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【対談】ディジュリドゥ奏者・GOMAさん(高次脳機能障害)×脳科学者・茂木健一郎さん(前編)

2015年05月18日(月)

2015/5/18(月)(再放送2015/5/25(月))に放送される「あなたの記憶に生きたい ―ディジュリドゥ奏者・GOMA―」。番組では、ディジュリドゥ奏者で高次脳機能障害のGOMAさんと脳科学者の茂木健一郎さんが対談をされました。
こちらのブログでは2回に渡って対談の内容を紹介させていただきます。


茂木   こんにちは。
GOMA  こんにちは。
茂木   きょうはお目にかかれてうれしいです。
GOMA  ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします。
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絵を描くということを通して、自分の脳と対話する。
茂木  (絵を見ながら)これ、何日ぐらいで描いてます?
GOMA   たぶん2、3週間ぐらい。
茂木   円の大きさが微妙に違っているじゃないですか。あと、色使いも微妙に変えている。その表現の繊細さ、本当に絶妙な変化っていうのがすごいなと思うんですけど。これ、下書き、してないんじゃないですか。
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GOMA   そうなんです。してないんです。
茂木   頭の中にイメージがあるんですか。
GOMA   そうなんですよ。まだちょっと、後遺症で記憶がうまいこと蓄積できなくて、 でも、フラッシュバックみたいなのが結構起こるようになって。
何がきっかけか、自分でもよく分からないんですけど、画像が出てくるんです。その画像を追いかけて描くようになったんですけど。画像が見えているときじゃないと描けないんです。ふだん、何か絵を描いてくれって言われて描くと、ものすごくいびつというか、めっちゃ下手くそで、うまいこと描けないんです。
茂木  ご本人が意識しない中で、そういうものが出てきているんでしょうね、無意識の中からね。


GOMA  僕、事故の後、味覚とか臭覚とかも1回麻痺していて。そこが戻ってくるにつれて、「この味知ってる」とか、「このにおい知ってる」みたいな、そういう感覚と併発して、画像みたいなのもどんどん出てくるようになったんですよね。なんかそういうのって、記憶の部分とかとつながったりしているのかなと思って。

茂木  特に味とかにおいっていうのは記憶との結びつきが強くて、脳のにおいの回路って、記憶の回路に非常に近いところにあるので、関係していると思いますね。
GOMA  いまだに絵に関しては、なんで描き始めたのかが自分でもよく分からないんですけど、描かないとすごい気持ち悪くなってくるんです。いろんな記憶が混線してきて、記憶とかの整理も全然できなくなってくるし。なんか、生活が成り立たないんですよね。
でも、絵を描いていると、すごく頭がシンプルになるというか、脳がざわざわするのが落ち着いてくるんですよ。
茂木  脳は表現することで情報を出して、それをまた取り入れることで自分と対話できる。特に絵っていうのは、長い間ずっと向き合っていますから。絵を描くということを通して、自分の脳と対話する。対話する中で、記憶だとか、感情とか、いろんなものが整理されていくってことがあると思うので。絵を描く人っていうのは、皆さんそういう側面があるようなんですけど、GOMA さんの場合、特にそれが強いように感じますね。
ですから、GOMAさんにとっては、絵を描くということが、自分の脳との対話になっているということなのかと思います。



脳の“潜在能力”
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茂木   絵を描いているときって、時間をたつのを忘れたりしません?
GOMA  します。あっという間に時間が流れて。
茂木  (ミハイ・)チクセントミハイっていうアメリカの研究者がいるんです。彼は“フロー”っていう理論を作っていて。いちばん脳が集中しているときっていうのは、時間の経過を忘れてしまって、やっていること自体が喜びで、自分の存在も忘れてしまうっていう。
チクセントミハイは、友人の画家が、時間の経過を忘れて、何日もずっと絵を描いていても楽しい、というのを見ていて、フローを思いついたそうなんです。ですからGOMAさん、それはチクセントミハイのいう、フローの状態ですね。時間の経過を忘れるっていうのは、1つのあれだし、あと、絵を描いて、誰かに褒めてもらおうとか、展覧会をやろうとか、そういうのではなく、絵を描くこと自体が喜びになっている。
GOMA  そうなんですよ。
茂木   ですよね。あと、自分の存在を忘れてる。
GOMA  そう。時間の感覚が、いまだによく分からないというか。
茂木   大丈夫ですか。ごはん食べるのを忘れたりとか。
GOMA  あー、あります。そんなのしょっちゅうです。
茂木   周りは心配するでしょうね。
GOMA  そうなんですよ。没頭しすぎて、先に体が悲鳴を上げることとかがあるんです。
茂木   描きすぎて、疲れちゃって。
GOMA  そう。で、すごい筋肉痛になっていたりとか。
茂木   それはフロー状態ですね。それに入れるっていうのは幸せなことなんですけどね。脳の潜在能力が最大限に活用されているのがフロー状態なんで。それ以上の状態はないんですよ。アスリートが世界新記録を出すときの状態も、フロー状態だと言われているんですね。人間の能力がマックス出る。そういうことをされているということ。


