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子宮頸がん経験者が語る“性の偏見”と“メディアの責任”

子宮頸がんを経験した女性たちのオンライン座談会。
ここで大きな話題となったのが「子宮頸がんへの偏見」と「メディアの責任」についてでした。
参加したのは、23歳で子宮頸がんと診断された女性、妊娠と同時にがんが発覚した女性、子宮を摘出した経験から啓発を始めた女性、がんと診断された後も子宮を残す選択をした女性。

当事者だからこそ知る現実とは。
今回は、「子宮頸がんになって初めて知った『偏見と正しい理解』」についてお伝えします。
(科学文化部 記者 池端玲佳)

(2022年4月#がんの誤解で開催したオンライン座談会を基に記事を作成)

【関連記事】子宮頸がん 告知され初めて知った現実|当事者座談会【原因・治療編】

子宮頸がんを経験した4人の座談会についてはこちらの記事でもお伝えしています。
トークテーマは「子宮頸がんになって初めて知った『病気と治療』の現実」についてです。
ご興味のある方は、合わせてご覧ください。

子宮頸がんやHPVワクチンに関する記事一覧はこちら

子宮頸がん経験者 座談会の様子 左:まゆみさん 中左:森田さん 中右:阿南さん 右:難波さん
プロフィール
(左)まゆみさん
第1子妊娠中の33歳のとき、妊婦健診で子宮頸がんの前段階の細胞異常(高度異形成)が見つかる。出産後、子宮の大部分を温存する円錐切除手術を受けたが、新たに子宮頸がん(腺がん)が見つかる。主治医に子宮をすべて摘出する手術を提案されるも、セカンドオピニオンで手術不要と診断される。ことし第2子出産。

(中左)森田美佐子さん
45歳のとき、妊娠と同時に子宮頸がんになっていることがわかり、出産後、子宮や卵巣を摘出する手術を受ける。自身の体験を綴った著書「癌で妊婦で45歳です」を出版。

(中右)阿南里恵さん
23歳で子宮頸がんと診断。子宮やリンパ節などを摘出する手術を受ける。
教育現場などで子宮頸がんの予防啓発のための講演活動を行っている。
 
(右)難波美智代さん
36歳で子宮頸がんと診断され、子宮を摘出。子宮頸がんをはじめとするがんの予防啓発と女性の健康教育を通じて予防医療の実現を目指す一般社団法人「シンクパール」代表理事。

「子宮頸がんは恥ずかしい病気?」 誤った情報で偏見も

森田美佐子さん 45歳で子宮頸がんと妊娠が同時に見つかった

子宮頸がんを引き起こすヒトパピローマウイルス(HPV)には、主に性交渉がきっかけで感染するとされています。しかし、このことが子宮頸がんの経験者の生きづらさを生む「偏見」につながっていると言います。

森田美佐子さん

「私は、以前女子大で講演の機会をいただいたことがあって、20歳前後の女子大生たちに挙手で子宮頸がんのクイズに答えてもらいました。そのとき、『子宮頸がんは性風俗の仕事をしている女性がなる病気』と答えた人が何人かいました。本人だけではなくて、親御さんにも子宮頸がんについての誤解がすごく広がっていると感じました。正しい知識を若い子にも知ってもらいたいけど、親世代の50代とか60代も知識の無い人が結構いるんじゃないかな」

難波美智代さん

「ほんとそうですよね。とにかくみんながよく知らないですよね。私は、50代以上の男性を対象に講演するときも感染のきっかけをわかりやすく伝えるために「性交渉」と言わず、あえて直接的な表現で「セックス」と言うようにしています。ただ、アダルトビデオとか性風俗と結びつけてとらえる人もいて、どの世代にもわかるように丁寧にわかりやすく伝えることってすごく重要だなって思います」

【解説】子宮頸がんの原因ウイルスの感染経路は?

【解説】子宮頸がんの原因ウイルスの感染経路は?

