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【精神医療は今】宇田川健さん「リカバリーには希望が必要」

2017年04月03日(月)

ハートネットTVロゴ 相模原事件を受けて 精神医療は今

(1)「措置入院」退院後の支援(2017年4月4日放送)
(2)海外の事例「オープンダイアローグ」(2017年4月5日放送)


ご出演いただいた宇田川健さんに、番組収録後、お話をうかがいました。

写真・スタジオの宇田川健さん【宇田川健/認定NPO法人COMHBO共同代表】精神障害のある人への情報提供などを行う。自身も統合失調感情障害で入院経験がある。


――今回の《相模原事件を受けて 精神医療は今にご出演されて、どのようなことを感じましたか?

退院後の支援計画について


兵庫の例としてもでていましたが、精神科医療ではどうしても力関係の中で、医師の力が大きいのです。これからは、普段の地域で暮らしている本来の自分のことを全く知らない人たちが、この人をどうしようかと、本人不在のまま入院中に計画が立てられ、それがずるずると地域の中でも継続されていくのは、とても恐ろしいと思っています。支援計画という名の地域での縛りを守ると同意しなければ、退院させないなどという事態が起きるのではないかと危惧しています。これは病院から地域へという流れを逆行させるものですし、そもそも地域という言動と行動の自由、こころの自由な場所が、もう地域ではなくなってしまい、地域が支援計画という名のついた縛りのある場所になってしまうのではないかと、不安に思います。そのときには、地域はもう本来の意味の地域ではなくなってしまうのではないでしょうか。今回の精神保健福祉法の改定案に出されている病院から地域へという流れは止めないという文章は二重の意味で空文化されていると思います。


措置入院について


Aさんの例にもでていましたが、措置入院などの強制入院では短い面接の時間で、入院が決まってしまい、本人の意思が入院中の待遇に反映されないことが多いです。理解しえないような大きな事件が起きるとそれが一般の精神障害者のせいにされてしまうことは、たびたび行われてきました。今回もそれが行われてしまいました。精神科病院への強制入院というものは短い面接で決められてしまうことです。強制入院というものは、精神障害者当事者という社会の中での一部の人の困りごとではなく、社会に生きる一般の誰にでも、いつどんな風に精神科に強制入院させられても不思議ではないという可能性があるのです。これは措置入院をした精神障害者という一部の人の問題ではなく、ひとりひとりが自分の問題として社会全体で考えるべき問題だと思います。

そのとき本人が興奮していようがいまいが、「今あなたは興奮しているようですので注射を打ちます。」と言えば同意なしに眠る注射を打たれてしまい、ベッドに縛り付けられてしまうのが精神科病院なのです。
精神科医療は本来犯罪の予防に使ってはいけないものだと思います。しかし精神科医療にはそれができてしまうのです。これまで、精神科の医師たちは、それだけはしないようにとずっと努力を重ねてきたと思います。しかし今回の精神保健福祉法の改定でそれにGOがかかってしまうのではないかと危惧しています。

 

オープンダイアローグについて


日本では精神科医療そのものにマンパワーがありません。また地域福祉の社会資源の量や質が地方ごとの偏りがあり、社会資源のマンパワーも不足しています。今回地域のチーム医療として、フィンランドのオープンダイアローグが取り上げられました。日本でもし、マンパワーがあったとしても、関わる全ての人の関係性のフラットさは日本では実現できないと思います。医師ばかりが指示を出し、地域で働く人たちは、それに従うという関係性の中では、そもそもの地域でのチーム医療がきちんとなされるとは思えません。

オープンダイアローグの例をみて、診察の場で、誰も患者役割、臨床心理士の役割、精神科医師の役割をしていないと感じました。そのフラットさと濃密なコミュニケーションがお互いの信頼関係に結びつき、初めてきちんとした地域でのチーム医療がなされ、当事者は安心して精神科医療にかかることができるのだと思います。当事者本人もそれに関わる人の数が多い分だけ地域で安心して暮らせるのだと思います。オープンダイアローグでは、さまざまな地域に住む人の多くが治療チームに関わったことがあるとありました。日本では、医療福祉の関係者ばかりが医師を頂点とする多職種チーム医療をすると言っても、私たち当事者は安心して地域で暮らすことが難しいのではないかと思います。

