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群馬 鬼ごっこが熱い チームでの活動が地域課題解決の一助にも

  • 2023年09月06日

日本で最も有名な遊びと言える「鬼ごっこ」。子どものころ、誰しも一度はやったことがあるのではないでしょうか。その歴史は深く、長く愛されてきましたが、今、真剣勝負の「競技」として人気を集めています。その名も「スポーツ鬼ごっこ」。競技熱が高まっている桐生市では、競技を通して地域課題の解決の一助にもつながっていました。

(前橋放送局 記者 中藤貴常/2023年6月取材)

鬼ごっこはスポーツ どんな競技なの?

ことし6月下旬、東京都内の体育館に集まった、子どもから大人まで幅広い年代の人たち。
スポーツ鬼ごっこの全国大会の出場者です。

この日、全国の15チームが頂点を目指しました。
スポーツ鬼ごっこは7人制の競技でバスケットボールのコートほどの広さで対戦します。

コートの2か所には「宝(トレジャー)」と呼ばれる筒が設置され、前・後半5分ずつ戦って、敵チームのトレジャーを取り合い得点を競います。

宝(トレジャー)

両手でタッチされたら一度コートの外へ。
時間内により多くの宝を奪ったチームの勝利です。

両手でタッチ

【ルール】
①前後半5分ずつ(ハーフタイム2分)
②コートはバスケットボールコートほどの広さ
③時間内に宝(トレジャー)を多く獲得したチームが勝利(2チームの対戦)
④ハーフラインを境に互いのチームの陣地となり、自陣ではタッチされず、相手の陣地に入るとタッチされる
⑤両手でタッチ
⑥タッチされたら自陣の端から再スタート
⑦より早く宝を獲得したチームに得点が入って1区切り。獲得するまでの流れを時間内繰り返す

中でも大きな特徴は年齢です。
子どもから大人まで、幅広い年代の人がプレーできるように、メンバーに入れなければならない年代が定められています。

7人のうち次の年齢の人が必ず1人はコートに入る
△9歳以下
△10歳から12歳
△13歳以上

“生みの親”が語る スポーツ鬼ごっこの可能性

スポーツ鬼ごっこの生みの親が、羽崎泰男さんです。
長年、鬼ごっこの研究を続けてきました。

鬼ごっこ協会 羽崎泰男 代表理事
「いろいろな文献を調べていくと、平安時代あたりにはその(鬼ごっこの)原型ができていて、子どもの遊びとしては江戸時代には広く定着していたようです。その後は氷鬼や高鬼、缶けり、かくれんぼのように、種類がどんどん増えていきました」

大学などで健康や運動についても研究を行う中で、子どもも大人も課題の「体力低下」に対する鬼ごっこの可能性の高さに気づいたといいます。

鬼ごっこ協会 羽崎泰男 代表理事
「鬼ごっこの基本動作としては、方向変換して急にスピードを上げて止まって、また動き出して、というようにあらゆるスポーツに通ずる、体力をつけるための重要な動きがつまっています。また、始めるハードルも低いので、誰もが意欲的に行うこともできます」

ただ近年は、ゲームやスポーツの発達などによって、鬼ごっこをする機会が大きく減少する“鬼ごっこ離れ”が進みました。
鬼ごっこの文化を残し、多くの人たちの体力向上につなげたい。
そこで羽崎さんが開発したのが「スポーツ鬼ごっこ」でした。

鬼ごっこ協会 羽崎泰男 代表理事
「従来の鬼ごっこは、鬼と逃げてる人以外は、何となくみんな周りで見ている、傍観者のようになってしまうことが問題点でした。鬼ごっこの何百年もある歴史を残すためには、やはり、おもしろくないといけない。さらに、時代によってそのおもしろさは違うじゃないですか。今の時代で鬼ごっこを後世まで残すとなると、今の時代の子どもや若年層に何が魅力的に映るのか、改めて考える必要がありました。そこで行き着いたのが陣取り型の鬼ごっこでした」

