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生き残りをかけた地域病院の模索

  • 2024年2月20日

全国各地で人口減少に歯止めがかからない中、大きな課題となっているのが地域医療です。北海道でも、統廃合を迫られる病院が出ていて、必要な医療を受けられなくなる懸念も高まっています。十勝地方のある公立病院では、生き残りをかけた新たな医療サービスの模索が続いています。

(帯広放送局記者 堀内優希)


危機の病院にさらなる衝撃

帯広市の西隣、人口約1万8000人の十勝の芽室町。その町の中心部にあるのが公立芽室病院です。常勤医師11人を抱え、町で唯一の入院機能を持っています。そんな病院に5年前、1つの衝撃が走りました。国から再編や統合の議論が必要だと判断されたのです。厚生労働省は当時、診療実績が少なかったり、似たような診療内容の病院が近くにあったりすることを理由に、再編や統合などを議論すべきだとして、全国424の公立病院と公的病院の名前を公表しました。北海道は都道府県で最も多い54に上り、公立芽室病院もそのひとつだったのです。さらに同院は、医師不足や人口減少による診療報酬の減少の影響を受けて、一時は8年連続の赤字に陥るなど、厳しい経営局面に立たされました。当時の状況を、院長は今も鮮明に覚えていました。

公立芽室病院 研谷智院長
「町民の方からも公立芽室病院なくなるんじゃないのかっていう声とかもいただいて。国からの発表はかなりの衝撃ではありました。公立芽室病院がなくなって、帯広の病院がそういう地域包括ケアを全部担ってくれるかというと絶対そんなことはありません。
それぞれの場所に、地域のことを考えてくれる病院は必ず必要だと思っています」

「地域医療」のリーダーに

公立芽室病院が生き残るために選んだ策。それが「地域医療」の充実でした。芽室町に隣接する帯広市には、総合病院が充実しています。こうした病院と機能をすみ分けした上で、地域に根差し、住民の暮らしを支える病院を目指す方針を打ち出したのです。公立芽室病院は高度な手術や救命救急の処置を要する患者の対応は、できるだけ帯広市の病院に任せ、治癒は難しいが病気の進行は穏やかな状態が続いている「慢性期」や、病気やけがをする前の生活に戻るために、心身ともに回復をはかっていく「回復期」の患者を受け入れ、地域生活への復帰や介護サービスにつなげる「地域包括ケア」のリーダーとしての役割を担う選択をとったのです。

院内に24時間体制の訪問看護ステーションを設置するなどして在宅医療にも力を入れ、さまざまな事情で通院が難しい人も医療サービスを受けられる体制作りに取り組んでいます。高齢化などの影響で訪問看護の需要は年々高まり、2022年度の利用者数は前年度比1.5倍近くに増えていて、現在は月に40人ほどが利用しているといいます。


さらに1歩進んで…

公立芽室病院の取り組みはここだけにとどまりません。通院が難しい人に対する医療への需要は今後ますます高まっていくと見込まれる一方で、担い手不足が懸念され、大きな働き方改革が求められる医療の世界。こうした状況の中で、新しい医療のあり方を考えなければならないと現在検討しているのが、「オンライン診療の導入」です。

「何か心配事はありませんか?」。オンライン診療の本格導入につなげようと、今月5日、町中心部にある病院から約20キロ離れた上美生地区で、オンラインによる医療相談会を実施しました。会場は、約80世帯150人余りが暮らすこの地域の公共施設。上美生地区の70代の住民5人が参加し、院内にいる医師2人が画面越しに相談に乗りました。相談会で使用されたこの専用機器は、聴診器や心電図を接続して遠隔で患者の状態を把握することも可能で、病院でも、将来的にはこうした機能を活用したいと考えています。病院側でも、多くの医療従事者が相談会の模様を見守る姿があり、院内の関心も高いことがうかがえました。

住民もこうした取り組みに期待を寄せています。参加した70代の男性です。路線バスが通っていない上美生地区から、月に1度、みずから車を運転して通院していますが、いつまで自宅から通院し続けられるのか、不安がつきまといます。男性の周囲でも、車が運転できなくなった高齢者は上美生を離れ、病院や介護施設に通いやすい町の中心部に移り住んでいった人が多いと話します。この日は、画面を通して病院の総合診療科の医師に日ごろの不安を相談しました。

男性
「自分では気づかないうちに認知症になっていたりとか。自分では前兆に気づかないまま脳卒中や心筋梗塞になったりとか。そういうことが不安です」

医師
「最近何か変だよって指摘されたことはありませんか?脳卒中や心筋梗塞はなかなか気づくのが難しい病気です。基本的な生活習慣に気をつかって予防することがいちばん大切ですよ」


“地域医療を守る砦”になるために

相談会のあと、病院の看護師や職員が同席する中、参加した住民から率直な感想が交わされました。

70代男性
「カメラに対して話すのは初めてで慣れてないから。何回かやれば私たちも慣れるし、病院の先生たちも慣れると思う」

70代女性
「車の運転もできなくなって、こういうのもあってもいいなと思った。画面越しで会話するだけでも勇気づけられるんじゃないかな」

そして、何よりも大切なのは、病院が今後も地域に寄り添った医療を続けていくことだと訴えました。

70代男性
「芽室町民が安心して診てもらえる病院であれば、みんなあちこち行かないで公立芽室病院に行こうと思う。地域に入り込んで医療を届けてほしい」

今回の相談会で手ごたえを感じた病院側。ことし3月にも試験的なオンライン診療を実施する予定で、看護師の立ち合いのもとで訪問看護の利用者の再診に活用するなど、段階的に導入を進めていきたいとしています。

公立芽室病院 研谷智院長
「将来的にはかならず、オンラインを使った移動しなくても対応できる診療というのが必要になってくると思っています。必要としてても行けないんだっていう手の届かない医療ではなくて、こちらから手を差し伸べて、足を向けてでもオンラインを使ってでも、医療を提供していく必要性はすごく感じています。地域医療を守る砦として、最後の後ろ盾になっていきたいなと思います」

人口減少などで縮小していく社会の中で、地域の病院が生き残っていく有効なすべは何か。病院の模索は続きます。

【取材後記】
取材を通して出会った病院の医師や看護師、事務職員たちから共通して感じたのは、地域への熱い思いでした。厳しい局面に立たされようと、地域に医療を求める人がいる限り、病院としてのサービスを“届けきる”という強い覚悟がにじんでいました。この病院は、医師の増員や在宅医療の充実などによって黒字化に成功しましたが、道内には現在も厳しい経営を強いられている病院が数多くあります。受けられる医療サービスの差によって、住み慣れた地域を追われるようなことがあってはならない。どこに住んでいても、充実した医療を受けられるようにするために、安易な病院の整理統合よりも、それぞれの病院がどうしたら地域で役割を発揮できるのかを、あらためて考えるべきなのではないかと思いました。

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