レビー小体型認知症 幻視・歩行障害などが現れる

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異常な物質「レビー小体」で起こる認知症

レビー小体型認知症は、「レビー小体」という異常な物質が脳に生じることで起こるとされています。レビー小体が生じる原因はよくわかっていませんが、レビー小体が脳の中で徐々に増えながら、少しずつ脳の神経細胞を壊していくことで、認知症を発症します。
レビー小体型認知症は、アルツハイマー型と血管性に次いで3番目に多い認知症で、国内では50万人以上の患者さんがいると推定されています。特に75歳以上で起こることが多い病気です。初期の段階では記憶障害は目立ちにくく、病気がある程度進行してから顕著になります。

あるケース 異変が始まったAさん

レビー小体型認知症はどのように始まるのでしょうか。ある人のケースを見てみましょう。

レビー小体型認知症が起きたケース、歩く速度が遅くなった

70歳代のAさんは、妻と2人暮らしです。Aさんは、最近、歩く速度が遅くなったことが気になっています。数年前までは妻より速かったのに、いつの間にか、妻が先を歩くようになったのです。

レビー小体型認知症が始まったケース、つまずくことが多くなった

つまずくことも多くなっています。変わったことはほかにもあります。

レビー小体型認知症が始まったときの症状、幻視

最近、夜になると、部屋で知らない子どもが見えるようになったのです。驚いて妻に伝えても「いるわけないじゃない」と言われ、困惑されてしまいます。日中は何も見えないのですが、夜になるとまた繰り返します。「一体何が起きているんだろう」と2人とも不安を感じています。

レビー小体型認知症 特徴的な4つの症状

Aさんには、実はレビー小体型認知症の特徴的な4つの症状のうち、2つが起こっています。

幻視

部屋で知らない子どもが見える」のは、「幻視」と呼ばれる症状です。実際には目の前に存在しない人や虫、火などが見えます。この症状は、見たものの情報を処理する脳の機能が低下することで起こり、薄暗い場所で起こりやすい症状です。
また、幻視とともに、ハンガーに掛かった服を人と見間違えるといった「錯視(さくし)」という症状がみられることもよくあります。

パーキンソン症状

歩く速度が遅くなる・つまづく」のは、「パーキンソン症状」と呼ばれるものです。脳の異常により、脳からの指令を筋肉に伝える「ドパミン」という神経伝達物質が減少します。すると、パーキンソン病と同じように筋肉がこわばり、体を思うように動かせなくなります。小刻みな歩幅ですり足で歩くようになるため、歩くのが遅くなったり、つまずきやすくなったりします。転倒し事故に合うこともあるため、危険な症状です。
また、飲み込むときに必要なのどの筋肉の動きが悪くなり、食事中にむせやすくなります。食べ物をうまく飲み込めずに気管に入ってしまうと、誤えん性肺炎や窒息が起こることがあり、命に関わります。

レム睡眠行動異常症

レム睡眠行動異常症

レム睡眠行動異常症」は、睡眠中に大声を出したり、体を大きく動かしたりする症状です。夢を見ているレム睡眠という状態のときに起こります。通常、レム睡眠のときは、筋肉が緩んでいるため、あまり動きませんが、脳に異常があるために、筋肉がうまく緩まず、夢の内容のとおりに叫んだり、手足を大きく動かしたりします。腕を壁にぶつけて骨折したり、隣で寝ている人を強くたたいたりすることもよくあります。

認知の変動

レビー小体型認知症の症状、認知の変動

認知の変動」は、通常のはっきりした状態と、「注意の障害」と飛ばれるぼんやりとした状態を繰り返す症状です。それまでふつうに会話をしていた人が、突然ぼんやりして話が通じなくなったりします。分単位の間隔で変動することもあれば、数日単位で変動することもあります。

受診と検査

これらの4つの症状のうち1つでも当てはまるのものがあれば、レビー小体型認知症が疑われるので、専門医を受診することがすすめられます。日本老年精神医学会や日本認知症学会が認定している専門医の一覧が、これらの学会のホームページにあります。
受診して、医師の診察により認知症が認められ、特徴的な4つの症状のうち2つ以上があると判断されると、レビー小体型認知症が「ほぼ確実」であると診断されます。1つだけあると判断された場合は、「疑いがある」として、経過観察を続ける場合や、さらに詳しく検査を受ける場合があります。
レビー小体型認知症の診断に用いられる検査は、3つあります。4つの特徴的な症状のうちの1つと、3つの検査のうち1つ以上でレビー小体型認知症の特徴がみられれば、レビー小体型認知症が「ほぼ確実」と診断されます。3つの検査について説明します。

ドパミン・トランスポーター・イメージング

ドパミン・トランスポーター・イメージング」は、脳でドパミンが正常に分泌されているかどうかを画像に映し出す検査で、パーキンソン症状に関する検査です。

ドパミン・トランスポーター・イメージング

左のアルツハイマー型認知症の脳画像と比べると、右のレビー小体型認知症の脳画像では、脳からのドパミンの分泌量が低下しているため、ぼんやり写っています。

心筋シンチグラフィ

「心筋シンチグラフィ」は、もともとは心不全の診断のために行われるもので、心臓の自律神経の働きを調べる検査です。レビー小体型認知症では、レビー小体が心臓にもたまってきて、その働きに影響することがよくあります。

心筋シンチグラフィ

左のアルツハイマー型認知症の人の画像では、心臓の自律神経が正常に働いているため、心臓のかげが写っています。一方、レビー小体型認知症の人では、心臓の自律神経の働きが低下しているため、心臓のかげが写らなくなります。

