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宮崎 高コストな有機野菜に高鍋・木城が町ぐるみで挑む

~ ベジ価値アップキャンペーン ~
  • 2023年01月06日

NHK宮崎では、県内の野菜の価値を上げようという“ベジ価値アップ”な取り組みを紹介しています。2022年12月に有機野菜を認証する機関「みやざき有機農業協会」が誕生。県内の有機農業を下支えしたいというその思いに迫りました。

視聴者の声続々「農家の歯がゆさ知った」

前回までの記事で、有機野菜は消費者に評価される反面、農家からは「農薬や化学肥料を使わずに手間暇かけて作られた野菜が、その手間に見合った価格で売ることが難しい」という悩みを紹介しました。有機農業の町・綾町がピンチ?動き始めた農家たち

これを見たみなさんから次々と感想が届いています。

58歳女性

私も家庭菜園をしているが、農家の方のような上手なものはできない。だから、農業がいかに大変かわかる。手間を価格に上乗せできない農家の歯がゆさが伝わってきた。

43歳女性

手間暇かけて野菜を作っている生産者が報われていないという現実の厳しさが感じられた。今後は多少高くても応援する意味で買いたいと思う。

こうした中、有機農産物に活路を見出すための好環境を作りたいという人たちが新たな取り組みを始めました。

「みやざき有機農業協会」誕生

去年(2022年)12月、有機農産物の国の表示基準「有機JAS」を検査認証する、宮崎県内では2つ目の機関が、新たに誕生しました。NPO法人「みやざき有機農業協会」です。事務局は、木城町役場の別館2階にあり、事務局長の渕上達也さんと、農学博士の財津吉壽さんの2人が迎えてくれました。

右側の建物が木城町役場別館

同協会の設立のきっかけは平成30年(2018年)にさかのぼります。当時、小丸川でつながる高鍋町と木城町の両町長は有機農業について関心を持っていました。そこで2つの町役場の農業担当者が集まって、環境を保全するために自然循環型の農業の推進について話し合う「高鍋・木城有機農業推進協議会」が設立されました。
当初は高鍋・木城の有機農家を増やすことが狙いでした。しかし次第に宮崎県で有機農業をやりたい人たち全員のフォローアップができたらと話が広がり、最終的に認証を出せる団体として『みやざき有機農業協会』が設立されました。
県内にはすでに綾町が運営する有機JASの認証機関がありましたが、原則として綾町内のほ場だけを認証の対象としています。そのため、綾町以外の自治体に住む生産者が申請するときは、大分や熊本、鹿児島など、周辺の県の認証機関に頼るしかなかったのです。

有機JAS認定 厳しい検査とは

実際の認証作業はどのように行われるのか?「みやざき有機農業協会」に所属する検査員・原田慎也さん(50)を訪ねました。検査員は生産者から提出された申請書類を見た上で、現地で畑を確認し、有機農業に適しているかどうかを判定する大事な役割です。

原田さんの有機認証は畑の観察や聞き取りから始まるといいます。

「認証を受けるにあたっては、種まきから2~3年はさかのぼって、化学肥料や化学合成農薬を使っていないほ場でないと認められません。また例えば畑の外から農薬などが入り込まないよう、ほかの畑との間に一定の距離がとれているかなども調べます」

さらに生産者の記録データの分析、畑や周辺の地図生産管理組織収穫後に保管する施設といった資料も入念にチェックします。

▼いつどんな肥料をやった、どんな手入れをしたなどの記録(生産行程管理記録)を毎日しっかりつけられているか?
▼規格を満たしてることを、いわば生産者が保証する「格付」が正しく行われているか?

▼種や苗の入手方法 や使用する機械・器具・輸送の状況など

多種多様なチェックを通過してはじめて「有機JAS」を表示することが出来るのです。

しかも有機認証を継続するためには、年に1回追加の検査が必要です。

生産行程管理記録の例 日記帳を活用し毎日つけられている

苦労を上回る有機栽培の魅力

実は原田さん自身も有機JAS認定を受ける農家の1人です。宮崎県のほぼ中央部、西都市の茶臼原(ちゃうすばる)台地にある原田さんの畑を訪ねました。およそ190アールの広さで、ニンジンを中心にサツマイモ等の根菜類を栽培しています。

継続していくための苦労を肌身で感じる原田さん。「何かと大変です」と答えます。

一般的には、有機農業は経営的にはもうからないと言われています。慣行栽培(一定基準内の農薬や化学肥料を使う一般的な栽培方法)と比べると、雑草への対応や病虫害の防除に人手とコストがかかります。また、作り方が難しいので収量が上がらず、安定した出荷ができないので、経営的に売り先が安定しないなどのデメリットもあります」

それでもなぜ有機農業をするのか?

「人それぞれ考え方はあると思いますが、私は有機農業が面白いと思っています。いろいろと難しいところがある分、その課題を克服していって自分の納得いく野菜を作るというところに面白さがあり、有機農法というのが自分に合っていると感じています」

そして最後に、地域資源を生かして持続可能な農業を行いたいという思いを語ってくれました。

「地域には肥料になるものがたくさんあるので、それをもっと活用した農業をしていきたい。たとえば、家畜の糞尿や、水産業から出る魚かす、焼酎工場の焼酎かすみたいなものも有機肥料として使えます。宮崎県で盛んな産業から出るもので有機農業に使える資源はたくさんあるのに、それを生かさないのはもったいない」

地元に認証機関があるメリットとは

このように生産以外にも「手間」や「コスト」がかかる有機農産物の栽培。「みやざき有機農業協会」事務局長の渕上さんは「だからこそ、新たな機関が必要だった」と言います。

「認証機関が近くにあると、例えば講習会に参加しやすいというメリットがあります。認証機関として定期的に有機農業への理解を深める様々な講習会を開きますが会場が県内だと参加が容易です。また、生産者が有機認証を受ける際にはほ場のチェックなどのため検査員に来てもらいますが、その交通費も生産者が負担します。県外から呼ぶよりは、県内の方に来てもらったほうがいいですよね」

「宮崎県内に認証機関があることで、県内の有機農家同士をつなぐ役割もできると思います。有機農業を新たに始めようという方は、生産方法や、販路をどう確保すればいいかなどの点で不安を抱えています。講習会などで農家同士がつながることで、そうした不安が解消されていくのではないでしょうか」

同協会は、公平に審査をする立場なので、個々の農家に対して出荷先などを勧めることなどはできませんが、地域全体の底上げにつなげたい考えです。

「裾野を広げたい」消費者にも情報提供

「今の慣行栽培の農業というのは、日本の食糧基地・宮崎が農業を支えていく上で重要だと考えています。ただ、消費者が選べる選択肢があるということも大切だと思います。そういった点で我々は消費者への情報提供に力を入れていきたい。そもそも有機農産物とは何かということからわかりやすくお伝えしたいし、更にはどこに行ったら買えるかや、小売店にコーナーを作ってもらうよう働きかけるなどを通じて、有機農業の裾野を広げることができたらいいなと考えています」

笑顔で今後の展望を語って下さいました

有機農産物は宮崎の農業のもう1つの柱になるのか?

綾町に続く県内2例目の有機JASの認証機関「みやざき有機農業協会」には、安全で良質な農産物の提供、そして農業の持続可能性や新しい魅力を生み出すことが期待されます。

  • 内藤 雄介

    NHK宮崎 アナウンサー

    内藤 雄介

    2002年入局。静岡-岡山-神戸-広島-東京アナウンス室で勤務。趣味は走ることと日本茶を飲むこと。現在、宮崎暮らしを満喫中!

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