群馬 犯罪被害者の「2次被害」 体験した遺族が語る実態とは
- 2023年08月23日
犯罪の被害者が、周囲の配慮が欠けた言動やインターネット上のひぼう中傷などによって事件後も精神的に傷つくといった「2次被害」。具体的にどのようなケースがあるのか。ある事件のあとに、2次被害を受け、傷つく体験をした女性がインタビューに応じてくれました。
(前橋放送局 記者 辻智史/2023年7月取材)
2次被害を受けた女性 事件後にかけられたことばとは
脇見運転による事故で息子を失った母親
「当時は本当につらくて、毎日毎日、明日なんか来なければいいと思っていました」
群馬県内で脇見運転の車にはねられ、当時小学生だった息子を亡くした母親です。2次被害の実態を知ってほしいと今回、NHKの取材に応じてくれました。1人息子を亡くし、しょうすいしていた母親を傷つけたのは身近な人の何気ない言葉だったといいます。
脇見運転で息子を失った母親
「『私だったら気が狂っちゃう』と言われました。悪気はなかったと思いますが『気が狂っていない私は母親失格なのかな』とすごく落ち込みました」
そして、追い打ちをかけるようにインターネット上の掲示板で、亡くなった息子のことをやゆするような書き込みを目にしました。
脇見運転で息子を失った母親
「『こんな変な名前の子、死んでよかった』と書いてあって、弁護士の先生にも相談しましたが時間がかかるし、それでいて消してもらえるとは限らないと言われて諦めました」
その後の裁判で息子をはねた運転手は有罪となりました。ところが、本来なら被害者をサポートする側の行政機関の担当者から思いもよらないことばを投げかけられたといいます。
「もっとおおらかな気持ちになりませんか」
息子を亡くしたばかりの母親にとっては傷つくことばでした。
脇見運転で息子を失った母親
「突然、子どもを亡くした人に向かってどういうことなんだろうと思ってすごくショックを受けた」
支援する側のジレンマも
支援する側のことばが精神的な苦痛につながってしまうケースもある「2次被害」。県内の自治体でもどう防ぐのか、取り組みが進められています。渋川市役所で被害者の支援を担当する三輪俊介さんは、これまで直接、犯罪被害者とやりとりした機会がなく、自分のことばが相手を傷つけてしまわないか、不安があるといいます。
三輪俊介さん
「頑張ってくださいといった声を伝えたい気持ちはあるが、そういったことが2次被害につながってしまわないか不安に思うところがある」
被害者に寄り添った対応を
こうした中、7月、三輪さんなど、県内27市町村の職員が参加し、窓口対応の研修会が開かれました。狙いは2次被害を生み出さないような対応を学ぶことです。殺人事件で家族を亡くした人が窓口に相談に来たという想定で、シミュレーションを行いました。
犯罪被害者役の男性
「妻は病院で死亡が確認され、どうにもできなくて今後どうしたらいいのか」
自治体職員役・三輪さん
「ご家族の方が亡くなっているので見舞い金の支給もあるのでそちらも使っていただいて」
被害者の状況を聞いて対応する三輪さんですが、どのような支援を提案すべきかとまどう場面もあり、三輪さんは研修を通じ、思いを新たにしました。
三輪さん
「被害者に寄り添った形での案内だとかそういったところがうまくできなかったと思う。被害者が何度も気兼ねなくこちらにご連絡をもらえるような体制、対応をとっていきたい」
いかにして被害者に寄り添った対応ができるのか。自治体は模索を続けています。
誰もが2次被害の被害者にも加害者にもなる
息子を亡くしたあと、2次被害を受けた母親はより多くの人に、事件後も傷ついている被害者がいるということを知ってほしいと話します。
脇見運転による事故で息子を亡くした女性
「もしかしたらご自身も被害にあう可能性もあるのでぜひ関心を持ってもらって、被害者のつらい状況や心情を少しでも理解していれば2次被害にあう人も減ってくるのではないかと思います」
取材後記
こうした、2次被害は行政だけでなく、メディアの対応でも起こりえるものです。インタビューに応じてくれた母親の思いを受け止めて、取材を続けていきたいと思います。