 

その他言い切れなかったことについて


番組で言い切れなかったことが、たくさんあったなあと思います。それは、コンボのホームページにも以前に書いたのですが、今回の事件は問題点の切り口がとても多く、この番組では精神科医療が変わることに着目されていました。本来、重度の障害をお持ちの方でも、地域で暮らしている人もいれば、施設の中で暮らす人もいます。

今回の議論の中では話に出なかったのですが、精神科では病院から地域へという流れは変えないようにすると、精神保健福祉法の改定案にも書かれているようです。では重度の障害を持った方には、その流れはあてはまらないのでしょうか。今回の厚生労働省の報告書においても法改定案においても、重度の障害を持った方の施設から地域へという議論が抜け落ちたまま、精神科の措置入院に関する議論ばかりが先行しました。大きな事件が起こりましたので、何かアクションを起こしましたという、言い訳のように、精神障害を持つ当事者が生贄のようになったと思います。

このままでは待っているのは精神障害者の社会的な死(social death)であり、2020年に向けて共生社会などと謳われてはいますが、それに逆行する流れです。コンボのホームページにも書いたのですが、今回の事件は巨大な重度障害者の入居施設でなければ、起きなかったのではないでしょうか。重度の障害を持った方達の施設から地域での生活へという議論が抜け落ちていると思います。また介護に関わる職員の方々の研修や待遇面での改善なども見逃されたと思います。これについては、認定NPO法人COMHBOのホームページをご参照ください。



――今回の番組をとおして、伝えたかったことはどのようなことですか?

実は今回番組出演にあたり、普段は使っている、リカバリーという言葉を使わないように気をつけました。司会者の方に「そのリカバリーという言葉を一言で説明すると?」などと質問されると、長く話さなければいけないと思い、番組作りに関わるみなさんが困ると思ったからです。もしリカバリーについてきちんと知りたければ、コンボが賛助会員のみなさんに送っている「こころの元気+」を読んでいただければと思います。今回の措置入院中の支援計画の策定は本人不在なので、本来その人が持っていた力を見落としてしまう結果になると思います。つまりストレングスモデルから外れているのです。それは、本人のリカバリーを阻害する結果になります。 

リカバリーを阻害する退院後の支援計画ならば、私たち当事者にとって迷惑なものです。自分で選択し、自分で責任を取ることはリカバリーの要素の中の一つです。それも阻害してしまう支援計画という名の地域での縛りは無くすべきだと思います。障害者運動では「Nothing takes places about us without us.」という言葉があります。これは自分たちなしで、自分たちのことは決めないでほしいという意味と、自分たちのいないところでは自分たちのことについて、何事も起こさないでほしいという意味があります。これは障害者運動の中で使われてきた言葉ですが、本来、一般の誰にでも当てはまることだと思います。そして、リカバリーには希望が必要です。その希望の鍵になるのが本来の意味の地域であり、ピアサポートなのです。


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 4月4日(火)放送 ①「措置入院」退院後の支援
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コメント

私は当事者です
当事者が入院する立場にある時に、医療機関の当事者に対する接し方、入院してからの、長い時間を過ごす当事者に対しての丁寧な対応は、絶対に必要だと思うのです
不安や、苦しみを抱えて、最後に医療機関に行き着いてしまったら、もう、自分の手ではどうにもできないくらいに、なっていると思うので、頼るべきは、医療機関しかありません
最後なんです それなのに、予期しなかった扱いを受けたり、恐怖を感じる事があると、もう、何も、信じられなくなります 症状がよけいに、ひどくなってしまいます
対話です 一緒に、いつでも、話せる時間を持って欲しいと願います
そして、常に、前に向かって、考え続けていく事、夢と希望を無くさせてはいけないと、思うのです

投稿:ひらめ 2017年04月05日(水曜日) 04時45分