ページの本文へ

にいがたWEBリポート

  1. NHK新潟
  2. にいがたWEBリポート
  3. “雪”で夏を涼しく! 雪国の挑戦に密着 南魚沼市

“雪”で夏を涼しく! 雪国の挑戦に密着 南魚沼市

  • 2023年08月19日

この夏、連日、厳しい暑さに見舞われている新潟県。
こうしたなか、南魚沼市では「雪」で夏を涼しく過ごそうと、ある実験が行われました。
冬には多額の処分費用がかかり雪国の悩みのひとつにもなる雪ですが、エネルギー価格が高騰するなかで、再生可能エネルギーとして注目されています。
雪を新たな資源として活用しようという雪国の挑戦を取材しました。(新潟放送局  豊田光司)

雪を冷房に! 雪国ならではの挑戦

この夏、連日、厳しい暑さに見舞われている新潟県。全国で最も暑くなる日もあります。
こうした中、雪深い地域として知られる南魚沼市では、中心部にある市役所の脇に、8月から広さ15畳ほどのキャンプ用のテントが設置されました。
 

このテントの室温は20度ほど。冷却装置が設置され、そこから出る冷たい風でひんやりしています。この冷却装置、一般のエアコンではありません。そのもとになっているのは、テントの隣に山積みにされた雪なんです。
 

雪の量はおよそ100トン。断熱シートに覆われていますが、雪は少しずつ溶けて低温の水になります。この水が保温性の高い管を通り、50メートル先のテントにある冷却装置に届けられます。

すると冷却装置の中で管の周りの空気が冷やされ、冷たい風が吹き出します。必要な電力は、水を引きあげるポンプと送風機を回す分だけ。15畳ほどの広さを20度ほどの室温に保つことができます。

横浜市から来て利用した小学生
「冷房よりもすごいキンキンに冷えて、すごい涼しい。最高!」

市内に住む利用した男性
「冬はすごい大変なので雪をいかした施設があったらいいなと思っていました。思っていた以上に涼しい」

この冷却装置の実験を行っている南魚沼市。実験では、このテント程度の広さを冷やすのにどれぐらいの雪が必要か検証しました。当初は1日6トンほどの雪が必要だと見込んでいましたが、実際は思ったより雪の減り方が緩やかで、1日4トンほどでした。100トンの雪があれば25日程度、冷やせるという計算です。
南魚沼市がこうした実験を行う背景には、冬には市街地でも積雪が2メートルに及ぶこともある、雪深い地域ならではの悩みがあります。冬になると南魚沼市では、除雪に大きな労力がかかる上、除雪費は過去10年間の平均で年間10億円ほどに上り、財政面でも大きな負担になっています。

冬になると市民を悩ませることが多い雪ですが、再生可能エネルギーのひとつにも位置づけられていて、エネルギー価格が高騰する中、南魚沼市はこうした側面に注目しています。
南魚沼市では、都市部でのイベント用に夏でも1000トン以上の雪を屋外で貯蔵していて、今、この雪を夏の冷房として活用しようという動きが加速しています。
今回の実験で、延べ1300人以上の市民などが、テントに入り雪を使った冷却装置の効果を体験しましたが、市のアンケートには「新たなエネルギーとして使ってほしい」という期待の声も寄せられました。

南魚沼市環境交通課 岩井英之課長
「雪国にとっては冬場やっかいになる雪が新しいエネルギーということで、雪の冷熱エネルギーをこの時代だからこそ活用できないか。脱地球温暖化に貢献できるエネルギーではないかと感じています」

目指すは雪のイメージチェンジ

新たな資源としての雪の活用を目指す雪国の挑戦。地元の研究者たちも協力しています。
長岡技術科学大学の上村靖司教授も、そのひとりです。雪害や雪を利用する技術開発など、30年以上にわたり雪国の課題の解決に携わってきました。上村教授らは、市や地元の企業と雪をエネルギーとして活用する勉強会を定期的に開催。研究者たちが開発した冷却装置の情報を提供し、実用化に向けた課題を共有してきました。

長岡技術科学大学 上村靖司教授
「形が変わっていく雪から安定して冷たいエネルギーを取り出し続けるのが意外と難しくて、形が変わるとどうしても性能が落ちてしまう。雪の研究者や雪を実践する仲間や南魚沼とぜひ取り組みを進めたいと」

上村教授が7月に開発したばかりの冷却装置も今回、市役所の前に設置されました。

この装置は先ほどのものより小型で、茶色の袋に入った雪を使います。装置のポイントは、独自に開発した熱交換器です。

黒い部品に取り付けられた透明の筒から下の袋の中にある雪に空気を送り込んで溶かします。安定して15度から18度の冷気を取り出すことができるのが特徴です。さらに持ち運びもでき、運動場や仕事場の休憩所としての活用も期待できるといいます。上村教授は、市民にも冷却装置を体験してもらい、雪のエネルギーとしての可能性を知ってもらいたいと考えています。

長岡技術科学大学 上村靖司教授
「雪はうまく使えればわれわれの生活をもっと豊かにしてくれるということを市民のみなさんにわかってもらいたい。いろんな知恵と工夫とかなりの努力が必要だが、雪を使う文化をこの地域に根づかせていきたいと思っています」

取材後記

今回の実験結果を検証し、南魚沼市は早ければ2年後から市内の公共施設に雪を活用した冷却装置を導入したいと考えています。一方で離れた場所で、こうした雪を使った冷却装置を使う場合、雪の運搬が必要になります。そうなると輸送費のほか、トラックによる二酸化炭素の排出など環境面の課題も出てくるため、近い場所で活用するのが現実的になります。さらに雪の保管場所の確保やその費用の問題もあります。ただ、これまで雪を捨てるのに多額の費用がかかっていたことを思えば、エネルギー資源として活用するための出費は、未来への投資だと言えると南魚沼市の担当者は話していました。
県内には南魚沼市だけでなく雪深い地域が多くあります。スキーをはじめ、雪を冬の観光資源として活用している面もある一方、除雪や交通障害など雪による悩みもあるのも、また事実です。その雪が夏を涼しく過ごす新たな資源として活用されていけば、雪に抱くイメージも変わっていくかもしれません。取り組みが進んだ先に、雪のエネルギーが産業となり仕事が生まれれば、地域の活性化に結びつく可能性もあります。雪国にしかできない挑戦に期待したいと思いました。

  • 豊田光司

    新潟放送局 記者

    豊田光司

    2017年入局。大阪局を経て2020年から新潟局に。2023年7月まで長岡市に2年ほど住み雪の苦労も体験したので、夏の活用に期待しています。

ページトップに戻る