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父譲りの“回転投法” 厚真町の砲丸投げ日本一の中学生

  • 2023年12月5日

愛媛県で今年(2023年)行われた中学生の陸上の全国大会で、胆振の厚真町に住む中学3年生、大垣尊良(おおがき・たから)さんが砲丸投げで優勝を飾りました。強さの秘密は、日本ではまだ主流ではありませんが、父から教わった「回転投法」という投げ方です。父と共に高みを目指す中学生を取材しました。(室蘭放送局  小林研太)

厚真町の日本一の中学生

農業が盛んな人口およそ4300の町、胆振の厚真町。
ここに、日本一の砲丸投げの中学生がいると知り、取材を始めました。
その中学生の名は大垣尊良さん。地元の厚真中学校に通う3年生です。
町が毎月発行している広報紙で地域の輝く人を紹介するコラムにも取り上げられるなど、地元や競技関係者から大きな期待を集める存在です。

「広報あつま」2023年10月号の裏表紙

厚真町からどのようにして日本一の選手が生まれたのか。
その秘密を知りたいと、まずは大垣さんの父親・崇さんに面会して取材の相談をすることにしました。実は崇さん自身が、大垣さんの強さを語る上で欠かせないキーマンでした。

厚真町では砲丸投げが盛んだった!

面会に先だって厚真町で行われている砲丸投げの活動について調べていると、目に留まったのが「厚真スローイングチーム」という陸上競技のクラブチームでした。そのサイトには「投げるのを楽しく、走るのをもっと」とあり、楽しそうに競技に打ち込む子どもたちの姿や活動記録が紹介されていました。
厚真町がこれほどまでに砲丸投げが盛んな町とは知らなかった私は、興味深くそのサイトを読み込んでいきました。

「厚真スローイングチーム」のサイト

そして、その下のバナーにあったのは「砲丸投 回転投法の部屋」。そこでは複数の投げ方が紹介されていて、中でも細かく記されていたのが「回転投法」です。
「回転投法」は世界の多くのトップ選手が使っている投げ方ですが、日本ではまだ浸透していないということで、習得のための手引きまでありました。
この専門性の高いサイトを制作していたのが、ほかならぬ崇さんだったのです。

崇さんに会って、息子の尊良さんのことだけでなく、崇さん自身のことも詳しく話を聞きました。厚真町で1983年に生まれた崇さんが砲丸投げを始めたのは中学1年生の時でした。当初は、国内で一般的なステップして投げる「グライド投法」でしたが、軸足となる右足をけがしたことをきっかけに「回転投法」に取り組むようになったということです。

その後、次々と記録を更新し、恵庭南高校在籍時に全国高校総体・インターハイで準優勝、続いて進学した日本大学でも関東インカレ優勝、全日本インカレも準優勝するなど、国内トップの選手となり、いつしか『回転投法のパイオニア』と呼ばれるようになりました。

2001年インターハイ

大垣崇さん
「けがをした時に回転投法という投げ方があることを雑誌か本で知り、見よう見まねで始めてみたら、いきなり記録が出たんです。僕が中学生のころは日本に回転投法の選手はほとんどいなくて、もちろん指導者もいません。ですから自分でビデオ録画してフォームを確認して、雑誌にある写真とすり合わせたりして自分で技術を身につけていきました。大会に出ると回転投法の選手は僕だけしかいませんでした」

現役を引退後は高校教師をしながら指導者となり、地元で「厚真スローイングチーム」を立ち上げてコーチを務めています。

幼少時代から回転投法に取り組んだ尊良さん

崇さんを取材したあと、私は「厚真スローイングチーム」の練習場を訪れ、そこで初めて尊良さんに会いました。体を大きくするために食事も意識しているということで、中学3年生で身長は1メートル77センチ、体重はなんと120キロ。周囲の仲間と比べても圧倒的な大きさでした。

話しかけてみると、中学生らしいあどけない笑顔を見せてくれた尊良さん。国内第一人者である父の存在があり、ごく自然な流れで「回転投法」に取り組むようになったといいます。
本格的な練習は小学5年生で開始。まだ国内で普及していない投げ方であることから、小学生で始めるのは例を見ないということです。

小学5年生の時の尊良さん

崇さんやほかのコーチからの指導を受け、体も大きくなる中で、飛距離はどんどん伸びていきました。そして、ことし8月の「全日本中学校陸上競技選手権大会」では16メートル53センチという記録で優勝、日本一に輝きました。

全中優勝を家族やコーチが祝福

大垣尊良さん
「砲丸投げを始めた最初のころはちょっと練習がキツくて、たまに『イヤだな…』と思うこともあったんですけど、今は記録が出るようになったこともあって好きになりましたね。中学生のチャンピオンになったという実感はそんなにないですが、これからもっと上を目指して頑張りたいですね」

父親を超え、さらなる高みへ

いざ練習が始まると、中学生日本一のパフォーマンスに圧倒されました。一方で、この日は、あえてふだんよりも軽い砲丸を使ってフォームの微調整を行うなど、きめ細かい練習内容も印象に残りました。

全国を制したあと、10月に行われた大会では16メートル93センチを投げ、中学生では過去に2人しか達成していない17メートル超えに迫りました。

目指しているのは、17メートル85センチという中学生の日本記録の更新です。
そのチャンスが訪れたのが11月4日。故郷の厚真町で今年最後の公式戦「厚真フィールドチャレンジ」が開かれました。「シーズンが終わる区切りの大会なので、しっかり最後まで投げ切ろう」という思いで臨みました。しかし、記録は15メートル47センチと自己ベストには遠く及びませんでした。実は、大会直前に手の甲を痛めていたのです。

悔しい結果となりましたが、尊良さんの挑戦は今後も続きます。町外の有力校に行くこともできましたが、来年(2024年)春からは地元の厚真高校に進学することを決めました。やはり、父の崇さんのそばで競技を続けることが一番だと考えたからです。新たなステージで、さらなる高みを目指すと意気込んでいます。

大垣尊良さん
「これからはスピード、瞬発力、それに筋力も必要だと思います。4月には高校に進学し、父親がかつてインターハイで2位だったこともあるので、2年生や3年生のライバルを倒して優勝して、父親を超えたいと思っています。まずはインターハイで優勝することが1つ恩返しだと思います」

2023年12月5日

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