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【対談 2016】ディジュリドゥ奏者・GOMA(高次脳機能障害)×脳科学者・茂木健一郎(後編)

2016年09月28日(水)


 『ハートネットTV』(2016年9月29日放送)
 傷ついた“脳” 見つけた“力”ディジュリドゥ奏者・画家 GOMA×脳科学者 茂木健一郎

番組で対談したディジュリドゥ奏者で高次脳機能障害のGOMAさんと脳科学者の茂木健一郎さん。こちらのブログでは2回に渡って、番組で紹介しきれなかった対談内容の一部を紹介します。

前編はこちら


 繰り返しのパターンは脳内部の世界の現れ?

 

20160928_2_001.jpg   茂木    それと、この繰り返しのパターンですよね。最近、人工知能の研究で、視覚の認識をさせるようにトレーニングした回路に夢を見させるとかいうのがあるんですけど、ちょっと(GOMAさんの絵に)似てるんですよ。

 GOMA  おっ、マジですか。

   茂木    うん。というのは、つまり、脳の視覚認識パターンの回路って、比較的繰り返しが多いんです。後頭部の“第一次視覚野”といって、見ることの中心なんですけど、この辺りには同じような働きをする細胞が、繰り返し、繰り返し表われるんですね。そのことによって視野全体をカバーしているんですけど。

だから、人工知能にものを見るトレーニングして、その働きをある方法で可視化すると、ある働きを持ったネットワークができてきて、現実ではないんだけど、似たようなパターンが繰り返し、繰り返し表われるんですね、画面上に。

 GOMA  ふーん。

   茂木    ちょっと、そういうことを思い起こさせるというか。視角野の細胞の性質をすごく反映した絵だなって。GOMAさんの場合は、外から何か見てそれを描くんじゃなくて、自分の心に浮かんだものを描かれてるわけでしょ。

 GOMA  うんうん。

   茂木    普通は隠れていて見えない脳の内部のそういう隠れたパターンが見えてきているのかもしれない。そう見ると非常に独創的であると同時に、脳の本当のあり方に近い絵だと。そういう意味においても非常に興味深いんですよ、実は。

 GOMA  うれしいですね。そういう繰り返しのパターンを入れるっていうのは、そこを認識しやすいからですか?

   茂木    そうですね。繰り返しのパターンで表われているものが、大事な働きをしてるってことです。ですから、ここに描かれているパターン1つ1つが、われわれが世界を見る時にすごく重要なひな型というか。そういうものに当てはめることでわれわれは世界を見てるんで。そこのところに何らかの方法でアクセスしてるのかもしれないですよね。

 GOMA  なるほど。

 


 表現することで脳が覚醒する


   茂木   
 あとやっぱりすごく大事なことだと思うのは、GOMAさんの絵がこれから、事故で障害を負った方が絵を描いているということを超えていろんな形で評価されて、アートとしていろんな人が好きになっていくってこともあると思うんですけど。でも、絵を描くこと自体がいいことなんだと思うんですよ。評価と別に。絵じゃなくてもいいんですけど。文章を書くでも。踊りでもいいですし。

20160928_2_002.jpg GOMA  うんうんうん。表現すること。脳を活性化するためのエネルギーみたいなのは絶対に一緒だと思うから。何かしらやるにこしたことはないなと、すごい思う。

音楽に関しても、なんか、吹いてる時にだけしか出てこない感覚みたいなのがあって。ライブ、みんなで音楽の演奏してる時にしか動かない脳の部位みたいなのがあって。吹いてる時の自分って、なんかちょっと不思議な感覚になってるんです。

   茂木    どういう感覚ですか。

 GOMA  なんかもう、ちょっと覚醒されてるっていうか。

   茂木    覚醒されてる。

 GOMA  音の洪水の中に乗ってるっていうか、飲まれてるっていうか。やってる時と、終わってしばらくの間でしか動かない脳のところがあって、ライブのあとってなんか知らないけど、全然眠たくならないんです。全然寝なくても平気な感じの脳になってて。

   茂木    そうですか。いいですね。例えば、囲碁とか将棋の棋士の方も、タイトル戦とかで指したあと、打ったあとは、本当に眠れなくなるんだそうですよ。それって脳がそれだけ活動が高まってるわけで。基本的に脳の活動が高まるってことは、イメージで言うと、脳のいろんな部位の中でオンになっているところが、ふだんに比べていっぱいできる。

 GOMA  はいはいはい。

   茂木    そうすると、そこの間の結びつきのネットワークも密になりますよね。なので、脳全体が活性化して覚醒すると、その分、ネットワークがつながる機会も増えていくので、ある程度負荷の高い脳の活動をすると、いいということが知られてるんですね。例えば認知症の予防なんかにも有意に効果があるってことがデータで分かってるんで。

