あえて空気を読まず、働く女性の視点から社会に切り込む、
山本恵子解説委員(Keiko Yamamoto)の「KYジャーナル」。
今回のテーマは、「吉野家幹部の不適切発言」。
発言の何が問題なのか、そして、その背景にあるものとは、さらに、どうしたらいいのかをお伝えします。
4月16日、牛丼チェーン大手の、吉野家ホールディングスの執行役員で、子会社吉野家の常務取締役だった伊東正明氏が、早稲田大学が主催する社会人向けの講座に講師として参加しました。
SNSの投稿や会社などによりますと、伊東氏は、若い世代の顧客を獲得するマーケティング戦略について「生娘をシャブ漬け戦略」と表現し、「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子をむく・生娘なうちに牛丼中毒にする。男に高い飯をおごってもらえるようになれば、絶対に食べない」などと発言したということです。
問題は、例えば、まず「牛丼中毒」。
楽しみで食べている、消費者をバカにしていますよね。
そして、高いご飯をたべたら、絶対食べない、など、自社の商品をおとしめているといえます。
さらに問題なのが、「生娘をシャブ漬け」、「男に高いごはんをおごってもらう」など、女性を蔑視した発言です。
会社では4月18日、臨時の取締役会を開き、「人権・ジェンダー問題の観点から、到底許容することが出来ない」として伊東氏の解任を決めました。
発言自体も許されるものではありませんが、問うべきは、そのような発言をしてしまった背景には何があるのか?ということです。
現在、多くの企業や組織ではコンプライアンスの研修も行われていますが、いくら研修しても、残念ながらこうした発言をする人はいます。
大切なのは、その場にいた周りの人たちが、こうした発言を聞き流さない、ということです。
今回は、受講生の女性が抗議の声をあげたことで問題が明らかになりましたが、受講生の中には笑っている人もいた、とか、大学の関係者もいたのに、その場で注意しなかった、と伝えられています。
相模女子大学大学院 白河桃子特任教授は、
「周りの人が笑ったり、黙っていることはその発言を認めていることと同じだ」と指摘しています。
例えば、今回のような発言があったとき、
▼違和感を感じる人がいるか
そして、
▼違和感を感じたとき、それを言える風土があるか
が重要だといいます。
そして、言える風土のためには、同じ年齢の男性ばかり、といった「同質性」はリスクなので、若い人や、女性などの多様性が必要だと話しています。
今回の発言で、吉野家には、ネットでも批判が相次いだほか、4月19日に予定していた新商品の発表会が急きょ中止となるなど業務にも影響が出ています。
「あの人はいつもそうだから仕方ない」と放置しておくと、今回のように、一回の発言で、企業の信用が失われます。
わたしたち一人ひとりが、「おかしい」と思ったことにNOと言っていくこと、そして、そうした声があげやすい環境をつくることが大切です。
山本恵子解説委員(NHK名古屋放送局 報道部 副部長)
愛知県出身。1995年入局。金沢局を経て社会部で教育、女性活躍、働き方改革などを中心に取材後、名古屋局で赤ちゃん縁組や里親について取材。国際放送局World News部を経て2019年再び名古屋局。「子ども子育て応援プロジェクト#わたしにできること~未来へ1歩~」スタート。2021年より解説委員(ジェンダー・男女共同参画担当)を兼務。