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新年度シリーズ①始まった「医師の働き方改革」

新潟・佐渡 「昼休みがほしい」動いたのは研修医
  • 2024年04月03日

 

新年度を迎え、私たちの暮らしはどう変わるのかお伝えするシリーズ。1回目は「医師の働き方改革」です。新潟県内には働き方改革の本格化を理由に、お産の対応を取りやめた病院や、外来を完全予約制に切り替えた病院もあります。こうしたなか業務を効率化し、医師の勤務時間を少しでも短縮しようという研修医の試みを取材しました。(新潟放送局 記者 藤井凱大)

医師の時間外労働に上限規制 運用始まる

今回、本格化する働き方改革とはどのようなものなのでしょうか?

労働基準法の改正で2019年から多くの業種で時間外労働に上限が設けられましたが、
医師や運送業などは準備期間の5年間が終わり、4月1日から規制が適用されるようになりました。

長時間労働の是正が期待される一方、地域医療への影響などいわゆる「2024年問題」と呼ばれる
課題にも対応が必要になります。医師の場合、時間外労働時間は上限が原則年960時間となるほか、
インターバル=休憩時間も求められます。

一方、地域医療に影響が出る場合などは特例として年1860時間となり、新潟県内では4つの病院がこの特例を申請しています。

県内には働き方改革の本格化を理由に、2023年にお産の対応を取りやめた病院や、
外来を完全予約制に切り替えた病院もあり私たち患者の側も意識を変える必要が出てきています。

こうしたなか業務を効率化し、医師の勤務時間を少しでも短縮しようという動きが出ています。

「昼休みを確保したい」動き始めたのは研修医

佐渡市のJA新潟厚生連佐渡総合病院です。
市内の救急の受け入れを一手に担い、年間20万人を超える外来患者を診察する中核病院です。
市の医療を継続的に支えていくため、いま業務の効率化が求められています。

研修医の磯邉綾菜さん(28歳)です。京都府の大学を卒業後、2年前に佐渡総合病院を研修先に選びました。病院での研修と並行して県のプログラムに参加し、医師の働き方改革をめぐる佐渡総合病院での対応を考えました。ポイントは業務にかかる時間を詳細に把握することでした。

磯邉さん
患者さんの対応に追われていて、自分がどういうふうに行動していて何に無駄があるかということを把握できない。時間の制限だったり、それを設けるということだけではなく、日々のとても身近な業務から効率化していける。

磯邉さんは、当時、研修していた耳鼻咽喉科でストップウォッチのアプリを使って業務にかかる時間を計測しました。これまで外来診療に時間がかかりスタッフが昼休みをとれない日もあったといいます。
こちらが1人あたりの診察時間の内訳です。

診療時間の平均はおよそ5分半。このうち問診や診察など不可欠な業務が8割を占めた一方、呼び込みや入退室などにもおよそ1分かかっていました。ここに時間短縮の可能性があると考えた磯邉さん。
 

まずは異なる職種の間で重複していた業務の分担を明確化。医師が行っていた次回の予約の確認などを看護師などに任せることにしました。こうすることで医師が診察記録を入力している間に看護師などが呼び込みなどを行い、医師はすぐ次の患者の問診にとりかかれるように。

さらに案内に時間がかかっていた状況を改善するため、待合席に順番の張り紙をしたり、近くに座って待つよう呼びかけたりしました。

こうした積み重ねの結果、同じ人数の患者を診察する時間がおよそ20分短縮され、昼の休憩時間も確保できるようになりました。

スタッフ
これが普通だと思っていました。だから早くしようという考えにもいたらなかった。1人1人の時間をちょっと短縮するだけで人数が多いのでそこが大きかったなと。

耳鼻咽喉科の医師
かなり業務が改善になって、スタッフの休憩などしっかりとることができた。私自身の休憩の確保以上に外来全体がうまく回ったのがよかった。

予想以上の反響も。
評判が院内に広がり、自分たちの科でも取り組みたいという相談が磯邉さんに寄せられたのです。
病院長もこの試みを後押ししています。

これまで指示を出しても業務の改善はなかなか進みづらかったということで、プロジェクトチームをつくって病院全体に広げる方針です。

佐藤賢治 病院長
現状を変えるとなると、すごくパワーがいるよねっていうところに一歩踏み出す勇気が持てないっていうことが(進まなかった)背景にあるんじゃないかと僕は思ってます。院長みたいな立場ではなく身近な人たちが一緒になってやってくれますよという空気が生まれると1つの改善のきっかけになり得るんじゃないか。

磯邉さん
現場の人が一生懸命働いていて、だからこそ見えなくなっていることとか第三者の目線で見た時に改善点が見えるっていうことはどこでもあると思っていて。身近なところから本当にスタッフが働きやすくするために、素朴な意味での働き方改革をやっていく余地があるかなと思います。

取材後記

今回、磯邉さんは医療現場の業務内容を細かく把握することで人手を増やすことなく効果につなげていました。磯邉さんは今回の経験を研修医の仲間と共有しているほか、業務の改善に関心を持っている病院を対象に説明会を開く予定で、ほかの医療現場にこうした動きが広がることが期待されています。

 

  • 藤井凱大

    新潟放送局 記者

    藤井凱大

    2017年入局。函館放送局、札幌放送局を経て、2022年夏に新潟放送局に赴任。現在、医療や経済、農林水産などの取材を担当。

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