子宮頸がんの原因となるのはHPV=ヒトパピローマウイルスと呼ばれるウイルスです。
主に性交渉を通じて感染。一度でも性交渉の経験があればだれでも感染する可能性があり、女性の多くが『一生に一度は感染する』といわれる、ありふれたウイルスです。
日本産科婦人科学会の特任理事で横浜市立大学の宮城悦子主任教授によると、性交渉時にコンドームを使用することで感染する確率を下げることができます。ただ、HPVはコンドームではカバーしきれない範囲にも存在するため、コンドームだけで子宮頸がんを予防することはできないということです。
子宮頸がんを予防するためには①HPVワクチン接種が重要です。
HPVワクチンは、HPVへの感染を防ぐ効果があります。一方で、すでにHPVに感染してしまった状態をワクチンで治すことはできません。このため、初めて性交渉を経験する前に、HPVワクチンを接種することが最も効果的です。
ただ、性交渉を経験していてもワクチンを接種することでまだ感染していない種類のHPVへの感染を防ぐことは期待できます。
加えて②2年に1度の検診も大切です。
HPVワクチンを接種していてもHPVへの感染を完全に防ぐことはできません。HPVに感染してから子宮頸がんに進行するまでの期間は数年から数十年と考えられていて、20歳を過ぎたら2年に1度検診を受けて早期発見することが大切です。

池端玲佳記者

「阿南さんは20代で子宮頸がんを経験されていますが、ご家族の受け止めも含めて偏見を感じたことはありますか?」

阿南里恵さん 23歳で子宮頸がんと診断
阿南里恵さん

「私が子宮頸がんだとわかったとき、父も母も兄も私もそれぞれ別々に子宮頸がんにかかる原因をインターネットなどで検索していたのですが、性交渉の回数が多いとか性交渉の経験人数が多い人がかかる病気などといった誤解につながる情報を目にしました。母親はすごくショックを受けて怒っていました。母には『あんたはそういう経験が多いんか』と言われたのですが、私も何が正しいのか分からなくて言い返すことができませんでした。こうした情報のせいでがんという事実に加えて、子宮頸がんという病名でさらに傷つきました。母親は、親戚にも娘が子宮頸がんになった事実を隠していて手術することも黙っていたので、経過観察の期間が終わるまで親戚はずっと私の病気のことを知らなかったです。私も友だちになかなか病気のことを言えなかったです。
恥ずかしい病気にかかったんだと思い込んでいました」

難波美智代さん

「知り合いに医師がいるのですが、自分の娘にHPVワクチンを打たせるか打たせないかという話になったとき『僕の娘はセックスしないからワクチンは打たせない』と言っていて唖然としました。みんな自分がどうやって生まれてきたか思い出してほしい。やっぱり親御さんたちも教育したほうがいいですよね」

「子宮頸がんだけでなく日本の性教育の不足が根源にあると思います。
若い人たちだけでなくその親世代にもちゃんと分かってもらうことが必要だなと思いますね」

HPVワクチン接種後の症状 メディアの責任は?

2013年4月、HPVワクチンは公費で受けられる「定期接種」になりました。その後、接種後に体の痛みなどを訴える女性が相次ぎ、接種との因果関係が定かではなかったものの、「ワクチンの副作用」とする報道が相次ぎました。
こうしたことから接種率は下がり、2019年のデータでは接種率は1.9%にとどまっていました。
2022年4月に積極的な呼びかけが再開されましたが、子宮頸がんを経験した人たちはメディアの伝え方をどう感じたのか意見が交わされました。

まゆみさん 妊婦健診中に子宮頸がんの前段階と診断
まゆみさん

「HPVワクチンの接種が始まった当時、接種後の症状としてけいれんしている女の子などのショッキングな映像がテレビで流れて、怖いワクチンというイメージしかなかったです。メディアがそういう印象を広めた側面があるのだから、最新の知見をもとにこれから正しい知識を広めていくのもメディアの責任だと思います。(※解説あり)
また、子宮頸がんに関しては発症の原因を説明するときに性交渉という言葉を用いることになるので、年頃の子どもと母親が正しい知識がない状態でワクチンを打つべきかどうかしっかり話し合うことは難しいと思います。やはり教育現場や医療機関、自治体などが連携して正しい知識を伝えることだ大事だと思います」

難波美智代さん

「講演活動などを通して感じるのは、大体2割ぐらいの人は自分で考えてワクチンを打つんですよね。一方で、もう2割ぐらいの人は自分の意志のもとでワクチンを打たないという選択をしている。それで、残りの6割ぐらいの人っていうのは、その時々の世論やメディアの情報にかなり左右されたり、自分のコミュニティーの中の声の大きい人に心動かされたりしている印象があります。メディアの特性として、ネガティブな出来事のほうが情報として視聴者も見るので、大きく報道される側面はあると思います。でも、一方で、メディアの役割として、新たにわかった正しい情報を発信して、家族間の対話のきっかけを作っていくというのがすごく大事だと思います。
例えば新型コロナウイルス感染症においても、2年前の私たちの知識と今の知識は違うし情報の見え方も違うじゃないですか。それと同じように今わかっている最新の正しい情報、エビデンスに基づいた情報は何なのかを発信して家族間で対話をするきっかけを提供してほしいと思います」

【解説】接種後の症状 わかっていることは?

