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2024年4月23日(火)

“相続したくない土地”が続出! 所有者不明土地の波紋

“相続したくない土地”が続出! 所有者不明土地の波紋

使い道もなく売ることも難しい土地を相続したことで、名義変更や引き取り手探しに悩む人が続出。そのまま放置されて生まれた「所有者不明土地」は国土の24%に。国は4月から相続後の名義変更を義務化。不要な土地を個人間で売買できるマッチングサービスや有償で引き取る民間業者も現れる一方、土地を買い取り活用する自治体も。人口減少が進む中、土地管理の在り方を考えました。番組独自の相続チェックリストも紹介!

出演者

  • 吉原 祥子さん (東京財団政策研究所 研究員)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

土地を相続したけれど “所有者不明土地”の波紋

桑子 真帆キャスター:
私たちは土地を相続しますと、相続登記をします。その土地が、みずからの所有物だと国に届け出ることで、国も所有者を把握することができます。しかし今、この不動産登記簿上で所有者をたどれない、つまり国が持ち主を把握できていない「所有者不明土地」が国土の24%に上ってしまっています。背景にあるのが、この相続登記が任意であることでした。登記の必要がなかったことが、所有者不明土地の拡大につながってしまったんです。そこで、国は4月から相続登記を義務にし、相続を知った日から3年以内に手続きしなければ、10万円以下の過料の対象となるとしました。この制度変更を受けて、思わぬ事態に直面している人もいます。

実家や山林どう処分?

相続を機に、土地の扱いに頭を抱えているという坂本さん夫妻(仮名)です。9年前に、父親から引き継いだ鹿児島県の実家と土地の整理を進めています。

坂本さんの妻
「これは1年に1度、送られてくる固定資産税の課税明細書」

相続した土地が載っている固定資産税の明細書には、父からは聞かされていない土地の存在が。

都内在住 坂本さん(仮名・70代)
「何これって…。こんなにあったのかと、びっくりですよね」

引き継いだのは、実家に加えて、山林11か所と田畑11か所。50年以上前に地元を離れた坂本さんにとって、場所すら思い出せない土地でした。

坂本さんの妻
「道がないですもんね」

さらに、一部の土地の名義人は、父ではなく、名前も知らない曽祖母であることが発覚。曽祖母の死後、その土地は名義人が更新されていなかったのです。管理に手が回らないため、土地を処分しようと考えた坂本さん。処分の前に必要な相続登記を行い、土地の権利を取得することにしました。

坂本さん
「これが曽祖母の家系図」

亡くなった曽祖母が持っていた土地の権利は今、誰にあるのか。調べてみると、坂本さんを含め、権利を持つ人は100名以上に上ることが分かりました。一体、どういうことなのか。

実は、土地の名義人が亡くなると、その権利は子どもなどに自動的に割り振られます。坂本さんの場合、4世代にわたり手続きをしないまま相続が繰り返され、土地の権利が100名以上にも分散してしまったのです。全員の承諾を得て、権利を集約して、相続登記を行わないかぎり、坂本さんは、みずからの判断だけでは土地の処分ができないのです。

坂本さん
「まさかここまでとは想像しなかった」

そこで、坂本さんは弁護士に依頼して、他の権利者を探し出し、承諾を得ることにしました。中でも苦労するのが、承諾書に実印を押してもらうことです。

荒井達也弁護士
「やっぱり実印が大変です。(先方から)『なんで我々こんなことに巻き込まれているんだ』と。そこは丁寧にご説明して、1人ずつハンコをもらっていくという作業をしています」

およそ90人の承諾書は集まりましたが、残りの人とは連絡がつかなかったり、返事がなかったりする中で、地道な手続きを続けています。それでも坂本さんは、子や孫に負の遺産を残したくないと、2年以上、この問題に取り組んでいます。

坂本さんの妻
「これが3代ですね」
坂本さん
「このかわいい子どもに、もしこのまま(土地を)引き継いでいたら、こういう苦労をさせなきゃいけない。なんとかして、止めたいと思って」

これまでかかった費用は100万円以上。しかし、いまだ相続登記ができず、土地の処分や活用ができないままになっています。

こうした相続登記に悩む声は、全国で相次いでいます。相続登記の義務化に合わせて開かれている相談会には、多くの人が詰めかけています。

父が曽祖父名義の土地を所有
「(手続きに)動いたほうがいいですか」
司法書士
「例えば10年先、20年先にやると、当事者がまた1代増えるイメージなので」
夫から祖父名義の土地を相続
「(土地を)整理できないかなって。もう数えきれないじゃないですか、きょうだいが。ネズミ算でしょ」

