インフルエンザ “異例ずくめ”の感染拡大 薬不足に集団免疫の低下 どう対処する?

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インフルエンザプール熱(咽頭結膜熱)熱があるのどがおかしい発疹が出た

異例!8月からインフルエンザの感染拡大が始まった

インフルエンザ定点あたりの報告数

通常、インフルエンザは11月後半から感染が増え始め、年を越えた1月から2月にピークを迎えますが、2023年は8月後半から増え始めました。原因のひとつと考えられているのが、インフルエンザに対する「集団免疫」の低下です。

集団免疫とは

集団免疫とは、ある感染症に対して社会全体が防御する力のことです。人口の一定以上の割合の人々が、過去の感染や予防接種によって、ウイルスなどに対する免疫を持つと、感染者が出てもほかの人へ感染する可能性を減らすことができ、流行の拡大は収まるか、ゆるやかなものにできます。ところが現在は、インフルエンザに対する集団免疫の低下が、とくに若年層で顕著になっています。

年齢別抗体保有状況出典:国立感染症研究所

インフルエンザの抗体を持っている割合を年齢別に調べたところ、例えば、2018年はインフルエンザA型のあるタイプで、5歳から19歳までの抗体保有率がいずれも70%以上でした。ところが、2023年は同じタイプの保有率が40%以下となっています。一般に、子どもは大人よりも病原体に感染した経験が少ないため、免疫が未発達です。その後、成長とともに多くのウイルスや病原体に接触するなかで少しずつ免疫を獲得し強化していきます。しかし、新型コロナの流行が発生して以来、21年、22年と2シーズンにわたってインフルエンザの流行がほとんど起きませんでした。そのため、若い人とくに子どもの抗体保有率が少なくなっているのです。

東京都のデータ(2023年12月14日発表 インフルエンザの流行状況)では、インフルエンザ感染者の約80%、入院患者の約60%が20歳未満の若い人となっています。家庭内での感染により、高齢者を含めて全世代的に感染が広がる可能性があります。

咽頭結膜熱・溶連菌感染症も過去にないほど感染が拡大

咽頭結膜熱
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎

出典:国立感染症研究所

インフルエンザと同様に、2023年はさまざまな感染症が流行しています。インフルエンザ以外の感染症についても集団免疫が低下しているとみられます。まずは咽頭結膜熱、いわゆるプール熱が、過去10年間の中でも突出して多い状態が続いています。また、溶連菌感染症の一種、「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎」も過去10年間で最も多くなっており、注意が必要です。

咽頭結膜熱は、プール熱と呼ばれてきたように、夏に多いアデノウイルスによる感染症です。これまでも冬に流行することもありましたが、これほど大きな流行は初めてです。症状としては、発熱や喉の痛み、目の充血・目やに、首のリンパ節の腫れなどが特徴です。感染力が強く、飛沫や接触で感染するため、診断を受けたら学校は出席停止となります。また、アデノウイルスはアルコール消毒が効きにくいため、流水とせっけんによる手洗いがすすめられています。一方、溶連菌感染症は、発熱後、体や顔、指先などに発疹が出ることがあります。

咽頭結膜熱、溶連菌感染症はともに、感染者との密接な接触は避け、タオルや寝具などの共用を避ける、よく触れる場所や器具の消毒を行うことなどが予防として大切です。

医薬品不足の現状は?

医薬品不足の現状は?

インフルエンザなどの感染症の流行の影響もあり、深刻になっているのが医薬品の不足です。特に、せき止めや、たん切りの薬(去たん薬)、解熱鎮痛薬、抗生物質の処方薬が入手しづらくなっています。日本医師会が2023年8月から9月にかけて行った緊急調査では、90%の医療機関が「入手困難な医療用医薬品がある」と答えています。

一方で、インフルエンザの治療薬である「抗インフルエンザ薬」については現在のところ不足していません。在庫も十分にあるということです。小児用のドライシロップは品薄となっていますが、錠剤や吸入タイプのもので代用することは可能です。発症2日以内に抗インフルエンザ薬を使うと、発熱期間を1日減らす効果と重症化を予防する効果があるため、特に重症化リスクの高い人は、病院を受診し、診断を受けて抗インフルエンザ薬の処方を受けるようにしましょう。

重症化リスクが高いのは、高齢者や乳幼児、妊婦、慢性的に呼吸器や心臓に病気を持つ人、糖尿病や慢性腎臓病を持つ人、免疫を抑える治療を受けている人、肥満の人などです。インフルエンザが毎年のように流行していたときは、インフルエンザから肺炎を併発し、高齢者を中心に年間数千人が亡くなっています。インフルエンザは決して油断できない感染症なのです。

年末年始は休診になる医療機関も多いですが、救急外来でもインフルエンザの診断と抗インフルエンザ薬の処方は可能です。重症化リスクの高い人は、ためらわずに救急外来を受診するようにしましょう。また、都道府県などが開設している電話相談窓口に連絡すると、年末年始に対応可能な医療機関を教えてもらえます。診療を行っている医療機関は都道府県のホームページにも掲載されています。

ワクチンの接種は、まだ間に合う?

インフルエンザワクチンの効果があらわれる時期

インフルエンザを予防するには手洗い・うがい・マスクなどの感染症対策が重要ですが、免疫力を高める予防法はワクチン接種です。接種後、およそ2週間でウイルスとたたかう「抗体」ができ、最も効果が高くなるのは接種をしてから1〜2か月後です。効果があらわれるまでは2週間かかるため、インフルエンザが流行する前に接種することが大切です。しかし、流行が1月から2月頃まで続くことを考えると、未接種の人は12月後半でも接種することがすすめられています。

13歳以上の場合は、1回の接種で十分な抗体上昇が見込めますが、生後6か月以上13歳未満の子どもの場合は、もともとの基礎免疫が低いため2回の接種が推奨されています。1回目の予防接種から4週間ほど空けて2回目を打つことになります。

インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチン併用の効果

高齢者ではインフルエンザワクチンに加え、肺炎球菌ワクチンの接種が重要です。インフルエンザワクチン単独に比べ、インフルエンザワクチン・肺炎球菌ワクチンの両方を接種すると、75歳以上の高齢者で入院患者数を約50%減少できたという報告もあります。肺炎球菌ワクチンは5年ごとに接種することができ、市区町村によっては接種への助成があり、無料で接種できるところもあります。

さらに、2024―2025年のシーズンからは、鼻腔内にスプレーする経鼻ワクチンが新しく導入される予定です。接種対象は2歳から19歳です。これまでの注射のワクチンは13歳未満では2回接種する必要があったのに対し、経鼻ワクチンは1回の接種で済みます。鼻に霧状に吹きかけるいわゆる点鼻液のワクチンが国内で認められるのは初めてで、注射の難しい小さな子どもでも接種できると期待されています。

この記事は以下の番組から作成しています

  • きょうの健康 放送
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