【解説】接種後の症状 わかっていることは?

国はワクチンの接種後に頭痛や倦怠感、体の痛み、失神など、さまざまな症状が出たと報告されたのを受けて2013年6月、接種の積極的な呼びかけを中止しました。

その後の厚生労働省の調査で、ワクチン接種と因果関係があるかどうかわからない症状も含め、接種後に入院が必要になるなど重篤な症状として報告があったのは「1万人あたり約6人」だとしています。
一方、一生のうち子宮頸がんになる人の割合は「1万人あたり132人」で、子宮頸がんで亡くなる人は「1万人あたり34人」だとしています。
その上で厚生労働省は、「国内外で有効性と安全性のデータが新たに集まっていて、リスクを上回っている」などとして、2022年4月、9年ぶりに接種の積極的な呼びかけを再開しました。

HPVワクチンに限らず、注射やワクチンを接種することそのものへの不安やストレスが要因となって、息切れやめまい、失神などが起きるケースや、遅れて出る反応として脱力やしびれ、歩行困難などが極めてまれに起こることが報告されています。
こうした症状についてWHO=世界保健機関は2019年、「予防接種ストレス関連反応」という新たな概念を提唱しました。

HPVワクチン接種 どう決めたらいいの?

座談会の様子
池端玲佳記者

「HPVワクチンの積極的な呼びかけが再開されて、接種の通知が届いた当事者にむけてどのようなことを伝えたいですか?」

難波美智代さん

「がんと言われても、若い世代にはすごく縁遠いと思われる言葉だし、がんのイメージが湧かないと思います。がんになるまでの期間も長いですし、新型コロナウイルス感染症みたいに、ワクチンを打つといまの感染や重症化を防ぐ、というわかりやすいものでもない。でも、もっと子宮頸がんのことを知ってもらって、子宮頸がんにならないためにワクチンを打つのか打たないのかを考えてほしいです。病気のことを知るのは怖いという人もいるかもしれないけれど、子宮頸がんは、妊娠・出産というライフイベントと隣り合わせの病気なので、身近な病気としてとらえてほしいです」

森田美佐子さん

「ワクチンを打つか打たないかは100%本人の意思で決めてほしいと思います。親御さんが無理強いするとか無理に止めるとか、それは絶対にあってはいけないことです。でも、本人が判断するにあたっての材料となる情報が今は十分周知されていないと思います。HPVワクチンについても、海外ではワクチン接種が進んでいるし、子宮頸がんの検診率も日本より高い。そういう事実も含めて正しい情報を知る必要があると思います」

出典:厚生労働省「定期の予防接種実施者数」
まゆみさん

「子宮頸がんやHPVワクチンについてきちんと知識を身につけて正しく怖がって、自分で選択してほしいと思います。接種する年代の子たちは人生を長い目で見通して、自分はどう歩んでいこうかというところまでまだ発想がないと思うんですけど、ワクチンを接種するかどうか判断するタイミングで妊娠出産という選択肢を残しておきたいか、そのためにワクチン接種が自分に必要なのかを考えてほしいです。子宮頸がんになる確率、ワクチン接種後の症状が起きる確率、諸外国のデータなど、正しい知識を身につけて、無関心にならずに自分事として選択してほしいです。そのために必要な情報を若い女性たちが自分で集めるのは無理なので大人が手助けをしなければならないと思います」

阿南里恵さん

「子宮頸がんについて関心を持つきっかけを、いろいろなところで作っていかなきゃいけないと思います。それは講演などの場だけではなくて、子宮頸がんになった人たちが自分の経験を周りの人たちに伝えていく。また、ワクチン接種して何もなく大人になった人たちが『自分は打ったけど大丈夫だったよ』と声をあげていく。あるいは学校の先生は生徒たちにワクチンを接種するかどうか考えるきっかけを与える。そういうふうにもっとたくさんの人が声を上げて周りの人たちを自分たちが守るんだという思いで、国家プロジェクトとして進めていかなきゃいけないんじゃないかと思います」

当初、接種後の症状に苦しむ女性たちの姿が大きく報道された一方で、その後、国内外の調査や研究で明らかになった、ワクチンの有効性や安全性についての情報発信が不十分だったことが接種率が低い要因のひとつだと指摘されています。当事者の女性たちが十分な正しい知識に基づいて、接種するかどうか判断できるよう、行政だけでなく、私たちメディアもその責任を果たしていかなければならないと考えています。