“所有者不明土地”が住民の安全を脅かす

費用も時間もかかる、相続登記。なぜ、国は義務化に踏み切ったのか。

住民 上野直行さん
「空き家になってね、これ」
住民 堀内政八郎さん
「今のところ分からない、家主が」

背景にあるのは、相続登記が行われず、名義人が更新されないままの土地が増えたことです。今、そうした所有者不明土地は、地域住民の安全を脅かしています。

上野直行さん
「その辺から、すとーんと、そこまで落ちた」

地震と豪雨によって大きく崩れた、この崖。土地の所有者が分からず、6年間、放置されています。大雨の対策として、地域住民がお金を出し合ってブルーシートを設置。さらに、土砂を防ぐ壁も行政の補助金を得てつくり、急場をしのいでいます。

堀内政八郎さん
「いま現時点でも、雨降ったらザーッと(土地が)流れます」

住民は、雨が降るたびに、再び土砂崩れが起きるのではないかと危機感を募らせています。

上野直行さん
「所有者の方がちゃんと相続して、ちゃんと管理していければ、こういう草ぼうぼうの所とか、荒れ果てた所というのは、なくなるんですけれども、誰も手をつけられない、これは問題です」

“所有者不明土地” なぜ国土の24%も?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
このように管理が放棄された所有者不明土地というのは、さまざまな問題をはらんでいます。まずは周辺の景観、そして、治安を悪化させる。そして、今もありましたけれども、災害につながる。そして、その後の復旧の妨げにもなってしまう。さらには、公共事業の遅れを生じさせるということで、どう解消していけばいいのか。今夜は土地や国土の管理について国に提言も行っていらっしゃる吉原祥子さんに伺っていきます。よろしくお願いいたします。この所有者不明土地、国土の24%ですか。なぜ、ここまで膨れてしまったのでしょうか?

スタジオゲスト
吉原 祥子さん (東京財団政策研究所 研究員)
土地や国土管理について国に提言

吉原さん:
さまざまな要因があると思いますが、その中でも大きなものが、やはり相続登記が、これまで任意だったということがあると思います。明治から戦後、高度成長にかけて、私たちの中では、土地は資産であるという強い意識が生まれました。そして、資産価値が高いと思えば、相続登記が任意であっても、自分のものであるということを示すために登記をしようという意欲が湧きます。また、地方では、そこの土地に代々住み続けて、使い続けている限りは、たとえ相続登記を仮にしなかったとしても“あそこの土地は○○さんのものだよね”ということが分かっていた。ところが、時代が大きく変わって、人口が減り、土地需要が減ってくると、人口流出で都会にみんな出ていってしまうという中で、もらっても困る土地を相続して、わざわざ登記をしようという意欲も湧きづらく、また、地域の中でも“あの山は誰のものだっけ”と分かりづらくなってきた。そういうことから、社会の変化に対して制度が合わなくなってきているということが言えるかと思います。

桑子:
こうした土地、もっとも懸念されていることは、どういったことでしょうか?

吉原さん:
一つは、災害時の対応ということがあるかと思います。例えば、2011年の東日本大震災では、高台の移転のための用地取得のために、自治体の方々が用地取得を一生懸命されたわけですけれども、そこに所有者不明土地が多数見つかり、相続人調査、それから権利関係の調整ということで、多大な時間を使いました。そのために避難生活が長期化してしまうという結果になり、そうしたことは今後の首都直下地震とか南海トラフ地震でも同じような足かせになるだろうということが懸念されます。

桑子:
今回、相続登記が義務化されました。これで問題解消につながっていくと考えていいのでしょうか?

吉原さん:
今後の発生予防としましては、大きな第一歩であると思います。ただ、すでに長期間、相続登記がされていないものについて、これから登記をすることは簡単なことではありません。そこで、こうした登記をしっかりやりながら、今後こうした土地を発生させないための選択肢を、いろいろと増やしていくことが大変重要になってくると思います。

桑子:
この所有者不明土地を引き起こす問題に、どう対応していけばいいのか。吉原さんが注目されている制度があります。所有者不明土地・建物管理制度というもので、財産管理人を立てて、裁判所の許可を得れば、第三者でも所有者不明土地の管理ができるという仕組みです。この制度は、どういうふうに評価されていますか?

