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小麦高騰 新潟 西蒲区のコメ農家がパン店と連携!?

「コメ王国」新潟で起きる異変
  • 2022年06月08日

小麦など穀物の価格が世界的に高騰しています。欧米などでの不作に加え、穀物の一大産地であるウクライナからの輸入がロシアによる軍事侵攻の影響で滞っているためです。
こうした中、コメの生産量日本一の「コメ王国」新潟で、ある異変が起き始めています。
家畜のエサを輸入に頼っていた新発田市の畜産業者が県内で生産された「飼料用米」を本格的に使い始めたほか、新潟市西蒲区の大規模コメ農家が地元のパン販売店とタッグを組み、小麦の作付けを大幅に拡大したのです。
コメの需要が落ち込む中にあっても「コメ王国のプライド」からほかの品目に転作する動きが鈍いとされてきた新潟。今、変化の時を迎えています。
(新潟放送局記者 米田 亘)

国産の飼料用米にニーズ

コメどころ新潟でいま、需要が高まっているのが「飼料用米」です。鶏や豚などを育てる新発田市の畜産会社「ナカショク」では、去年からエサとして地元のコメ農家が転作で作っている飼料用米を使い始めました。

ことしはさらに飼料用米の量を増やし、去年より2割ほど多い約1700トンを使おうと考えています。背景にあるのはエサに使う海外産の穀物の高騰です。この畜産会社では家畜のエサの価格が3年前に比べ、最大で1.8倍近くに。

これまで、エサの原料のすべてを海外から輸入していましたが、原料の穀物が世界的に不作だったのに加え、世界有数の穀物生産国のウクライナからの輸入がロシアによる侵攻で停滞。その結果エサの価格が高騰し、会社ではこの機会に国産穀物の導入を進めていきたいとしています。

畜産会社 本間友生社長

畜産会社 本間友生社長
「飼料というのは養豚養鶏に関しても(会社支出の)半数を占めるコストの部分なので、相場が上昇していく現実だけ受け止めて、ただ何もしないという状況にはできない。農家が生産した飼料用米を消費しなければ、農家の生活も困難になっていく。当社が消費の『いち選択肢』であればいいかなと」

飼料用米への転作はこれまで国や自治体などが農家に促してきました。しかし、地元の畜産業者などからの需要が少なく、遠くに運ぶとコストがかかるため生産をためらう農家も多かったといいます。

家畜のエサは飼料用米とトウモロコシなど複数の穀物を砕いて配合して作られます。
飼料用米はJAが農家から多く買い取っています。

上述した畜産業者のように飼料用米のまま買い取って自社でエサを作ることができる一部の業者を除き、通常はJAが飼料用米とほかの穀物を混ぜてエサを作っています。

飼料用米は単価が非常に安く、手元で長く保管していると保管コストが上回ってJA側の採算が合いません。そのためJAは収穫期の秋になると、いち早く家畜のエサを作るグループ会社の工場に飼料用米を卸す依頼をします。

しかし、工場の製造能力には限界があり、収穫期にすべてを一気に受け入れることはできません。

その結果、JAは県内に回せない分の飼料用米を畜産が盛んな北海道や九州などの遠方に運ばざるを得なくなります。農家はJAに飼料用米の販売を「委託」しているので、遠方に運ぶ際の輸送コストはJAが農家に支払う「買い取り価格」を値下げするなどの形で実質的に農家が負担することになるのです。

実際はJAが全国組織であるため農家負担の均一化や合理化が進められているのですが、農家にとってはコストの「負担感」が拭えず、飼料用米への転作意欲は十分上がっていません。

それが穀物の高騰で地元の畜産業者からも飼料用米を求める動きが出てきました。飼料用米を地元で買い取る動きが広がり、買い取り価格が上がれば農家にとってもメリットがあります。
コシヒカリの産地 新潟では飼料用米などへの転作の動きは全国的にみると鈍いとされてきましたが、こうした状況の変化で潮目が変わるかもしれません。

西蒲区のコメ農家とパン販売店がタッグ 小麦の作付け拡大

転作作物には飼料用米のほかに大豆や小麦もありますが、やはり海外産は値上がりしています。そこで栽培を増やす農家もいます。

新潟市西蒲区の大規模コメ農家 斎藤隆美さんはコメの需要が減る中、ことし小麦への転作を20ヘクタール以上大幅に拡大しました。

新潟市西蒲区の大規模コメ農家・斎藤隆美さん

コメ農家 斎藤隆美さん
「2~3年で1俵(60キロ当たり)3000円は下落している。これからいろんなことに挑戦していかないと農業経営そのものが厳しい」

転作の拡大を決断した背景には、地元のパン販売店『パオ』『サフラン』とのタッグがありました。

コメ農家の斎藤さん(左)とパン販売店社長(右)

