どうなる派閥? 国民から厳しい声

自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題。
安倍派の議員が逮捕される事態となり、国民からいっそう厳しい目が注がれている。
岸田総理大臣は、再発防止策や派閥のあり方などを検討するため、11日、「政治刷新本部」を立ち上げた。改革は本当にできるのか。自民党議員に問うた。
(及川佑子、栁沼玲花)
※11日1700 自民党政治刷新本部の内容を盛り込んで更新しました。

強まる危機感

安倍派と二階派に強制捜査が入った2日後の12月21日。
自民党青年局のメンバーと会談した岸田総理大臣は、「自民党全体として危機感を共有し、一致団結して取り組まなければならない。今ほど国民の声を謙虚に聞かなければならない時はない」と述べたという。
そして、全国の若い世代の党員から再発防止策などについて意見を聞きとり、速やかに報告するよう指示した。

中曽根康隆 衆院議員ら自民党青年局のメンバー

指示を受けた1人、青年局長代理を務める中曽根康隆衆議院議員。
いま自民党には、党員から、どのような声が届いているのか。

自民党青年局 中曽根康隆局長代理
「例えば『説明不足だ』という声が寄せられている。もちろん捜査中であり、捜査が終わって事実が解明されるまで、なかなか断定的なことは言えないけれど、その中でも説明できることがあるのではないかと、そういった意見もあるし、『自民党の悪しき慣習に巻き込まれている』『イメージダウンだ』という怒りの声とか、現場ならではの声が寄せられている」

党員からも寄せられる厳しい声。
自民党は、この問題にどう向き合うべきと考えるか。

「当たり前のようにやってきたことが実は大きな間違いだったということはやはりある。ルールを守っていないということになれば、極めて重大で、猛省しなければいけない。国民の信頼回復に向けた新しいルール作りを、スピード感を持ってやっていかなければいけない」

派閥は必要?

改革は、政治資金規正法の改正に加え、派閥のあり方まで踏み込んだものとなるのか。
自身は二階派に所属する中曽根氏。
これを機に膿(うみ)を出し切るべきだとする一方、「派閥」の存在そのものを否定する考えはないとしている。

自民党青年局 中曽根康隆局長代理
「政治資金の処理の問題と、派閥の存在の可否というのは、一緒に議論するべきではないと個人的には思っている。派閥は、若手議員としては先輩からいろんなことを教えていただく大事な場でもあるし、同志と切磋琢磨して政策をつくっていく場でもある。国民の皆さんに理解・納得していただけるような政策集団というものになっていかなければいけない」

元日から厳しい声

年末年始も、地元に戻った自民党議員には国民から厳しい声が突きつけられていた。

市民から声を掛けられる牧原秀樹 衆院議員

牧原秀樹衆議院議員。
元日、来賓として招かれた行事で、市民から「最近、自民党はダメダメじゃないか」「あなたは新聞沙汰にならないでよ」などと声を掛けられていた。

牧原氏は「政治の現場が大変ご心配やご迷惑をおかけして、おわび申し上げます」などと頭を下げて回った。

自民党 牧原秀樹 衆院議員
「申し訳ないという言葉では足りないぐらい、政治にとって歴史的汚点となってしまう事件だ。国民の皆さんと接して思うのは、国民と政治が共感がないということだ。物価が上がるなど大変なことがあるときに、政治家は全く遠い世界で勝手なことを、自分たちの利益のためにやっているのではないかと。不信感というより断絶感を感じていらっしゃるという感覚を受けた」

“派閥の存在も前提とせず”

派閥には所属せず、谷垣元総裁を中心とする議員グループで活動している牧原氏。
信頼回復のためには、派閥の存在を前提とせず、党のあり方を議論すべきだという考えを示した。

自民党 牧原秀樹衆院議員
「派閥でお金を集めて子分を面倒見るとか、派閥で選挙や人事を主導するというふうになってきて、国民を向くというより派閥の中を向いてきてしまう。そういうところは私はおかしいことだなとすごく感じていたところだ。いったんゼロベースで、派閥の存在も前提としない形で、自民党の再生を議論しなければ、到底、国民の信頼は得られない」

そんな牧原氏。

事務所のホワイトボードに書き込んだ「今年の抱負」は、“たゆまぬ努力”だった。
「これが一番難しい」という。

“平成の政治改革”

果たして、政治改革は進むのか。

今から30年ほど前にも、リクルート事件をきっかけに政治不信が高まった。

当時、政治改革の議論をリードした財界人や学識経験者らで作る「民間政治臨調」。

1992年 民間政治臨調の発足総会

政治資金が「諸悪の根源」だとして、制度の早急な改革を求める緊急提言を行った。

提言には、「政治資金規正法の盲点をつき、出所を明らかにすることなく多額の政治資金を集めるという、不明朗な政治資金の調達方法は是正されなければならない」などと厳しい言葉が並んだ。