吉原さん:
所有者本人が管理できなくなった土地について、地域の方など第三者が代わりに管理を担えることは画期的な仕組みであると思います。ただ、所有者が不明であるということを、まずは確定させる必要があり、そのための住民票や戸籍を調べて探索をすることは、大変な労力がかかりますので、そう簡単に地域の方々が活用できるかといったら、なかなかそうでもないのが実際のところかと思います。

桑子:
では、個人で使いやすい制度として、こういったものがあります。相続人申告登記というものです。VTRの坂本さんのように、相続人が多くいる場合は、自分が相続人の1人だと申告すれば、相続登記の義務を果たしたと見なされて、罰則が免除されるというものです。ただ、これは注意が必要で、売却などには相続人全員の同意、そして相続登記が必要になっています。こうした所有者不明土地を、これ以上増やさないために、どうすればよいのか。今、ある民間サービスが注目されているんです。

土地のマッチングで所有者不明を防げるか

亡き祖父が所有していた山林の処分に悩んでいた女性です。

土地を処分した女性(40代)
「うっそうとして、段差がある」

奈良県にある使い道のない小さな山林を、2023年、意外な方法で手放しました。

土地を処分した女性
「持っている不動産の情報を登録して、値段も自分で設定して」

利用したのは、土地のマッチングサイトです。みずから値段を付けて、サイトに出品。面積や周辺の状況など、土地の情報を掲載し、購入希望者を募りました。

土地を処分した女性
「おじいちゃんには要るものかもしれないけど、要らないから『すみませんが処分します』って」

不動産会社経由では、数か月たっても買い手が見つからなかった、この山林。このサイトでは、その日のうちに購入希望の連絡がありました。売却価格は1円です。

土地を処分した女性
「処分できれば、ありがたい気持ちだったので、最低金額で。『欲しいの?』って驚きの次に『気に入ったん?』という驚きで、『どうやって使うの?』って、ずっと驚きのほうが大きいです」
購入者
「この辺りが買った所です」

購入したのは、アウトドアや狩猟が趣味の男性です。

購入者
「下(のスペース)を徐々に広げていこうかな」

人手があまり入っておらず、趣味を楽しめる山林を探していました。支払ったのは、運営会社への手数料を含めて8万8,001円。不要とされた土地に新たな価値が生まれました。

購入者
「『イノシシよく出る』って聞いた。『これは買いやな』って、すぐ思いました。利用価値、高いです、自分からしたら。結構、楽しい土地です」

このサイトを通じて売買された土地は、2年で90件に上ります。山菜採りや家庭菜園などを楽しみたいという人からも注目を集めています。

運営会社は、処分に悩む土地とニッチな需要を結びつけることで、所有者不明土地が増えるのを防げないかと考えています。

土地マッチングサイト運営 小林弘典さん
「このままだと日本(の土地が)何にも使われていない、滅んでしまうんじゃないかと感じ、社会課題の解決をしたいという気持ちが大きかったです」

さらに、運営会社は買い手が見つからない土地に別のサービスも用意しています。

小林弘典さん
「引き取りをした物件の権利書のごく一部です」

有償での土地の引き取りサービス。これまで500以上の土地を会社が引き取ってきました。

土地の所有者から、固定資産税や木の伐採費用など、管理にかかるコストの5年から10年分を支払ってもらいます。土地を引き受けた会社は、管理をしながら次の引き取り手を探すという仕組みです。
父親が持っていた北海道の山林を引き取ってもらった女性です。

松本さおりさん(50代)
「こちらの原野の所です」

管理できず、周囲に迷惑をかけるのではないかと不安を抱いていた、この土地。自治体への寄付も断られる中、このサービスを利用することにしました。会社に支払った費用は58万円。決して高いとは感じなかったといいます。

松本さおりさん
「それぐらいの金額と言うと、語弊はあるかもしれないですけど、それで私のモヤモヤした心配事がスッとなくなるんであったら、(お金を)出さない理由がない、ぜひお願いしたい。ただただホッとした、そのひと言だけです」

民間取引に課題も

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
こうした民間のサービスは、所有者不明土地を、これ以上増やさない一助にはなると考えていいですか?

