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群馬 「男性育休」取得増へ 実際に取得した県内のパパは

  • 2023年08月09日

「17・13%」。これは、厚生労働省の調査でわかった2022年度の男性の育児休業の取得率です。前の年から3ポイントあまり増えて過去最高になったものの、政府が掲げる「2025年までに50%」という目標とはまだ開きがあります。

男性の育休取得をどう進めていくか。実際に取得したパパや、模索を続ける県内の現場を取材しました。

(前橋放送局 記者 兼清光太郎/2023年7月取材)

育休取得の県内パパは

桐生市に住む金子龍さん(25)です。ことし1月、第二子となる男の子が生まれ、およそ1か月、育児休業を取得しました。実は金子さん、群馬県警の現役の警察官です。

金子龍さん
「妻の妊娠がわかってすぐに上司に相談したところ、『育児に参加するいい機会だから行ってこい』と強く背中を押してもらった」

育休について、金子さんには強い思いがありました。実は、第一子の女の子が生まれた2年前は警察学校に入校中で、育休をとることができなかったのです。さらに、里帰り出産で生まれた娘とは生後数か月間、ほとんど会えない日々だったといいます。

金子龍さん
「妻に申し訳ないという気持ちと、育児をやりたかったという気持ちがあった。子どもが幼い時はそのときにしか見られないので、その姿を見ておきたかった」

こうした経験や思いがあったからこそ、第二子の妊娠がわかったときにはみずから、育休の取得を妻に提案しました。一方、妻の乃々花さんも、夫が育休を取得することを望んでいたといいます。

妻 乃々花さん
「実家も遠方なので、頼れるのは主人しかいないということもあったので、育休は取れるものなら取ってほしいと思っていた」

第二子の出産当時、高崎市内の交番に勤務していた金子さん。1か月の育休の間は、同僚が交代で交番の勤務に入るなど、自身の育休取得に伴うカバー体制が構築されていたといいます。こうして取得した育児休業。金子さんにとってかけがえのない時間になったといいます。

金子龍さん
「育児は大変だが、癒やしでもある。大変さのなかに、幸せがあると感じている。育休を取って子育ての大変さを学んだので、その経験を生かして、妻1人では大変だと思うので少しでも負担を減らせるように今も心がけている」

一方、育児に向き合う夫の姿は、妻の乃々花さんに大きな安心感を与えていました。

妻 乃々花さん
「上の娘を連れ出してくれたり、食材を買いに行ってくれたり、ごはんを作ってくれたりしたので、それをもし1人でやるとなったら大変だった。夫は、『こうしたほうがいいかな』と自分から提案して動いてくれた」

金子龍さん
「妻から評価されるのはありがたいし、うれしい。育児の大変さを感じたり経験したりしないと、育児を分担しようということもなかったかもしれないので、そういう点も含めて育児休業をとってよかった」

県警は取得促進もまだ課題

金子さんが勤める群馬県警の男性職員の育休取得率は、徐々に増加傾向にあるものの、昨年度は9%にとどまりました。国の調査の17・13%には及んでいないのが現状です。

危機感を抱いているのが、県警で福利厚生を担当する田島伸彦次席です。育休の取得を推進する背景をこう説明します。

田島伸彦次席
「警察組織はマンパワーなので、人材の基盤を確保することは非常に重要な命題。そういった意味では、採用試験の受験者数の減少は非常に憂慮すべきもの」

こちらは群馬県警の採用試験の受験者数(男性)の推移です。ここ数年で急速に減少し、昨年度は458人。わずか5年でほぼ半分に減少しました。有能な若い人材を確保するためには、育休を含む福利厚生の充実が欠かせないと考えています。

こうした中、群馬県警では男性の育休の取得率をあげるには管理職の意識改革も急務だとして、ことし2月、幹部を対象に、育休に関する研修を実施しました。

田島伸彦次席
「上の世代の方はまだまだ、“仕事は男性、家庭や育児は女性”という、昔ながらの考えが捨てきれない部分がある方が多いと思う。若い世代や職員には、育児に関する選択肢がさまざまあって、そこから選んでいいんだ、ということを伝えていきたい」

群馬県全体で“遅れ”のデータも どう変えていくか

男性の育休、実は群馬県全体で見ても遅れをとっているデータがあります。民間企業が発表したアンケート調査(※1)で、去年、群馬県の男性が取得した育休の日数は平均4点8日。全国平均を下回り、全国で40番目だったのです。(※1  積水ハウス「男性育休白書2022」)

母性看護学が専門で、育児休業に詳しい群馬大学の林はるみ教授は、性別の違いに基づく固定的な役割意識が群馬県ではまだ根強いのではないかとみています。

林はるみ教授
「『子育てはママがするもの、だからママに任せておけばいいや』という意識がまだまだこの社会では、地域では一般的なので、なかなか広がらないのではないか」

そのうえで、林教授は、事業主や管理職の人たちが、若者の価値観や育児を取り巻く状況が大きく変わっていることに気づく必要があると話します。

林はるみ教授
「『ワークライフバランスを大事にしている従業員は、仕事のやる気がないとか、昇格意欲がない』のではなくて、ワークライフバランスを大事にするからこそ仕事も意欲的にできるのだと、事業主や管理職の人にはそろそろ理解してほしい」

大学の授業の中で、男子学生に育休を取りたいか尋ねたところ、ほとんどの学生が手を挙げていたことが印象深いと話す林教授。そんな若い世代の人たちに送りたいエールがあります。

林はるみ教授
「男性が育児を「手伝う」のではなく「シェアする」という認識がすごく重要だと思う。そのためにも、若者が『育休を取りたいんだ』と上司に言っていってもらいたい。それは後輩のためにもなるので、そうすることで少しずつ会社も変わっていくのではないかと思う」

育休取得のパパ「私は勧めたい」

男性の育休の取得が、まだ十分に進んでいない群馬県。それでも、実際に育休を取った警察官の金子さんは、育休の取得を同僚たちに勧めたいといいます。

金子龍さん
「旦那さんが日中、仕事で出ていて奥さんしかいない家庭もあるので、そういったときに『育児、大丈夫ですか』と、そういった話もできるようになったので、そういった点でも育児休業が仕事に生きていると実感している」

金子龍さん
「男として、育児のあり方や見る目が変わるので、『育休をぜひ取って』と私は勧めたい」

取材を終えて

ことし2月から6月まで、私(記者)も4か月半、第一子の息子の育児に当たるため育児休業を取得しました。周囲に長期の育休を経験した男性職員がいない中で不安もありましたが、「育児を通じて、自分も父として、妻と息子と一緒に成長したい」という思いから、妻や上司と相談して育休を取得することにしました。

育児の大変さは想像をはるかに上回り、肉体的・精神的な疲労感も蓄積するなかで、ときに、育児の分担などをめぐって妻とぶつかることもありました。それでも、4か月半にわたって育児に向き合い続けることができたのは、「初めて笑顔を見せてくれた」「寝返りができるようになった」「体重が数百グラム増えた」・・・・子どもの小さな、そして確かな成長の一つ一つがあったからでした。取材で群馬県警の金子さんが語っていた「育児は大変さのなかに、幸せがある」ということばには、同じ父として、深く共感しました。

一方で、まだまだ男性の育休の取得が進んでいない現状に対しては強い危機感を覚えました。父として、今後も妻と育児に励むとともに、記者としての問題意識を持ち続け、育児を取り巻く課題についての取材を、継続していきたいと思います。

  • 兼清光太郎

    前橋放送局記者

    兼清光太郎

    2015年入局
    札幌局、帯広局を経て現在は前橋局で遊軍担当。

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