ている」

立憲民主党の安住国会対策委員長は、記者団に対し「前総理大臣、元農林水産大臣と、安倍内閣の主要メンバーが次々と東京地検特捜部の事情聴取や強制捜査を受け、長期政権のうみが出ている。自民党全体が感度が鈍くなり、腐敗している可能性が高い。菅総理大臣は自民党総裁として、リーダーシップをとって実態解明をしなければ信頼回復できず、国会での証人喚問や参考人招致が不可欠だ」と述べました。

国民 玉木氏「菅政権や農林水産省は説明を」

国民民主党の玉木代表は、記者団に対し「元大臣の事務所に家宅捜査が行われたのは極めて深刻な事態だ。閣僚の職務権限に関わる捜査なので、元大臣だけでなく、菅政権に対しても、事実関係を明らかにして説明するよう求めていきたい。また、農林水産行政そのものに疑念が投げかけられており、農林水産省もみずから調査し、説明責任を果たすべきだ」と述べました。