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伝統野菜が環境も地域も守る!?

京都の京野菜に、石川県の加賀野菜。こうした地元でとれる伝統野菜、知られていないことも多いですが実はあなたの地域や周りでもたくさんつくられています。いまその地元の野菜が環境問題の面からも注目されています。今回お伝えするのは東京で作られている「江戸東京野菜」。野菜をみつめると、いままで見えなかったあらたな地元が見えてきました。
(報道局社会番組部 ディレクター 酒井利枝子/NHKエンタープライズ ディレクター 小藤理絵)

広がる地産地消

東京の伝統野菜(川口エンドウ)を育てている畑

東京・八王子の住宅地にある畑 。5月の収穫を前にキヌサヤエンドウがあおあおと育っていました。これは在来種のキヌサヤエンドウで地元・八王子で古くから生産されてきました。

こうした地元産の野菜を地元で消費する「地産地消」が、いま環境負荷を減らすという面から注目されています。地産地消に取り組むと、農産物を運ぶ距離が短くなるためエネルギー消費と二酸化炭素排出量の削減になります。

地球にやさしい取り組みを紹介する番組「Ethical Every Day(エシカルエブリデー)」では地産地消を考えるうえで、その土地で古くから作られてきた地元の野菜に着目。東京で作られている地元野菜、江戸東京野菜の普及を進めている やはためいこさん にお話しを聞きました。

江戸東京野菜コンシェルジュ やはためいこさん
エバンズ亜莉沙さん

「Ethical Every Day」MC

マシュー・チョジックさん

「Ethical Every Day」MC

五感で楽しむ地元野菜

のらぼう菜(緑)の巻きずし

やはたさんがこの日、地元野菜を楽しむ方法として教えてくれたのはのり巻きでした。 のり巻きに使われているのは、のらぼう菜という野菜です。

江戸から東京にいたる歴史の中で都内や近郊で栽培されてきた野菜は「江戸東京野菜」と呼ばれています。のらぼう菜は江戸時代初期には西多摩地方ですでに栽培されていました。

のらぼう菜
のらぼう菜(アブラナ科)
収穫時期は2月初旬から4月下旬。寒さに強く、冬の間に栄養を栄養を蓄えます。
天明の大飢きんから人々を救ったと言われています。
江戸東京野菜は、練馬ダイコンや高倉ダイコンなどその数、52種類に及びます。
やはたさん

「のらぼう菜をいかにおいしく、見た目にも美しく食べていただこうかと思って、巻きずしにして皆さんに紹介しています。


巻き寿司にすると印象に残ると思っていて、普通に食べるより切ったときの断面で色や形がわかり、素材をひとつひとつ確かめるきっかけになると思います。

チョジックさん
ー色のコントラスト美しいですね、おいしそうです。

エバンズさん
―調味料を加えてしまうと素材本来の味がわからなくなるかもしれませんが巻きずしだと、塩とかシンプルな味付けなので素材そのままの味や食感を楽しめそうですね。

やはたさん

「江戸東京野菜はよくも悪くも癖があるんですよね。形がそろわないので流通にのりにくいこともありますし、後味もあくが強いところがあります。


どうおいしく食べるかと考えたときに、現在の食材と組み合わせて巻きずしにすると、食べ合わせも考えられますし、普及するのにいいツールだと思いました。


何より巻きずしだとみんなで一緒に作ることができるし、素材を手に取ると感覚や香りも感じられますよね。


のらぼう菜は茎の部分と葉の部分で色が違っていることがわかりますし、野菜をよく見るきっかけになると思うんですよね。

みんなで巻きずしを作る方がより素材の魅力も伝わるかなと思いました。」

エバンズさん
―伝統野菜が普及することによってどんな影響があると思いますか?

やはたさん

「地元で消費すると、輸入のものと違って農産物の移動距離も少ないので*フードマイレージも減りますし、いいことづくめだと思います。何よりも地元で採れた野菜はおいしく、新鮮です。また、地元を見つめ直すきっかけにもなります。


私は江戸東京野菜の姿かたちに魅了されて、これは誰が作っているのか、どんな土地で作られているのかというところから興味が広がっていきました。」


*フードマイレージ:環境にとっての指標のひとつ。食料の輸送量と輸送距離を掛け合わせた数字で多くの食べ物を輸入する日本は他国にくらべて数字が多い。

“食べ物は生身の人間が作る”ことを実感

やはたさんが江戸東京野菜に出会ったのは7年前のこと。ある情報誌をたまたま手に取ったことがきっかけでした。その情報誌には、生産者の背景や家族について、また生産への熱い思いが詳細につづられていたといいます。