睡眠ポリグラフ

「睡眠ポリグラフ」は、レム睡眠行動異常症があるかどうかを調べる検査で、入院して行います。

睡眠ポリグラフ

頭とあごに電極を付けて眠り、睡眠時の脳波と筋肉の動きを記録します。レム睡眠のときに筋肉に力が入っているのが、レム睡眠行動異常症の特徴です。

認知症の“超”早期発見につながる前段階の症状

レビー小体型認知症では、特徴的な4つの症状以外にも、記憶障害が起こるかなり前から、さまざまな症状が現れます。これは、レビー小体が脳だけでなく、全身にも生じて、たまってくるためです。

レビー小体型認知症の症状が現れ始める時期

この表は、国内で行われた研究で、レビー小体型認知症と診断された人たちに現れた主な症状の「出現の頻度」や、「記憶障害が現れる時期を基準に各症状が現れる時期」をまとめたものです。最も早くから現れるのが「便秘」で、記憶障害が起こる9年以上前から現れ76%の人たちにみられます。「嗅覚障害」は9年近く前から現れてきて44%の人にみられます。「抑うつ」は5年近く前から現れてきて24%の人に、「立ちくらみ」は1年ほど前から現れてきて33%の人にみられます。

レビー小体が現れる場所

これらの症状は、レビー小体が鼻や心臓、腸にもたまってくるために現れます。たとえば、心臓でレビー小体が増えると自律神経の働きが低下し、脳に十分な血液が送られなくなるため、立ちくらみが起こります。

特徴的な症状がない場合受診はどう考える?

つまり、頑固な便秘、嗅覚障害、抑うつ、立ちくらみなどがみられる段階で気がつくことができれば、認知症になる前にこの病気を見つけることも可能です。もちろん、これらの症状だけではレビー小体型認知症と結びつけるのは難しいですが、疑うポイントは「こうした症状に対し標準的な治療を受けているがなかなか改善しない」「薬の副作用が起こりやすい」ことです。さらに、そうした症状が2つ以上ある場合は、より強くレビー小体型認知症やその前段階であることを疑って、一度専門医を受診してみることがすすめられます。
特徴的な4つの症状が1つもないけれど、そのほかの症状があって専門医を受診した場合、医師は3つの検査のいずれか1つ、あるいは複数を実施することが推奨されています。その結果、1つ以上の検査でレビー小体型の特徴がみられれば、「疑いがある」と診断されます。その後、定期的な診察・経過観察を続けた結果、「ほぼ確実」と診断されて、症状によって日常生活に支障をきたし始めた時点で、治療を検討していくことになります。たとえば、歩きに変化がみられるようになり、その後つまずくようになり始めたら治療を考えることになります。

レビー小体型認知症の治療

レビー小体型認知症に対してはのみ薬が用いられることが多く、症状に応じて選択されます。
「注意の障害」がある場合、アルツハイマー型認知症の薬の1つとして知られているドネペジルを服用します。ドネペジルは、神経伝達物質の1つであるアセチルコリンを増やす作用があり、注意の障害の改善に高い効果が期待できます。ぼんやりすることが多かった患者さんが、薬によって“頭がすっきりしてきた”と感じることも多くあります。また、多くの人で「幻視」も改善します。
「パーキンソン症状」に対しては、レボドパやゾニサミドといったパーキンソン病に対する薬を使います。
「レム睡眠行動異常症」に対しては、ドネペジルが有効な場合があります。また、症状が強い場合は、てんかんの治療薬であるクロナゼパムという薬を使うこともあります。
ただし、レビー小体型認知症は薬にとても反応しやすいという特徴があり、注意が必要です。たとえば、ドネペジルがよく効いていると思い、量を増やしていくと体調が悪くなるといったこともよくあります。そのため、医師が患者さんをよく観察し、まめに用量などを調整することが重要になります。また患者さんは、体調に少しでも変化があれば、まめに医師に報告・相談することが大切です。

薬以外の対策

レビー小体型認知症の症状が薬で改善しやすいとはいえ、病気の進行が止められるわけではありません。長期間生活の質を安定させ保ち続けるためには、薬だけでなく、家庭での対策も重要です。また、症状によってはリハビリテーションが有効です。

家庭での対策

幻視や錯視がある場合の対策としては、寝る直前まで部屋を明るくしておく、服はハンガーに掛けっぱなしにせずクローゼットにしまう、などによって症状が現れる頻度を減らすことができます。
レム睡眠行動異常症がある場合は、睡眠中のけがを防ぐことが大切です。ベッドや布団は壁から離れた場所に置き、周りに物を置かないようにしましょう。

介護保険サービスのリハビリテーション

つまずきや、食事中にむせることへの対策には、介護保険サービスを利用したリハビリテーションがおすすめです。
つまずきが起こる場合は、脚の筋肉を鍛える運動やリハビリテーションを行うのがよいでしょう。「リハビリ特化型デイサービス」という、主に身体機能の維持や回復を目的とした介護保険サービスを利用するのもよいでしょう。
むせる場合は、食事中の誤えんを防ぐリハビリテーションが必要です。言語聴覚士が自宅を訪問して飲み込みの訓練を行う介護保険サービスもあるので利用するとよいでしょう。介護保険サービスについては、地域の介護保険の窓口や、ケアマネジャーに相談してください。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2024年3月 号に掲載されています。

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