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レーサーの魂はいまでも元気いっぱい

2015年09月14日(月)

WebライターのKです。

2002年のF1日本グランプリ前座レースで脊椎損傷の大事故にあった元レースドライバーの長屋宏和さん。車いすの生活となり、レーサーの頂点であるF1ドライバーになる夢は絶たれてしまいましたが、事故後もレースとの接点は失っていません。
8月30日、長屋さんが出場するレースイベント「K-TAI」が栃木県のサーキット「ツインリンクもてぎ」で開催されました。参加台数95台。カートレースのすそ野を広げるための一般参加型レースで、参加チームの複数のドライバーが次々と交代して走る7時間耐久レースです。長屋さんが所属するチーム名は「Club Racing」です。



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長屋さんがレースに参戦するのは5年ぶり3度目になります。


当日は残念ながら小雨まじりの天候で、万全のレースコンディションとは言えませんでしたが、ピットで顔を合わせた長屋さんは、以前職場でお会いしたときとは別人のように、体中に生気がみなぎっていました。中学生のときからレーサーをめざしてきたという長屋さんにとってレースは人生そのもの。自然と笑みがこぼれてきます。しかし、「雨で路面がどんな状態なのか、タイムに影響が出るのが気になります」と、すでに頭の中はレースのことで一杯の様子でした。

20150914_002.JPG長屋さんの安全を考えて、スタート直前までスタッフのマシンを見つめる目は真剣そのものです


ピットでスタートを待つ長屋さんの元に、昔からの知り合いが次々と訪れます。同じ車いすユーザーで、別チームでレースに参加する佐藤友治さんは、北海道の「新千歳モーターランド」に所属しています。

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佐藤友治さん(左)と長屋さん。

 

佐藤さんはバイク事故で車いすの生活になりましたが、モータースポーツが大好きで、カートレースに参加するようになりました。「車いすのスポーツというと、バスケットやテニスを勧められますけど、そんなふうに枠をはめないでほしい。みんな自分の好きなことをやればいいのだと思います。私はカートに乗ったら、自分が障害者だなんてまったく思っていません。長屋さんだって、障害があっても、そんじょそこらのドライバーには負けませんからね」と佐藤さん。

20150914_004_R.JPGコースは1周4.8キロメートル。長屋さんは、その距離を3分フラットのタイムで走ります。平均時速は96キロ、直線コースでは100数十キロのスピードに達します。Photo by:大島康広


長屋さんのチームは、7時間を4人で交代しながら走ります。長屋さんはスタート30分とフィニッシュ30分を担当します。長屋さんが乗るレーシングカートは、手でアクセルとブレーキを操作するための装置を装着した特別仕様のもので、長屋さんの次に乗るドライバーは、その装置を外して通常仕様に変えます。障害のある長屋さんとその他のドライバーが同じレーシングカートを使用して、レースに臨むのです。午前9時30分にスタートし、コースを9周して最初の走りを終えて、ピットに戻ってくると、長屋さんは「まだ満足できない。もっと走りたい」と余裕たっぷりの表情でした


20150914_005_R.JPG長屋さんのレーシングカートの操作機器は、国内トップクラスのレース車両のエンジニアが開発に当たり、車両の整備は本田技術研究所の若手エンジニアがボランティアで手を貸しています。


レース関係者は、みんな長屋さんの経歴や実力を知っています。障害者のレーサーとして応援するというよりも、F1レーサーをめざした長屋さんのドライビング・テクニックに触れてみたという関心があります。

 

「長屋さんの使用したタイヤはまったく毛羽立っていない。見事なものです」と語るのは、「Club Racing」のテクニカル・アドバイザーの川田恵一さんです。
マシンの操作が荒っぽいと、タイヤに無理な負担がかかって、不自然に摩耗します。そのためにタイヤが毛羽立つことになるのですが、長屋さんのタイヤにはそのような跡がまったく見られないと言います。「さすがにプロのレーサーをめざしていただけあります。マシンのコントロールに無理がないということは、マシンの力を最大限に引き出すことができるということです」と長屋さんのドライビング・テクニックを賞賛しました。

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川田恵一さん。元本田技術研究所のエンジニアです。



モータースポーツは多くの仲間がその走りを支えるチームスポーツです。過酷なレースを戦うドライバーとマシンを最善の状態にするために多くの人間が協力し合います。長屋さんの場合は、そこに障害へのサポートという要素も加わります。


しかし、「そのことで、逆にいっそうやりがいを感じた」と語るのは、「Club Racing」の世話役の土屋一正さんです。「え、まさか、こんなところに障害者がいるとは思わなかった。みんながそう思う現場で障害のある人が臆することなく活躍できれば、社会は変わっていくのだと思います。モータースポーツを愛する人間はチャレンジが大好きなんです。長屋さんが“もう一度走りたい”という熱い思いを示してくれたことで、今回私たちもいいチャレンジができました」

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土屋一正さん。チームの世話役として慕われています。

 

レース終了後に、「みんなでゴールをめざすのは楽しいです!また、来年も走りたい!」と語る長屋さん。一瞬も気を抜けないレース場の緊張感と互いのことを真剣に支え合う仲間との一体感は、これからも決して失いたくないと考えています。

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「Club Racing」のみなさん。レースを終えての記念撮影です。



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