ページの本文へ

ぐんまWEBリポート

  1. NHK前橋
  2. ぐんまWEBリポート
  3. 群馬 調査報道 「森林整備計画」一部の自治体で形骸化か

群馬 調査報道 「森林整備計画」一部の自治体で形骸化か

  • 2023年07月12日

防災や温暖化対策などのために市町村が策定する「森林整備計画」について、群馬県の10の市町村で主要な項目の多くが、県が作っている森林整備の文書などとほぼ同じ文章になっていることがわかりました。「森林整備計画」とはどんな計画なのか?なぜ多くの市町村で同じ文章が使われているのか?関東地方で最も森林面積が大きい群馬県の森林整備の課題を取材しました。

(前橋放送局 記者 田村華子/2023年5月取材)

市町村が策定する「森林整備計画」とは

近年は大雨による大規模な土砂災害や地球温暖化などが世界的な課題となっています。こうした課題に対して重要な役割を果たしているのが森林です。日本では、国土の70%近くを森林が占めていることから、計画的に整備を進める必要があります。

森林整備は、政府、国、都道府県、そして市町村がそれぞれの役割に応じた方針を策定しています。中でも重要な役割を担うのが、現場となる市町村です。このため、民有林があるすべての市町村は、法律で「森林整備計画」の策定が義務づけられています。各自治体は、樹木の種類や分布状況など地域の実情を踏まえて5年ごとに計画を策定し、林業関係者などと連携して森林の整備を進めることになっています。

10の市町村でほかの計画文書と同一文章

NHKでは今回、群馬県内の35の市町村すべての「森林整備計画」を取り寄せ、合わせて約1000ページ分を分析しました。すると、同じような記述が相次いで見つかり、10の市町村で、主要な項目の多くが、県が県内の地域ごとに定めた計画書やほかの自治体の計画書とほぼ同じ文章でした。

その一例が写真の文章です。「森林整備の基本方針」は各自治体にとって計画の柱となりますが、各自治体を表す「市」「町」「村」、それに2か所の単語がわずかに違うだけでです。

また、基本方針のほぼすべてが、県の計画書にある文章と同じ自治体もありました。ただ1点、この自治体の文書には、なぜか途中で敬語が出てきます。その理由を探るため、過去20年までさかのぼって県の計画書を調べました。すると…。

県の計画書では20年前まで敬語を使っていなかったのですが、15年前からは敬語を使うようになっていたことがわかりました。つまり、この自治体がベースとしていた20年前の文章に、内容を追加するため15年前の一文を挿入したのではないかとみられています。

さらに、自治体の面積に占める森林の割合が87%にものぼり冬場には雪が降る村と、森林の割合が44%で雪があまり降らない市。地理的にも気候的にも異なる特徴を持つ2つの自治体で、ほぼ同じ文章を使った整備方針が掲げられていました。

このほか、「森林施業の合理化に関する基本方針」や「森林整備への住民参加」などの項目でも、同じような文章が相次いでいました。こうした状況に、森林整備計画に詳しい専門家は計画作りの形骸化を指摘しています。

東京大学 當山啓介助教
「必要な項目を記載するために県などの文章をそのまま使うケースは全国的にも多い。計画を立てて実行するという本来の役割を果たせていない」

自治体アンケート

なぜ、こうした事態となっているのか。NHKは、35の市町村のうち、まとまった面積の民有林がある27の市町村にアンケートを行ったところ、24の市町村から回答がありました。

この中で、森林整備に関わる職員の専門性や人数について、19の自治体が「十分でない」と答えています。

その理由として「国や県と違い専門知識のある職員がいない」とか「定期異動があると森林の知識を一から覚えないといけない」といった回答や「ほかにも兼任していて時間がない」などといった声も寄せられました。

また、森林整備計画の実効性が十分かどうか尋ねたところ、7の自治体が「十分でない」と答えています。その理由については、「すべての森林をとてもではないが把握できない」とか「前回の計画を更新できていない」などとしています。

東京大学 當山助教

各自治体の仕事が非常に多様でそれぞれの分野に人員が足りない。特に森林林業の内容は独自性の強く、詳しい職員がいない自治体は群馬県に限らず多い。

取り組み進むみなかみ町は

計画作りの形骸化が指摘される自治体がある一方、町の特性を生かした計画作りを進めている自治体もあります。県内で森林の面積が最も広い、みなかみ町です。町の計画書では、地元の森林の特性や課題を細かく分析し、自分たちの言葉で書き記しています。その上で、人材の育成や地元の木材の活用方法などの基本方針を具体的に定めています。

その計画で町が中核に位置づけるのが、「自伐型」という形態の林業の活用です。

日本の森林整備は、所有者が地元の森林組合などに管理を委託する形が主流です。しかし、林業が衰退し、少ない人数で広大な土地を受け持つことにならざるをえません。その結果、維持管理が行き届きにくくなっているんです。

一方、自伐型林業は、森林を一定の区画ごとに分け、少人数のグループや個人が各エリアを管理します。いわば“小さな林業”によって、人の手を行き届きやすくしています。

町の農林課で課長を務める原澤さんも休みの日は山に入り、自伐型林業に取り組む1人です。

みなかみ町農林課 原澤課長

みなかみ町では11グループのおよそ100人が自伐型林業に参加しています。

町が進める自伐型林業の参加者には、若者や定年退職した人たちの姿もみられます。

自然豊かで地方の生活を望んで移住する人も多い、みなかみ町。そうした人たちが、アウトドアのインストラクターや農業などを行いながら林業に携わっています。こうした町の特徴は好循環を生んでいます。生活の足しとなる収入を得られて環境保護にも貢献できるとして、自伐型林業への参加を希望する人が増えているということです。

みなかみ町農林課 原澤真治郎課長
「利根川の源流にある町なので森林が整備されて初めてきれいな水が届き、災害などを防ぐこともできる。移住者の受け入れに積極的な町に適合した形で持続可能な森林整備を進めていきたい」

取材後記

「これで本当にいいの?」

私は、森林整備を専攻していた大学時代に初めて市町村の計画書を見て疑問を感じました。
当時から4年ほどたちますが、残念ながら状況は今も変わっていません。

問題の根底にある専門知識を持つ人材の不足は、市町村だけの努力ではなかなか解決できません。しかし、それが原因で災害の発生や地球温暖化の進行につながってしまったら。そう考えると、国や県のサポートも含め、対策は待ったなしです。私自身も状況の改善に向かうきっかけになれるように、今後もさまざまな形で取材を続けていきたいと思います。
 

  • 田村華子

    前橋放送局記者

    田村華子

    2021年入局。県政担当。視聴者に"身近な"話題を"わかりやすく"発信していきます。

ページトップに戻る