次期戦闘機の輸出協議
2月中の結論至らず そのわけは?

2月28日。
国会内で自民党政務調査会長の渡海紀三朗は「さらなる努力を続けていきたい」と発言した。
次期戦闘機など他国と共同開発する防衛装備品の第三国への輸出を認めるかどうかの与党協議後の会見。
政府が求めてきた2月末までの結論が見送られた瞬間だった。なぜ結論は3月に先送りされたのだろうか。
(黒川明紘、鈴木壮一郎、佐々木森里、唐木駿太)

(3月5日 R1「マイあさ!」で放送)
【聴き逃し配信リンク】12日(火)午前8:28配信終了

次期戦闘機とは

次期戦闘機とは、ひと言で言えば、今の戦闘機に代わって開発する戦闘機のことだ。

次期戦闘機の模型
次期戦闘機の模型

日本は現在のF2戦闘機が10年後をめどに退役するため、後継機が必要となっていた。

航空自衛隊のF2戦闘機
航空自衛隊のF2戦闘機

しかし新しい戦闘機を開発するには、ばく大なコストがかかる。
それに対するアイデアが他国との共同開発だ。
コストやリスクを減らせるし、同じ装備品を使用することで、協力強化にもつながる。

すでに開発計画を進めていたイギリス・イタリアに加わる形で、3か国による共同開発を行うことになった。

次期戦闘機の模型

開発する戦闘機は、敵機を探知する能力を高める一方、敵のレーダーに探知されにくいステルス性をいっそう高め「どの国でも実現していない新たな戦い方を実現する」として、2035年の配備を目指している。

なぜ輸出が必要?

ではなぜ、この次期戦闘機の輸出が議論となっているのか。

どれもそうだが、生産数を増やせば増やすほど、材料の調達費用など、生産コストを下げられる。
開発・生産する戦闘機も3か国だけで使うのではなく、より多くの国に輸出すれば、コストを下げることができるという理屈だ。

しかしそのためには防衛装備移転三原則というルールを変えないといけないのだ。
2014年に策定された際、公明党の主張も踏まえ、殺傷能力のある装備品を輸出しないようにするために、「歯止め」の一環として共同開発による装備品の輸出を認めなかった経緯がある。

イギリス・イタリアは、日本に対し輸出を可能とするよう、ルールの見直しを求めた。

イタリアと日本、イギリスの国旗の表示

これに対し政府と自民党は、日本だけ輸出できなければ、3か国による開発に向けた協議でも不利になるとして、ルールを見直したいと考えている。

総理大臣の岸田文雄は国会で次のように述べた。

参院予算委で発言する岸田首相

「輸出は日本にとって好ましい安全保障環境を作る上でも重要だ」(3月4日参議院予算委員会)

難航する与党協議

しかし連立を組む与党、公明党との協議は難航している。

自民党と公明党の看板

自民・公明両党の実務者による協議は去年夏の段階では容認する方向で一致していたが11月に入り状況が一変。
公明党が幹部を中心に、輸出解禁に難色を示したのだ。

この状況が変わらない中、政府は2月末までに結論を出すよう求めた。
3月以降に3か国による開発の作業分担に関する協議が本格化すると見込まれていたためだ。

公明党 高木政務調査会長と自民党 渡海政務調査会長
公明党 高木政務調査会長と自民党 渡海政務調査会長

2月に入ってからは、岸田の提案で政務調査会長による協議に格上げした。
だが結局、2月中に結論は出なかった。

なぜ公明党は慎重?

なぜ公明党は慎重なのか。

ある政府関係者は次のようにつぶやく。

「戦闘機は殺傷能力のある武器そのものなんだよな」(政府関係者)

公明党は「平和の党」を掲げている。
殺傷能力のある装備品の輸出については紛争を助長しかねないとして一貫して慎重な立場で、今回、輸出が必要だという明確な根拠がないのに簡単に認めるわけにはいかないというのがあると見られる。

代表の山口那津男は「世論調査を見ても、反対が過半数を超えている。これでは国民の理解が得られているとはいえない」と繰り返した。

公明党 山口代表

政府の担当者たちが、公明党の幹部らに、輸出の必要性を説明すると「武器商人になれということか」と厳しい言葉もあったという。

「これは日本の安全保障政策の大きな転換になり得る」

これまで安全保障政策を決定する際に一定の「歯止め」をかける役割を担い、またその「歴史」を知っている公明党幹部には、その思いが強いのだと感じた。

総理は動く?

結論を得られなかったもう1つの理由。
両党から聞こえてきたのは総理がなかなか動いてくれないという声だ。

「膠着状態を打開するのには総理にリーダーシップを発揮してほしい」

そうした声が上がったが、政調会長に協議を格上げしたものの、みずから調整に乗り出すことはなかったとされる。

自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題への対応で手いっぱいだったのか。
それとも2月末という期限をそこまで重視していなかったのか、そこはわからない。
3月以降も調整が難航した場合、岸田が動く場面は来るのだろうか。

キーパーソンが動けない

一方でこの問題のキーパーソンが動きを取りづらいことも要因との指摘がある。

自民党の小野寺五典氏

その1人は自民党の元防衛大臣で衆議院議員の小野寺五典。
実務者協議の座長で、党内でこの問題に最も精通し岸田の側近の1人とも言われている。
その小野寺が去年10月に衆議院予算委員長に就任したのだ。

予算委員長は、通常国会が開かれれば、新年度予算案を審議しなければならず、連日開催される予算委員会を取りしきる最も忙しい役職の1つ。
このため1月の召集以降、動きづらい日々が続いた。

公明党も衆議院議員の浜地雅一がこの問題を実質的に取りしきっていたとされるが、浜地も去年9月に厚生労働副大臣に就任した。

公明党の浜地雅一氏

それらに加え能登半島地震もあり、決着させようという機運が高まらなかったことも2月中の結論が得られなかった要因と言える。

3月に入ったが?

次期戦闘機の開発は、3月以降に3か国による開発の作業分担に関する協議が本格化するとしていたが、影響はないのだろうか。

両党には、3か国の協議は3月下旬くらいから始まると聞いているので、そこまでに結論を出せればという声がある。

その一方で防衛省幹部の1人は次のように語る。

「3か国協議に参加する民間企業からは、交渉で不利になるので何とかしてほしいと言われていた。なるべく早く結論が出るよう見守るしかない」(防衛省幹部)

政務調査会長の協議で両党の隔たりは徐々に埋まりつつあるように見える。

政府・自民党は合意を目指し、装備品ごとに厳格な審査を行うなどの案、また輸出対象国を絞る案などで、公明党と一致点を見いだしたいという意見が出ている。

はたして決着するのだろうか。
日本の安全保障政策の転換ともなり得るだけに、今後もつぶさに取材を続けていきたい。

(文中敬称略)

(3月5日 R1「マイあさ!」で放送)
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政治部記者
黒川 明紘
2009年入局。津局、沖縄局を経て政治部。その後秋田局に異動し、2023年7月から再び政治部で防衛省を担当。
政治部記者
鈴木 壮一郎
2008年入局。初任地は津局。野党担当などを経て自民党の渡海政務調査会長を担当。
政治部記者
佐々木 森里
2015年入局。大分局を経て政治部。総理番、野党担当を経て現在は公明党を担当。
政治部記者
唐木 駿太
2017年入局。初任地は神戸局で2022年8月から政治部。総理番を経て、2023年8月から防衛省を担当。