この頃、自民党議員だった元三重県知事の北川正恭氏に話を聞いた。
政治改革に取り組んだ1人だ。

元三重県知事 早稲田大学 北川正恭名誉教授
「本当に毎晩、毎晩、議論を重ねて、与野党いろいろな話をする中で、『もう政治改革だ。自分はこれにかけよう』と思った」

細川総理大臣(1994年当時)

1994年、政治改革関連法が成立。
政治不信の解消を目指し、小選挙区制の導入など選挙制度の改革で与野党が合意。
政党交付金制度も創設された。

(左)河野自民党総裁 (右)細川総理大臣(いずれも1994年当時)

元三重県知事 早稲田大学 北川正恭名誉教授
「覚えている。真夜中に、細川さん(当時総理大臣)と河野さん(当時自民党総裁)が握手するのを見て、感激して涙を流した。やっと念願がかなった」

残された課題

しかし、北川氏は、いま振り返ると、政治資金規正法の改革については、十分なものではなかったという。

元三重県知事 早稲田大学 北川正恭名誉教授
「あのとき、与野党が話し合ったが(合意は)妥協でできあがった。妥協とはどういうことかというと、『諸悪の根源は選挙制度にある』と、一点に絞ったこと。一点に絞ったから政治改革ができた。そのときはそれが限界だった」
「(パーティー券収入は)20万円までは政治資金収支報告書に記載しなくていい、というところなどが残ってしまった」

北川氏は、今度こそ積み残された課題に向き合うべきだと強調した。

元三重県知事 早稲田大学 北川正恭名誉教授
「国民をなめていた、政治家が、政党が。オープンでフェアな形になっていくべきだ。民主主義は不完全なものだが、修正できる。『民』が立ち上がったときに改革が起きる」

政治刷新本部

1月11日、初会合を開き、議論を開始した自民党の「政治刷新本部」。
本部長には岸田総理大臣が、最高顧問には麻生副総裁と菅前総理大臣が就いた。

初会合で岸田総理大臣は…。

「国民の厳しい目、疑念の目が注がれており、自民党をめぐる現在の状況は極めて深刻であるという強い危機感のもと一致結束して事態に対応していかなければならない。私自身、この問題を最優先、最重点の課題として取り組んでいきたい。国民の信頼を回復するため、日本の民主主義を守るためには自民党がみずから変わらなければならない」

会合では派閥のあり方をめぐり、無派閥の菅前総理大臣らが信頼回復には党として明確な対応を打ち出す必要があるとして派閥の解消を議論すべきだと主張した。

これに対し、次のような意見が出され、派閥のあり方の検討が焦点となる。

「派閥には若手議員の育成などを担う役割もある」

「派閥が金集めや人事でポストを得るための組織だと思われないような改革が必要だ」

一方、本部では政治資金の透明性を高める方策として政治資金規正法の改正も視野に▼収支報告書にパーティー券の購入者の名前などを記載しなければならない金額を引き下げることや▼会計責任者が不正な処理を行った場合に政治家にも責任を負わせることなども検討する見通しだ。

菅前総理大臣は記者団に対し…。

「リクルート事件を受けて出来た『政治改革大綱』で派閥の解消を宣言したが、できなかった。今回、事件が発生し、自民党としてどう対応すべきか明確に打ち出すべきで、非常に分かりやすいのが派閥の解消だ。派閥の解消は国民の声だ」

また、この人は…。

(無派閥の小泉元環境大臣)
「派閥という言葉を使うのがはばかられるのは、人事とカネの問題がにおうからだ。人事とカネがついて回るのが派閥であるならば、派閥を無くすという結論以外にない」

一方、安倍派に所属する太田房江参議院議員は、派閥を解消すべきか問われたのに対し…。

「自民党には部会など議論して政策を作る場があり、派閥との役割分担を整理しなければならない」

本部では来週、党所属のすべての議員を対象に会合を開くことにしていて、法律や会計の専門家らからも意見を聴き、今月中に中間的な取りまとめを行う方針だ。

“自民党に資格なし”

一方、野党は、その実効性について厳しく批判している。

立憲民主党 泉代表
「裏金をつくった議員たちにどのような対処をするのか、党としてどんなけじめをつけるのか、これが先ではないか。いまの自民党に改正案を考える資格はない。新しい組織なるものも、まさに派閥を運営してきたボスが入ってどんな議論ができるのか、どんな案が出てくるのか。国民の皆さんは、すでに期待していない」

通常国会の焦点に

1月26日に召集される見通しの通常国会。
政治改革が大きな焦点になる。
政治不信の払拭につながるような改革が実現できるのか。
本当に国民の厳しい目が注がれるのは、これからだ。

(ニュースウオッチ9で1月8日放送)

ニュースウオッチ9専属記者
及川 佑子
金沢局初任、政治部などを経て現在はニュースウオッチ9所属。安倍元総理銃撃事件や税調などを取材。
報道局政治番組ディレクター
栁沼玲花
札幌局初任、現在はニュースウオッチ9所属。原発の処理水放出や税調などを取材。