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群馬 熱中症とコロナ対応で切迫 救急現場の医師訴える"予防" 

  • 2022年07月20日

群馬県内で連日、猛暑日が続いていた6月27日。NHK前橋放送局にある情報が寄せられた。高崎市の救急の専門医からだった。

「救急医療体制は危機的状況になる可能性がある」

熱中症の重症者の救急搬送が増える一方、新型コロナへの対応が続く中で持っていた強い危機感だ。2日後、インタビューに応じた救急の専門医。さらに強いことばで語った。

「ことしの夏は“異常事態”だ」と。

(前橋放送局記者 岩澤歩加/2022年6月取材)

救急医療が立ち行かない 情報提供への思い

NHKに情報を寄せ、インタビューに応じたのは、高崎市にある「国立病院機構 高崎総合医療センター」の救急科で部長を務める町田浩志医師。
情報を寄せたのは、関東甲信の梅雨明けの日だった。急増する熱中症患者と新型コロナへの対応に追われていた。

国立病院機構 高崎総合医療センター 救急科 町田浩志 部長
「もともと夏は救急搬送が非常に多い時期で、救急医療が相当ひっ迫するが、ことしは梅雨明けが早いので、熱中症になる期間が(それだけ)長くなってしまう。一方、まだコロナで病床の制限もしているので、例年のような数の熱中症(患者)が搬送されてくると、救急医療が立ち行かなくなるだろうと思った。少しでも市民の皆さんに“熱中症は防げるので、予防できることはなんとか予防していただきたい”と思い、情報提供させていただいた」

重度熱中症の実態

取材したこの日(6月29日)は、午前の時点で3人が熱中症で入院していた。

搬送時、3人とも意識がなかったという。そのうち1人は若者で、3人のうちで一番重症。脱水症状のため「腎臓にダメージ(町田医師)」があり、透析の処置を行ったという。ほかの1人の高齢者は路上で倒れていた。「鉄板の上(町田医師)」のようなアスファルトでやけどをしたため手術中だった。

重度の熱中症になるとどんな症状になるのだろうか。

町田浩志医師

「意識を失ったり、腎臓の機能が悪くなったり、肝臓の数値が悪くなったりする。どちらかというと怖いのは、熱や脱水症状よりも、臓器障害が起こってしまうことで、亡くなる人が毎年、何人かいるというのも事実だ」

また、熱中症で搬送される患者の多くには発熱があり、まず、新型コロナへの感染を確認する検査が必要であることから、すぐに診察できなかったり、搬送を断ったりする可能性があることを指摘した。

医療現場の“コロナ疲れ”

暑さは、ここ最近少し落ち着いているが、取材したこの日は伊勢崎市で40度ちょうどを観測した。

若くても、ふだんは元気でも、家の中にいても、誰でも、いつでもなり得るのが熱中症の怖さだと町田医師は警鐘を鳴らす。

「ことしの夏は“異常事態”だということを、まず認識していただきたい。高齢で元気にしている方で“自分は大丈夫”と思っている人が結構いるが、何年か前とは夏の暑さが全く変わっている。元気な方でも年を重ねれば体は弱ってくるので、油断してほしくない」

患者自身の健康はもちろん大事だが、救急医療の現場の切迫度も高まっている。長引くコロナ対応に加えた熱中症への対応。受け入れを制限せざるを得ない、対応したくてもベッドが足りず対応できない。スタッフの疲労もたまっている。

国立病院機構 高崎総合医療センター 救急科 町田浩志 部長
「医療者には、2年間の“コロナ疲れ”がある。よく耐えていると思う。“われわれの休みはいつになるんだろう”と、多分みな口に出さないけれど、そう思いながらやっている。負担は相当大きい。そもそも、われわれ医療者は、患者さんが増えても医療スタッフが増えるわけではない。患者さんが来ると休憩が十分取れない。スタッフの疲労というのも、ことしの夏は非常に心配している」

予防、予防、予防

医療現場が崩壊しないように。町田医師は、口酸っぱく「予防」ということばを繰り返す。重症化するのは脱水が原因だとして、何より、水分補給の重要性を強調する。入浴後、飲酒後はもちろん、のどが渇いていなくてもこまめに飲む、これが基本だ。

熱中症は、本当に“命”に関わる大きな合併症を起こすこともある。なので、日々自分の体調の変化に気を遣い、たとえば、いつもよりトイレに行く回数が少ない、とか、朝起きた時からだるいとか、夜に足をつりやすくなったとか、そういう少しの変化に気をつけてもらいたい」

兆候をつかみ「おかしい」と感じたら、日中の早い時間に医療機関に向かうことが大切なのだ。

国立病院機構 高崎総合医療センター 救急科 町田浩志 部長
「我慢して、我慢して、我慢して、夜に救急(病院)で、となると、医療者の方もそれほどスタッフが多くないので(速やかな対応が難しい)。早い時間から病院を受診したり、休憩を入れたり、とにかく“予防”することをしっかり意識してこの夏を乗り切っていただければと思う」

「私は大丈夫」ではなく「私も熱中症になるかもしれない」
暑い夏も現場を駆け回る、記者の私自身も、そう肝に銘じて過ごしたい。

  •  岩澤歩加

    前橋放送局記者

     岩澤歩加

     2020年入局 警察取材を経て現在は行政やシングルマザーなどの福祉を中心に取材

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