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スタッドレスタイヤの「履きつぶし」に注意!

  • 2023年8月24日

十勝の大樹町で車どうしが衝突し、4人もの命が失われた事故から1か月が経ちました。この事故では、一方の車がスタッドレスタイヤを使用して走行していたことが、警察の調べで分かりました。北海道ではよく聞く、夏場のスタッドレスタイヤの「履きつぶし」。その現状と危険性を取材しました。(帯広放送局記者 堀内優希)。

事故で分かった事実

先月23日、大樹町の道道で、軽乗用車と乗用車が衝突し、軽乗用車に乗っていたいずれも19歳の男性3人と、乗用車に乗っていた90代女性、計4人が亡くなりました。大樹町によると、町内での死亡事故は6年前に1人が亡くなった事故以来でした。
軽乗用車が対向車線にはみ出して衝突したとみられるこの事故。その後の捜査で、軽乗用車がスタッドレスタイヤで走行していたことがわかりました。事故との関連についてはわかっておらず、警察は慎重に捜査を進めています。
ただ、夏場のスタッドレスタイヤによる走行は、かねてから危険性が指摘されていました。

“履きつぶし”「やった」

スタッドレスタイヤを交換せずに夏場も走行することは、北海道では「履きつぶし」と呼ばれます。私は北海道に住んでまだ2年目。自身も車を運転して道内をドライブすることもありますが、このことばは初めて聞きました。そこで、現状を知ろうと、街の人に聞いてみました。

「履きつぶし」を経験した人、意外と少なくないと思ったのが取材実感です。
北海道での運転には、夏タイヤとスタッドレスタイヤ、2種類のタイヤが必要になるため、雪の降らない地域と比べると費用面での負担もあり、履きつぶす人も少なくないといいます。

データを見てみると…

しかし、履きつぶしには注意が必要だと言います。
JAF=日本自動車連盟が行った実験に興味深いデータがあります。
(出典:JAFユーザーテスト「雨天時にはじめてわかる摩耗タイヤの危険性)

乾燥した夏場の路面を時速100キロで走行し、決められた場所でブレーキを踏んだ際、車が完全に止まるまでにかかる距離(制動距離)をそれぞれ50%摩耗した夏タイヤとスタッドレスタイヤタイヤで比較しました。
50%摩耗したスタッドレスタイヤは、同じく50%摩耗した夏タイヤに比べて制動距離が7メートル長くなり、ブレーキが利きにくいことがわかります。

これは、時速60キロでカーブに進入してブレーキをかけた際の制動距離を比較した実験です。
スタッドレスタイヤは制動距離が長くなるほか、横に滑っていることがわかります。カーブの形状や速度によっては、曲がりきれずに対向車線にはみ出してしまう恐れがあります。今回大樹町で起きた衝突事故の現場も、ゆるやかなカーブがある道路でした。

濡れた路面では、より顕著な違いが見られました。50%摩耗したスタッドレスタイヤは、同じ条件の夏タイヤより、20メートル以上も制動距離が長くなっています。

実はこんなに違う

一見よく似た夏タイヤとスタッドレスタイヤ。なぜそのように違いが出るのか。
私が向かったのは、帯広市内の自動車用品店です。対応してくれたのは、タイヤ用品担当のベテラン、田中英樹さんです。

田中さんによると、もっとも大きな違いはタイヤの材質だといいます。
スタッドレスタイヤは、接地面を大きくして氷や雪にしっかり密着する必要があるため、夏タイヤよりもやわらかいゴムでできています。そのため、高温になる夏の路面では、タイヤ全体が熱でゆがみ、ブレーキやハンドルのコントロールが効きにくくなるうえに、最悪の場合は破損するおそれもあるといいます。

タイヤの構造にも、大きな違いがあります。
夏タイヤは縦に大きな溝が入っている一方、スタッドレスタイヤには、おおむね格子状に溝が入っていて、雪や氷の路面をしっかりとらえるのに優れています。一方で、雨などで濡れた路面における排水性は悪く、タイヤと路面の間に水が入り込んでハンドルやブレーキが利かなくなることがあります。

自動車用品販売店 タイヤ担当 田中英樹さん
スタッドレスタイヤは雪、氷の上で履くことに特化したタイヤ。ぜひ安全のためにも、しっかり夏は夏タイヤ、冬は冬タイヤに替えていただきたい。そして、わからなければ専門店に聞いて、タイヤが使える状態なのか点検してほしい。

スタッドレスタイヤの特性を知って!

夏場のスタッドレスタイヤ走行は、経済面でも影響があります。
路面との摩擦が大きいこともあり、燃費が悪くなっていくのです。原油価格の高騰で、タイヤの値段も上がり続ける中、季節に合ったタイヤを使うことは、節約にもつながるかもしれません。

夏場にスタッドレスタイヤで走行すること自体は交通違反にはあたりませんが、走るに当たっては、一定の知識を身につけておくことが必要です。

JAF帯広支部推進課 熊坂利治推進係長
履きつぶし自体が違反というわけではないんです。
冬期間使用後に夏の乾燥シーズンもそのまま使いたいということで履く際は、スタッドレスタイヤは、どの路面状況においても止まりにくいタイヤだというのを肝に銘じて使用していただければと思います。

注目すべきはここ!

特に大切なのが、タイヤの特徴や状態をしっかりと把握して運転すること。
自動車用品店の田中さんによると、スタッドレスタイヤには、溝の間に「プラットホーム」と呼ばれる小さな山があり、これが露出してきたら、スタッドレスタイヤとしては使えないというサインで、交換が必要だということです。

また、もうひとつ重要なチェックポイントが「スリップサイン」です。
スタッドレスタイヤと夏タイヤ、どちらにもあるもので、「プラットホーム」よりも低い山になっています。この「スリップサイン」が露出してきたら、タイヤとしての使用期限のサインで、車検にも通らないということです。

取材後記

スタッドレスタイヤについて、初めて知ることばかりの取材でした。氷や雪の上で止まれるタイヤが、夏場の路面では止まりにくい。道外出身で雪になじみがなかった私にとっては興味深い事実でしたが、タイヤの構造や素材、正しい用途を理解すれば納得がいきました。悲惨な事故を防ぎ命を守るため、少し手間に感じても、今一度、皆さんの車のタイヤを確認してほしいと思います。

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