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子宮頸がんを経験した4人の座談会についてはこちらの記事でもお伝えしています。
トークテーマは「子宮頸がんになって初めて知った『病気と治療』の現実」についてです。
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担当 藤松翔太郎ディレクターの
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みんなのコメント(9件)

感想
Ichiko
50代 女性
2024年4月16日
定期健診を受けずっとNILMだったのに、突然高度異形成が出ました。独身でしたので、身内に「なぜ独身なのに この病気になるのか」「なぜ 喉の心配もするのか」と言われたことがつらかったです。早くに結婚した人に比べれば、交際した相手の人数は時間の分だけ多いのかもしれません。好きで独身でいたわけでもありません。前がんでも、とても怖かったし、今でも怖いです。それだけでも抱えきれない不安なのに、身内から偏見を受けたことはとても悲しかったです。
感想
角田郁生
50代 男性
2023年3月31日
本日、2023年3月31日に開催された「HPVワクチンの効果と安全性に関するメディア関係者とのコミュニケーション」のシンポジウムで、池端玲佳さんが、本サイトのことを紹介されていたので、拝見させていただきました。私は近畿大学医学部微生物学に所属し、HPVワクチン推奨の論文執筆をしていますが、大学ではHPVワクチンの講義をしておりますが、医学生さんに本サイトのことを紹介させていただこうと思います。
体験談
ぱるぱる
30代 女性
2022年10月10日
30代前半の時、定期検診で高度異形成が見つかり円錐切除手術で組織を削り取ることになりました。母に伝えたところ、がんにならないための食事(オーガニックの野菜や酵素)の記事などを紹介され、非常に傷つきました。がんにならない、またはがんを改善する食事などありませんし、高度異形成の段階でがんと決めつけられたのもショックでした。善意からであっても、医学的にじゅうぶんな根拠のないものを勧めれば人を傷つけたり人間関係を悪化させることがあると、多くの人に知ってほしいです。
体験談
にい
40代 女性
2022年10月9日
6年前に子宮頸部異形成中等度、HPVハイリスク型陽性で定期検診を経て、1度3年前に子宮膣部焼灼法をして、現在は年に1度の自治体の子宮頸がん検診を続けています。私はワクチンと検診でリスクが軽減できるHPVのことを周囲の大事な人にも知ってもらいたいと考え、自分の経験を話せるタイミングで話したり、検診に行ってきたことや最近のHPVワクチンの動向を話題にしたりしています。「子宮頸がん=性的でタブーな特別な話」という誤解された雰囲気を感じると強引に話すことは出来ず、伝えたいことも伝えられなくなります。ワクチンについても「HPVワクチン=危険で怖いもの」と頭ごなしに反応されることが多く、そうなってしまうと新しい情報を遮断するような状態で、あの頃のメディアのセンセーショナルな取り上げ方は思い込みは根深いと感じます。
質問
ながはる
50代 女性
2022年10月7日
HPVは男子もウィルスキャリアとなり、男性のがんのトリガーになるとも言われ、欧米では小学生男子への接種も始まってます。日本では男子への接種はどうなりますか

そのうちマッチングサイト接種済みかどうかチェックする欄が出来るかも。感染症ばらまいて平気な人間かどうか、結婚前にわかるって大事。
体験談
ぽん
60代 女性
2022年10月5日
私は66才です。子宮頸がんワクチンは危険だとメディアが騒いだことでまんまと信用してしまい、娘にHPVワクチンをさせないままで今日に至っています。接種するには、もう遅い年齢になってしまいました。私がHPVワクチンの正確な情報を得られたのはコロナ禍に入ってからです。こびナビの先生方の情報を知って理解しました。私の年代の母親はきっと誤情報のままだと思います。それでは、次の年代の親たちに悪影響を及ぼします。年代に関係無く正しい情報が広がることを期待しています
体験談
みなみ
20代 女性
2022年10月5日
95年生まれです。報道の影響で子宮頚がんワクチンの接種を断念しました。対象ではなくても救済措置が欲しいです。
悩み
はるな
30代 女性
2022年10月4日
31歳女性です。10代の頃、子宮頸がんワクチンの接種券が家に届いていた記憶はありますが、親が受けてほしくなさそうだったため受けずに接種の機会を逃しました。今は救済措置がありますが私はその世代に含まれておらず、受けたい気持ちはあるもののどうしたらよいのかわかりません。
感想
金魚
50代 女性
2022年10月4日
性交渉未体験やセックスレス、少子化に比べ、子宮頚がんのみ性交渉を嫌気するような目線で語られることの根っこに、日本の性教育の不備があると思います。そして、マスコミ関係の報道のあり方について猛省と検証を続けていただきたく存じます。