ロシアによる軍事侵攻の影響で小麦の一大産地 ウクライナからの輸入が滞るなど海外産の小麦の価格が高騰する中、県産の小麦の使用を求める販売店側と考えが一致し契約をとりつけたのです。

県産小麦を使って試作した食パン

パンの味は産地によって違う小麦の質に大きく左右されるため、この店ではことし中の販売に向け、半年にわたり商品の開発や試験販売を進めています。海外産の小麦が高騰する中、地元産の小麦の割合を増やしていきたいと考えています。

パン販売店 山崎社長 新潟市内に店舗を展開

パン販売店 山崎英治社長
「小麦粉、乳製品、バターの仕入れ価格が高騰ぎみで、ことしに入ってからはウクライナの問題も重なった。地元である程度、パンを製造できるような小麦を確保できればいいなと」

江南区のコメ農家 大豆を組合生産して「負担分散」

小麦と並び、海外産の価格が上昇する大豆についても工夫して生産に取り組む農家がいます。

コメ農家で作る新潟市江南区の大豆の生産者組合ではコメの販売価格が伸び悩む中、20人余りの農家が共同で畑を管理しています。

組合のメンバーの一部

大豆はコメと耕作時期が重なるため同時に栽培するのは大変ですが、農薬の散布など負担を分かち合うことで作業の効率化を図っています。

組合のメンバー 鷲尾徳昭さん

組合のメンバー 鷲尾徳昭さん
「なかなか個人で急にコメから大豆に転換するのは難しいので、私たちみたいな大豆の生産者組織を使ってもらうと非常に転作しやすいのかなと思います」

この日は担当する畑の分担について話し合いました。

分担を決める事務局の農家

分担を決める事務局の農家
「管理地の分担を決めます。『もっとやりたいよ』とか、『ちょっと多すぎるから誰かやってよ』というのがあったら意見出してください」

参加した20人余の農家の人たち

担当は割り振りますが、必要に応じてほかの農家が農薬散布などの作業を手伝うなどしてお互いに助け合っています。

会議に参加する農家の鷲尾さん(正面右)

組合のメンバー 鷲尾さん
「コシヒカリを広くみなさんに食べてほしいが、需要に応じた生産をするのが農業界が苦手なところだった。小麦や大豆など、みなさんが求めているものを生産するというのもこれからは必要」

「国内に穀物の供給基盤を」

専門家は穀物価格の高騰で需要が変化するのに合わせてコメの産地も対応していく必要があると指摘します。

新潟大学農学部 伊藤亮司 助教

新潟大学農学部 伊藤亮司 助教
「稲作がもうからなくなると最終的には農業自体が続けられなくなっていく。続けられなくなり離農が進みすぎてしまうと、今度は地域自体の維持も難しくなっていく。主食用米ではないコメ、あるいは麦、大豆に少しでも転換していくのはとても大事。短期的にはウクライナ情勢とか、中長期的に見れば気候変動もあり、国内にきちんとした供給基盤を持っておくというのは、国民の命と健康を守るためにも非常に大事な政策課題ではないか。国民が将来にわたって、おいしいコメをおなかいっぱい食べて、健康に生活していけるという安心感を醸成していくような取り組み、政策が国に求められている」

取材を通じて

世界的な穀物価格の高騰をきっかけに、影響が「コメ王国」新潟にも少しずつ及んでいることが分かりました。日本の食料自給率が年々低下する中、主食となるコメはもちろん、輸入に頼りっぱなしだった小麦や大豆などを国内で作るということも食料の安定供給の面から大切だと感じます。

小麦や大豆についてはどうしても値段の安い海外産にシェアを奪われ、需要が落ち込むコメのメインの転作先にはなれずにきました。穀物をめぐる環境が激変する中、作り手、買い手ともに大きな変化が起きるかもしれません。ただ、小麦などの作付けには新たな設備投資が必要なため、国などは転作するかどうか悩むコメ農家をいっそう支援していく必要があります。

コメを中心とした動きをこれからも定期的に取材し、お伝えしていきます。

  • 米田亘

    新潟放送局 記者

    米田亘


    平成28年入局。札幌放送局、釧路放送局を経て、令和2年に新潟放送局へ赴任。現在、行政や一次産業を中心とした経済取材を担当。好きなご飯のおかずは「サーモンの塩こうじ漬け」。


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