脳の“生命力”
茂木   事故に遭う前はどうだったんですか。絵に関しては。
GOMA  いや、もう全く。本当謎なんですよね。なんで描き出したのかが。前もやっていたなら、自分でも納得いくんですけど。
茂木   不思議な話ですね。
GOMA  (事故の後)家に帰って、家にあった娘の絵の具を見て、それを自分のものと思って、最初、描き出したらしいんです。事故のちょうど意識がなかった時に、意識戻ってその時に見てたっていうか、脳に残ってる影像を描いたみたいです。どうやって描いたかとか全然、初期のやつは覚えてないんですけど。

茂木   実はですね。事故や病気をきっかけに、絵の才能が目覚めるっていうケースは知られているんです。
それはどういうふうに考えられているかっていうと、もともとGOMAさんの脳の中に、こういう色とかかたちとか、光に対して感じる回路があったんですね。でも、脳がそれを抑えていたと考えられているんです。事故をきっかけに、脳の回路のバランスが変わりますよね。今まで抑えられていたものが目覚めてくる。その過程で、今おっしゃったようないろんなものが、光とか色が今までより強く感じられるということが出てくると考えられているんです。
ですから、事故とか病気になることは不幸なことなんですけど、大変なことなんですけど、でも、それをきっかけに、脳っていうのはすごい生命力があって、かえって、ある才能が遠慮なく出てくるってことがあるんですね。逆に言うと、普通の人の脳は、ものすごく遠慮しているっていうか、抑えているんですよ、いろんなことを。我々が生きている中で。だから、GOMAさんの脳の中にずっとあったものです。事故の前から。

GOMA  色もちょっと最近気になっていて。僕が描いている色って全部見えている色なんですよね。光の見え方も発光度合いが変わってきているっていうか、光の感じがどんどん強くなってきているんです。人とか、ものとかも、ちょっと光って見えるような感覚になってきてるんですよ。
事故の前の自分が、どういうふうにこの世界を見ていたのかとかもよく分からないから、これを人に話しても、あんまり通じ合わないし。変に神秘的な人みたいになるんちゃうかと思って、あんまり言ってないんですけど(笑)。
茂木  そういうのを脱抑制、ディスインヒビションっていうんですけど、抑制を外して出てきたものは、もともと誰の脳の中にもあるはずだと考えられているんです。芸術家としていい仕事した人っていうのは、そういう脱抑制っていうのが非常にうまい方で。みんなそれは、抑制を外してそういう才能を開花させているんだと思うんですけど、GOMA さんは事故をきっかけに、脳にそういうことが起こったのかもしれないですね。
何より、絵がその表現になっていると思うので。だから遠慮しなくていいですよ。
GOMA よかった。なんか、茂木さんにそう言ってもらえて安心しました。

茂木   僕、美術大学で教えていたことがあるので分かるんですけど、みんな、うまく描こうとしているんですよ。脳のいろんなことが邪魔して。GOMAさんの絵って、うまく描こうとか、よく見てもらおうとか思って描いている絵じゃなくて、自分が描きたいことを描いてるでしょう。ある種、必然性があるから、見る人にも訴えるんだろうなと思いますんでね。
GOMA  本当に絵に助けられました。社会復帰のきっかけもくれたし。癒やされるんで
すよね、描くことで。そのために描いている気がします。僕は。
茂木   ピカソが、それが理想の状態だと言ってたんですよね。子どものように描くの
が理想だって。GOMAさんってまさに、どう思われるとか関係なく、自分が
描きたいもの、自分が癒やされるものを描いているわけでしょう。それができないんですよね、なかなかね。

後編に続きます

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 傷ついた“脳” 見つけた“力”
 ディジュリドゥ奏者・画家 GOMA×脳科学者 茂木健一郎
 2016年9月29日(木)放送

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 ブレイクスルーFile.31
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