吉原さん:
大変、重要な仕組みだと思います。ただ、その一方で、こうした有償の引き取りサービスには課題もあると感じております。現在、こうした企業は全国に20から30社ほどあると言われているんですけれども、その中には、引き取ったあと、十分な管理ができる態勢がないまま事業を行っていたり、倒産のリスクがある会社もあります。一般の不動産の売買や賃貸借の仲介などにおいては、国の法律や資格制度があります。ところが、この引き取りについては、今のところ、そうしたルールがない状況です。そこで、こうした引き取りサービスを健全なマーケットとして発展させていくために、国のほうで、しっかりとしたルールを整備していくことが急務であると考えます。

土地引き取りサービスの懸念点
◆土地の管理をしない業者や倒産リスクある業者も
◆管理・規制する法制度がない

桑子:
安心して利用できるサービスであってほしいですからね。こうした中、今、自治体が土地を引き取って、管理に乗り出すという取り組みが始まっているんです。

管理できない山林を自治体が買い取る

兵庫県佐用町(さようちょう)。所有者が管理できない町内の山林を、町がみずから買い取っています。

佐用町 農林振興課長 井土達也さん
「この辺りの山林が、今回、町で買い取りした山になります」

買い取り価格は、土地1平方メートルにつき10円。利用価値の高いスギやヒノキなどがあれば、その量に応じて、買い取り金額をアップします。

井土達也さん
「この黄色い所が、町有林になった山林の場所になります」

2年前から町が始めた、この事業。山林の管理に悩む所有者から買い取りの申請が相次ぎ、その件数は約280件に上ります。

井土達也さん
「相続財産として受け取ったけど、町(都市)に出ているので管理できませんと。所有者不明になる前に、(森林は)公益的機能を持つので、町民共有の財産として、行政が責任を持って管理するべき、率先してやろう」

なぜ、税金を投じてこの事業に踏み切ったのか。背景にあるのは、町を襲った2009年の豪雨災害です。管理不全の山林が被害を拡大させました。当時、山から流れ出た大量の木々が川をせき止め、浸水被害が拡大。死者・行方不明者の数は20名に上りました。

町長の庵逧(あんざこ)典章(「逧」は一点しんにょう)さんは、未然に災害を防ぐため、行政の責任で山を管理するという決断を下しました。

佐用町 庵逧典章町長(「逧」は一点しんにょう)
「こういうことが二度と起きないように対策をしなきゃいけない、そういう思いは、本当に強かった。個人の責任で(山の)管理をしていくのは難しいと、公的な管理、形に持っていかざるをえない。究極の選択です」

買い取った山の管理は、地元の森林組合と連携して行います。切り出した木材を販売することで、町が負担する管理費用をまかなおうと模索しています。

井土達也さん
「経済として林業を続けていくことによって、自然と山が強くなる。結果オーライで、全体がよくなれば、いちばん理想的かなと思います」

土地は誰がどう管理?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
このように民間と連携して、土地の管理を模索する自治体は他にもあります。千葉県柏市では、使わない空き地の所有者と、使いたい民間団体をマッチングする取り組みが行われています。例えば、憩いの場ですとか、ガーデニングの場としての活用を促して、行政はそのサポートをする仕組みです。

さらに、国も所有者不明土地の新たな発生を予防する対策を打ち出しています。相続土地国庫帰属制度というものです。これは、国に対して負担金を支払って、土地を引き取ってもらう仕組みです。ただ、引き取る土地の条件として「そこに建物がない」とか「崖地ではない」などが設けられていて、相談に対して、実際の申請はこれぐらいになっていますけれども、これは、どういうふうに見たらいいのでしょうか?

吉原さん:
要件が厳しすぎるのではないかといった声も、多々聞かれるんですけれども、まずは、こうした国が引き取る制度ができたということに、大きな意義があると思います。ただしこれはあくまで最終手段でして、いろいろな手を尽くして、どうしても引き取ってもらえる機会がなかったときに、国庫に帰属させるというものです。この所有者不明土地問題は、万能薬はないと思っております。さまざまな日頃からの予防策や、それから、こうした万が一のときの最終手段などを組み合わせながら、有効な土地の利用活用を実現していくことが大事かなと思っております。

桑子:
そこには、ご紹介した自治体と民間との連携なども、どんどん進んでいったらいいと思いますけれども、私たち一人一人がどういう意識を持っていったらいいと考えたらいいでしょうか?

吉原さん:
所有者不明土地問題の一つ一つのケースは、本当にミクロな単位です。うちの実家どうしようか、その土地を適切に登記をするか、管理をするかというその日々の小さな行動が、地域の土地利用、まちづくり、災害時の復興、そして、国土管理という大きな、みんなの問題につながっていきます。そういう意味で、公共の問題だと思っております。そこで、日頃から、今、自分たちの持っている土地、家屋どうしようかなと話し合って、そして、人口減少時代の適切な土地の利用管理のサイクルを作っていくことが求められていると思います。そして、その中で今、国は本当にいろんな政策を打ち出しています。それを活用していくための支援も必要ですし、法律の専門家、民間の団体、いろんな方々が活躍しています。そうした方々と連携していくことが重要です。

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