やはたさん

「大好きなロックを聴きながら漁に出ている漁師の話が書かれていました。当たり前ですが食材を収穫する人も生きていて、ふつうに趣味を持っているのだと感じました。


食べ物というと、商品のひとつくらいにしか思っていませんでしたし、料理を作る側の人のことしか考えてきませんでした。


しかし、生産しているのは生身の人間だと気づいて、衝撃を受けました。そして、ふと、自分の地元を振り返ったときに生産者は身近にもいるはずなのに自分は全く知らないのだと感じたのです。


そうした自分に気付いたときに、口に入るものが自分の体を作っているので、まず地元にどんなものがあるのか知った方がいいと思うようになりました。」

調べていくうちに、地元の伝統野菜に魅了されていったやはたさん。江戸東京野菜コンシェルジュという資格を取得し、いまは東京の農業振興や地域活性化につながる活動を行っています。
活動を行うなかで、地元農家との交流も生まれ、知り合いがどんどん増えていったといいます。

のり巻きで使ったのらぼう菜を生産する農家の浜中俊夫さん(左)
浜中さんの畑
やはたさん

「知り合いや友だちが本当に増えました。


地元を練り歩くことで今まで見えてこなかった風景が見えるというか、身近に農家さんがいることやスーパーに行かずとも野菜が買えることがわかり、自分の生活の基盤が変わりました。


伝統野菜に注目することは地元を見つめ直すことにつながると思いました。」

エバンズさん
―身近で作っている人がいると、その人が作っているものに興味が湧いたり、食べ物への感謝の気持ちが湧いてきたりして、物を大事にするみたいな気持ちにもつながったりするかもしれないですよね?

やはたさん

「はい。大事に作られたものを、食べられる部分じゃないといって簡単に捨ててしまうとか、そんなことができなくなります。野菜は本当に根っこまで食べたくなります。


また、ごみにせず循環させることも考えるようになりました。


私は自宅で便利だとディスポーザー(台所の排水口に生ごみをいれると粉砕してくれる器械)を使っていたのですが野菜に関わるようになってから生ごみを廃棄するのではなく、コンポストにする(生ごみを堆肥化する)ようになりました。


環境問題というと、たいそうなことと思うかもしれませんが自分の足元を見つめなおすというか、自分のできることが一歩ずつ環境問題につながっていると感じました。」

地元に知られていない地元野菜

やはたさんがいま、力を入れているのは地元の人たちに地元の野菜を知ってもらうという活動です。江戸東京野菜をPRするため 定期的に巻きずし教室を開くなどしていますが
地元の人たちにすら江戸東京野菜が知られていないと感じています。

やはたさん

「教室に来てくれる人は江戸東京野菜を知っている人も多いのですが、その友人や家族は知らない人が多くいます。地元の人にすら届いていないと実感しました。」

川口エンドウ

伝統野菜がこのまま作られなくなると、古くから続いてきた地元の新鮮でおいしい貴重な食材がなくなってしまうとやはたさんは感じています。

たとえば、八王子の川口という地区で作られてきたことからその名前がついている川口エンドウ。

昭和30年代には地区をあげて生産するほどでしたが 、収穫に労力がかかる割にお金にならないことなどもあり、畑がどんどん宅地化されていく中で生産する農家を見かけなくなったといいます。

しかし、ある農家が自家用に栽培してきたことがわかり、そこからほかの農家にも広がり、再び栽培されるようになりました。2014年に江戸東京野菜に認定され、いまは道の駅などで買うことができます。


やはたさんは、川口エンドウを守っていきたいと収穫を手伝っています。

やはたさん

「種をつないでいかなければ伝統野菜はなくなってしまいます。江戸東京野菜は本当に地元の財産だと思うので地元の人に知ってもらいたいと思っています。


地元の人が知ることで、伝統野菜を作る人も増えていくし、知ってもらえることで、食べてもらえるという好循環もつくることができると思います。


野菜から地元を見つめるようになりますし、見つめることで地元が好きになると思います。そうして、地域が盛り上がっていくと思います。」

担当 地球のミライの
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みんなのコメント(1件)

感想
匿名
2023年4月22日
種子法や種苗法など国がこうした農家個々の地力を削るような、企業化しないと生き残れないような法改正するなどで税収を上げようとしているようなことばかり起こるので、
こうした末端の農家が元気で豊かな生産出来るところから国力が地力上げて元気になっていってほしいと思う。
テレビで農家の収穫の様子が映ると、盗まれないか、勝手に心配になってしまう。
地産地消こそ新鮮で美味しい。
代替わりで地域の畑が軒並み窮屈な住宅地に変わってしまったせいで地元野菜は減り続けている。このままではいつしか近所に二酸化炭素と殺風景しか残らないのではと危惧している。
法的な問題は政治家さんに考えて頂くしかないと思う。真剣に日本の良さや豊かさ、地域の健全な在り方を考えて頂きたい。