GOMAさんの場合には絵を描くってことがそれだったけど、ほかの人は全然違うことかもしれない。そのやり方は、100人いたら100人違うと思うんですよ。自分のやり方を見つけることが大事なんだと思うんですよね。

 GOMA  うんうん。



 

 脳にはマイナスをプラスに変えうる力がある

 
20160928_2_003-1.png

   茂木    別にうまくなくてもいいと思うんですよ。GOMAさんはたまたま、ディジュリドゥの音楽もすばらしい腕前だし、絵もみんなが感心するようなすばらしい出来栄えだから、うまいってことにポイントがあるって思っちゃう人もいるかもしれないじゃないですか。「GOMAさんが特別な人だから、事故に遭ってもここまで来れたんだ」って思ってほしくないなっていうか。

 GOMA  うん。本当にそう思ってほしくない。やっぱり、人それぞれの人生の中でアクシデントっていうのは絶対にあると思うし。みんな1人1人、なんかいろいろ抱えて生きてると思うんで。そこに大小とかじゃなくて、僕の人生の中の事故があって、そこを境に、僕は1回目の人生、2回目の人生って呼んでいるんですけど。そこでこういう産物がただ単に出てきた。

   茂木    本当だよね。GOMAさんの場合、不幸にして事故っていうね。事故はないほうがいいに決まってるじゃないですか。

 GOMA  うん。やっぱりね、遭いたくはなかったですよね。

   茂木    でも、例えば認知症なんかも、ある意味では脳の加齢に伴う障害と言えるわけで、そこまで含めちゃうと、僕も含めて、本当にわれわれ誰でも、GOMAさんが経験されたような難しさに直面する可能性あると思います。

だけど、そういうことがあったとしても、そのマイナスを補おうと思ってプラスがすごいユニークな形で出てくるっていうのが、人間の脳のすばらしいこと。

 GOMA  うん。確かに。結局、誰にいつ何が起こるかなんて、本当に誰にも分からないですし、1つの事柄をどう捉えるかですよね。その捉え方次第で、プラスにもなるしマイナスにもなるし。


 

 「いま、できること」からはじめる

 

20160928_2_004-1.png   茂木    自分の置かれた状況を受け入れるっていうところから、脳は出発するしかないと思うんですよ。世間はなんか、正解があって、その正解に対して何点満点でどれぐらいっていうふうに脳を捉えちゃうと、私の脳って30点しかないんだと思っていやになっちゃうじゃないですか。

 GOMA  本当、日々葛藤の連続ですけどね、まだまだ。でも、やっぱり、いま思うとね、事故に遭ったから、こうして絵を描き出して、できた作品、できた出会い、茂木さんともそうだし。「事故の前、俺全然描いてなかったのに何でこんなことになってんだろうな」とかって思ってたころに、茂木さんと去年番組で初めてお会いさせてもらって、話聞けて、やっぱりすごい安心した自分もいたし。そこでまた、「俺、これでいいんかもしれへんな」って自分で腑に落ちたところもありましたし。より、絵だったり、芸術とかが持っているエネルギーを信じるようになりました。

   茂木    僕もすごいうれしかったです。脳科学やってて、「脳っていうのはこういう力があるんだ」とか、「こういう可能性があるんだ」ってことはずっと研究してきたんだけど。GOMAさんが、自分でその答えにたどりついて、それを本当にやってるっていうのがすごいなと思って。

 GOMA  うれしいです。実際こうやって生きられて、リハビリ効果も出て、いろいろ補助機能を使えば1人でも出ていけるようになって、ごはんも食べれて、おいしいと思えるし、楽しいと思えるしっていう感情があることに気がついた時に、「まだ自分にもできることあるやん」ってすごい思ったんですよ。

   茂木    いまの、できることに注意を向けるってすばらしいですね。いくら自分でいろいろくよくよ考えててもやっぱりだめで、GOMAさんの場合でいうと絵を描くとか、そういうできることをやることで、脳っていくらでも成長できると思うんですよね。できないことに注意を向けるんじゃなくて、できることに注意を向けるっていう。それもご自身で見つけられた答えなんでしょうけど、とてもとても脳科学の知見に合ってるなっていう。すばらしい(拍手)。

 GOMA  まぁね、そうしないと生きれないですもん。発想の転換1つで、同じもの見てるのに違うものに見えてくる。そうやって思わせてくれたのは、1人1人の最近つながった出会いだったりとか、そういう人たちの一言一言にすごい救われてるし。やっぱり、人を救えるのは人でしかないんだなってすごい思いますね。



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