群馬で初 スポーツ鬼ごっこチーム結成

スポーツ鬼ごっこの誕生から10年あまり。
競技経験者は10万人を超え、チーム数も全国でおよそ250チームまで増加しました。

全国で熱が高まる中で、群馬県でもことし1月、初めてとなるチームが結成されました。

多くは鬼ごっこを通して知り合った

桐生市とみどり市の人が中心に7歳から60代まで、50人あまりが加入し、毎週練習を重ねています。

チームを立ち上げた熊切理香さんです。
1人ではなく、仲間と共に運動不足を解消したいと考えていたところ、スポーツ経験が少なくても始められるスポーツ鬼ごっこに出会いました。結成以来、体力アップに加え、「地域のつながり」が深まったと感じています。

熊切理香さん
「このフィールドの中に入ると、年齢も職業も性別も本当に関係なく全体が1つになれて、仲よくなれます。最初はみんななんとなく始めましたが、今では競技の魅力にはまってしまいました」

年齢や性別の壁を越えて

この日は、全国大会に向けた最後の全体練習。幅広い年代が1つになる連係プレーが課題でした。

チームの「核」は、中学生と高校生です。

キャプテンは中学3年の丹羽彩空さん。

エースは高校3年の坂本大吉さんです。
2人を中心に年齢の「壁」を乗り越えます。

キャプテン・丹羽彩空さん

「1番の子と3番の子をマークしていた方がいい。タッチして外に出して、スタート地点に戻す。人を減らす」

常にキャプテン・丹羽さんを中心に戦術について議論し、攻撃のバリエーションを増やそうとしていました。

坂本さんは元陸上部 俊足が持ち味

ほかの選手が相手を引き寄せて坂本さんが得点する攻め方を繰り返し確認。
若い2人が引っ張り、年齢や性別を超えてチームが徐々に1つになっています。

エース 坂本大吉さん
「1人の力で何もできないというか1人の力が弱いので、チームワークが大切になってくると思います。全国大会で活躍できるように、試合日まで練習したいです」

いざ、全国大会

初挑戦となる全国大会当日。

初戦の相手は茨城県の強豪チームです。

試合前も何度も戦術を確認。試合開始と同時に青の群馬は攻撃的な布陣で攻め込みます。

堅い守備を前に、宝(トレジャー)に近づけない

しかしまだ結成半年の群馬。
何年も練習を重ねてきた相手チームとの“経験の差”が如実に表れました。

息の合った、組織的なチームプレーに力の差は歴然、1点も奪えず敗れました。

プレーを映像で確認

それでも試合後はすぐに次の試合に向けてミーティングを行い、丹羽さんを中心に課題を洗い出していました。

丹羽彩空さん

「こっちに行きすぎているから、なるべく短いところでクロスしながら移動して」

相手にうまく攻め込まれてしまう

続く相手も強豪でした。
経験の差は大きく、前半は0対13とリードされて終えます。

しかし後半、磨いてきた連係プレーが、ついに実を結びました。

一番右の青の選手が坂本さん
右の坂本さん以外は左に集まる
相手は左に気を取られて坂本さんがフリーに
トレジャーまで一直線に駆け上がる
トレジャーをゲット

青の群馬は多くの選手が片方のサイドに走って相手を引き寄せると、その逆サイドをエース・坂本さんが駆け上がりトレジャーをゲット。

しかし…。

トレジャーを置く台が倒れる

宝を置く台が倒れ、得点は認められませんでした。

結果は大差で敗れましたが、年齢や性別を超えて、スポーツ鬼ごっこに向き合った全国大会。
群馬のチームとして確かな第一歩を踏み出した1日でした。

エース 坂本大吉さん
「本当に悔しいです。(トレジャーを)取れないと燃えるというか、自分はまだまだだなと思いました。ただ、そこがおもしろいとも感じました」

熊切理香さん
「悔しいです。でもみんなが力を合わせた時に何か達成できる、その喜びの大きさというのはスポーツ鬼ごっこのすごく大きな魅力かなと思いました。地元に帰っても、1人でも多くの人に仲間になってもらえるように声をかけて、市の大会や県の大会、そして、全国大会を群馬で開催できるようにしていきたいです」

  • 中藤貴常

    前橋放送局 記者

    中藤貴常

    警察・司法などを担当後、現在は県政担当。行政・スポーツなどを幅広く取材。

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